「ねえ、ママ、どうしてぼくらのパパはふたりいるの?」

「ほかのこたちはひとりなのに」

 こてりと首を傾げた息子と娘の問いに、リンは飲んでいた紅茶を吹き出しかけた。すんでのところで耐えたが。

「……あー……それはね……」

 冷や汗をかく。非常に深刻というか気まずい問いだ……どう答えるべきか悩む。純真無垢な瞳でじっと見つめられているから、余計に。

 ねえどうしてー? と答えをせがむ二人に必死で頭を回転させていると、ただいまという声とともにリビングのドアが開いた。ビルの帰宅だ。

「おかえりなさいパパ!」

 ビルにたいそうよくなついている娘が顔を明るくした。キラキラした目でビルに駆け寄る。ビルは頬を緩めて娘を抱き留め、よっと抱え上げた。

「ただいまモリー。アーサーも。いいこにしてたか?」

「うんっ」

「とーさん、パパはー?」

「チャーリーならまだ仕事じゃないかな」

「ふーん……」

 至極残念そうな顔をする息子に、ビルが「俺じゃ不満かい?」と困った顔をする。息子はチャーリーっ子だから仕方がない。いいじゃないか、娘はビルっ子なんだから。と、リンは視線だけで慰めた。

「ところで、いまなにしてるんだ? 夕食の準備ではなさそうだけど」

「ママにしつもんしてた!」

「あたしたちのパパはなんでふたりなの?」

「そりゃあ、俺とチャーリーが二人ともリンを大好きだからだ。大好きな人同士がパパとママになるんだ、おまえたちも知ってるだろ? まあふつうは一対一だろうけど、うちは特別。俺とチャーリーは仲良くリンを半分こしてるのさ」

「なかよくはんぶんこ!」

「そうそう、おまえらがいつもやってることだ」

 いつも言われる父母たちの言葉を無邪気に真似して笑う息子と娘と、にっこり笑って畳みかけるビル。リンは頭が痛くなった。

「ちょっと、変な価値観を持っちゃったらどうするの」

「大丈夫だろ、大人になるまでに現実を知ってくさ」

 飄々と流して、ビルはさりげなくリンに歩み寄った。何かと不思議そうな顔をするリンの唇に自分のそれを重ねる。娘が「あー!」と声をあげ、リンが赤くなった。

「ばっ、子どものまえでなに、」

「夫婦の仲の睦まじさは子どもの情操教育に不可欠らしいよ」

「だからって、」

「パパずるい! あたしもママとちゅうする!」

「ぼくも!」

「え、そっち?」

 俺とキスしたいんじゃないのかと問うビルに、娘は「だってパパよりママのほうがれあだもん」と返す。ビルは「そうかレアか、俺の愛は安売りみたく受け取られてるわけか」と遠い目をする。

 その間に、娘はビルの腕から身を乗り出して、リンの頬に唇をぶちゅーとくっつけた。かわいらしいキスにリンの頬が緩む。小さいほっぺたにキスを返したあと、リンはTシャツのすそを引っ張ってくる息子のためにかがんだ。

「ただいまー……ってなんだこの状況」

 ガチャリとドアを開けたチャーリーが目を丸くした。なんだと言われても……息子にほっぺチューをされているリンと、娘にほっぺチューをさせてもらっているビルの図としか言えない。

「おかえりパパ!」

 息子が目をキラキラさせてチャーリーに駆け寄る。どーんと足にタックルを食らっても揺るがないチャーリーの安定さはすばらしい。おかえりなさいと挨拶しながらリンは思った。

「……とりあえず夕食つくろうかな」

「お、じゃあ今日は俺がつくるよ」

 ニッと笑みを浮かべ、娘を下ろしたビルがキッチンへと入り込む。腕まくりをしながら「パスタにしよう、ミートソースパスタ」と呟くビルのあとを、娘と息子(手伝いたがり)がヒヨコよろしく追いかけていく。

 微笑ましいと頬を緩めていたリンに影が差し、顔を上げたリンとチャーリーの唇が重なった。にかりと「ただいまのキスな」なんて笑うチャーリーに、リンは「兄弟そろってなにするんだか」と呆れた。

「おっし、じゃあ俺はサラダつくるか! ポテトサラダ!」

「ぼくてつだう!」

 腕まくりしたチャーリーに息子が元気よく挙手した。今日も娘に負けてビルの隣から退けられたらしい。視線を流せば案の定、ビルと娘が仲睦まじく調理をしていた。

「チャーリー、風呂は?」

「今日は職場で入ってきたぜ」

「ぜ!」

「はは、二人ともドヤ顔が似合うなあ」

「なあ」

「モリーは安定のかわいさだな」

「アーサーも負けてねえぞ」

「パパもとーさんもちがうよ、いちばんかわいいのはママ」

「こら口説くな。俺のリンだぞ」

「俺たちの、だ」

 相変わらずアホらしいというか、恥ずかしい会話をする四人だとリンは思った。じわりと熱くなった頬が見つからないよう、そっと顔をそむける。耳にわいわいにぎやかな声が届いて、くすぐったいと感じた。



**あとがき**
 サカナ様リクエスト“「世界」主の未来ifでビルとチャーリーで重婚(一妻多夫)している話の続きでもし子供(できれば女の子と男の子の双子)が出来たらのほのぼのとしたお話”でした。
 書けるか不安だったんですが、いざ書き始めれば筆が乗る。無邪気な年ごろの子どもを登場させれば自然とほのぼのになるのでありがたい。すごいわちゃわちゃした家庭になりました。ウィーズリー家のイメージってこんな感じです。
 子どもに名前変換をつけるか迷ったのですが、結局つけませんでした。夫二人の両親の名前です。ご容認願います。あと双子要素が薄かったです申し訳ない。



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