| とある土曜日。リンはジンと二人でホグズミード村を回っていた。スイすら伴っておらず、完全に二人きりだ。「デートね!」と浮かれていた友人たちの配慮の結果である。彼女たちがなぜ当人以上にはしゃいでいたのか、リンにはわからない。
そういえば、ジャスティンはどうしているだろうか。リンをジンのもとへ送り出すことを渋って騒ぎ、最終的にベティの失神呪文を食らってアーニーに浮遊呪文で回収されていたが……大丈夫なのだろうか。
「……あ」
つらつらと考え事をしつつジンの世間話に相槌を打ちながら歩いていたリンは、ふと足を止めた。隣を歩いていたジンもつられて立ち止まる。
「どうした?」
「あ、いえ、ちょっと」
「アクセサリーが気になるのか?」
リンの視線の先を追ったジンが首を傾げる。的確な言葉に苦笑して、リンはあいまいに頷いた。気をきかせてくれたジンと一緒に、ショーウィンドウにてアクセサリーを展示している雑貨屋へと入る。
「………」
女子グループと学生カップルが多い空間に、ジンが閉口する。一方のリンは、とくに気にした様子もなく、すいすいと人の間を縫って歩いていく。ジンと同じくこういう場を苦手としていそうなイメージだが、女子であるぶん抵抗感は薄いようだ。
ふだん「あまり女子らしさを感じない」と評価されるリンの意外な一面を見た気分を感じつつ、ジンは彼女からはぐれないよう無言でついていった。周りからの視線がすこしだけ煩わしいが我慢だ。
アクセサリーが置いてあるブースで、リンは足を止めた。じっと興味津々な目でアクセサリーを眺め、ひょいとバングルを手に取る。リンがショーウィンドウで目をとめたものと同じものだ。
「……かっこいい」
「………、それは男物じゃないのか?」
繊細で洒落たデザインだが、全体的に無骨で質素な印象を受ける。装飾に疎いジンの目から見ても、女子用ではないとわかる。確認するように問うと、リンは「そうですよ?」と首を傾げた。
「デザイン的にもサイズ的にも男性用でしょう」
「リンはそういうものを好んで着用するのか?」
「え、ちがいますけど」
「なら、だれかへのプレゼントか?」
「プレゼントというか……あの、ジン兄さんに似合いそうだなって」
言うや否や、リンは淡く頬を染めた。わたわたと「ごめんなさい、ジン兄さんの好みじゃないですよね」などとまくしたて、バングルを棚に戻す。ジンは慌てて「いや」と声を張り上げた。
「俺のことを考えてもらえて、うれしい。たしかに俺はあまり装飾品を身につけないが、それは俺の好みに合ったデザインだし、なによりリンが選んでくれたのなら身につけたい」
好意を無碍にしないよう気をつけ、かつ自分の気持ちをきちんと正しく伝えるべく、懸命に言葉を口にする。なんとか言い終えたジンがホッとすると同時に、リンの頬の色が深みを増した。口を開閉するものの言葉はなく、どぎまぎした様子で視線を下げる。
「……いやぁ、なかなか大胆な殺し文句ねぇ」
リンの横にいた店員らしき女性が、微笑ましそうな雰囲気で笑みを漏らした。瞬きをするジンを見て「君が選んでくれたものなら慣れないものでも身につけたいだなんて、もう、うれしいこと言ってくれちゃって」とカラカラ笑う。
「………、……っ?!」
ハッとした素振りで、ジンは右手で口元を覆った。冷静に客観的に自分の発言をリフレインして気づいた。自分、いま、かなり気恥ずかしいセリフを言った。じわじわと顔に熱が集まってくる。
互いに赤面して黙りこくる二人を見て、店員は「あら?」と困った顔をした。もしかして余計なことを言っちゃったかしらと気まずそうに口元に軽く手を当てたあと、苦しまぎれの営業スマイルを顔に浮かべてジンへと声をかける。
「坊やは彼女さんになにか見繕ってあげたりしないの? こんなかわいらしい子、着飾ったらさぞかしきれいでしょうに」
「いえ、リンは着飾らなくともきれいなので」
「……ああ、そうなの」
一瞬で硬直を解いて真顔で即答するジンに、店員は困惑の色を声音ににじませた。どうしよう反応に困る。まじめで恋愛に慣れていなさそうなのに、意外と彼女を溺愛している感じか。あまりにも率直なべた褒めに彼女がさらに赤面してるじゃないのよ。
「……だが、そうだな。たまには飾るのもいいかもしれない。これとか、リンに似合いそうだ」
勝手に自己完結して、ジンは髪飾りを手に取ってリンに合わせてみせる。慣れていないわりにセンスがよく、店員の目から見ても似合っていた。
「ブレスレットならこれがいい。リンの手首は華奢で色白だからな、よく映える」
「え、あ、ありがとうございます」
柔らかく目を細めるジンに、ようやく硬直から立ち直りつつあるリンがぎこちなく礼を言う。もうなにがなんだかだが、とりあえず合わせておこう。
「かわいいです、これ。……あ、ロゴがそのバングルと同じですね。デザインもなんとなく似てますし」
「ああ、ほんとうだな」
「これならペアみたいな感じでつけられそう」
「ペアか……いまの若者カップルの間では人気らしいな」
ふむと一考するように顎に手を当て、二つの商品の値札を確認したあと、ジンはひとつ頷いた。
「たまには流行に乗るのも悪くない。値段も手ごろだし、買うか」
「え、買うんですか?」
ふだん不必要な出費を好まないジンが、珍しい。吃驚するリンを見下ろして、ジンは首を傾げた。
「せっかくリンと俺が二人そろいで身につけられるものを見つけたんだ。買って損はないだろう」
淡々と言うジンに、リンは瞬きをしたあと、頬を緩めて「そうですね」と首肯した。同意を得てジンが見るからにホッとする。じゃあレジに行くかと動き出す二人を見て、それまでアウェー感に身をひそめていた店員がレジへと誘導しにかかる。
「……おそろい、はじめてですね」
ひっそり小声で、うれしそうな顔のリンがジンへと囁いた。ジンはぴたりと足を止め、一拍のち振り向いてリンを引き寄せた。無言で己の胸元でリンの頭を抱く(抱きしめると表現できるほどには密着していない)ジンと、赤面し慌てふためくリン。
またもやアウェー感のなかに放り出された店員は、ぼんやり「私も彼氏とデートしたいわぁ」と現実逃避した。
**あとがき** るんるん様リクエスト“「世界」主でジンとホグズミードデート”でした。「甘々な感じ」を出すべく、ジンにがんばっていただきました。彼は付き合いだしたら「世界」主を溺愛するかと。従兄として見せる過保護と相まって、すごいことになりそう。 この二人だと、おしゃれなカフェでの談話とか町並みの散策よりお買い物シーンが似合う気がするのはなぜだろう。お買い物デートかお家デートなイメージ。
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