廊下を歩いていたら、赤い光線が飛んできた。結界ではじいて、飛んできた方向へと目を向ける。グリフィンドール生二人とスリザリン生一人がバトル中だった。離れたところで野次馬がはやし立てているのを見るに、けっこう派手にやっているらしい。

 長髪の杖から出た光線が標的に当たり損ねて、またこちらに飛んでくる。リンは再び結界でいなして、やれやれと進路を変更した。歩いていきながら、長髪の手足に石化呪文をかけ、逆さ向きで空中に吊し上げる。残る二人の手からもついでに杖を回収すると、慌ててあたりを見渡していた。リンを見つけたセブルスが顔をしかめる。

「……邪魔をするな、ヨシノ。加勢なんかいらない」

「加勢ではないよ。ブラックの呪文が二度も私のほうへ飛んできたから不快に思ったの」

「仕方ないだろ、スニベリーが避けるから悪いんだ」

「……悪いのはスネイプ、ね。人通りの多いところで呪いの応酬をすることはまちがってないって思ってるのかな。私じゃなくて下級生に当たって怪我をさせてもそんなことを言うのかな。上級生にもなって、他人に迷惑をかけたときに出る言葉が『仕方ない』だなんて、恥ずかしくないのかな。『ありがとう』『ごめんなさい』っていう言葉を素直に言えない人間はクズだって教えてもらわなかったのかな。ねえどうなの」

 真顔で静かに淡々とつづられる言葉に、シリウスが閉口した。たしかに正論である。非を認めるしかないかと考えるシリウスへと、ジェームズがジェスチャーを送る。解読するに、「とりあえず謝っとけ相棒」。瞬間、ジェームズがシリウスと同じ体勢になり、さらにリンによって耳を引っ張られた。

「痛い! 痛いよヨシノ、なにするんだい?!!」

「ヨシノうるさいから、とりあえずテキトーに謝っておけばいいよ相棒。とか伝えてるから、イラついて」

「心読まないで!」

「なるほど図星なんだね。メガネ屠るよ」

「カマかけたの?!! ひどいっていうか屠るってなに?!! なにするの?!!」

 わめくジェームズに一言「うるさい」。ジェームズの口が“お口チャック”状態になった。リンは意外と短気である。けっこうな数のひとが知っている事実だ。相棒に対して心中でドンマイとつぶやきつつ、シリウスは「なあ、リン」と声をかける。無感動な目をかち合った。

「……調子に乗った。悪かった」

「スネイプには?」

「……………………悪かったな」

「……………………ああ、僕こそな」

 沈黙の多さから葛藤が読み取れるなとリーマス(ずっと傍観していた)は思った。ちなみにこれ、リンが仲裁に入るたびに見られる光景である。何度もやっているのに屈辱的な表情を和らげられない二人に苦笑する。というか、これをやるたびに憎悪が増していっている気がする。うーんと悩むリーマスのまえで、リンがシリウスとジェームズを解放して、彼らとセブルスそれぞれに杖を返した。これで元通り……いや、ジェームズの口は閉じたままだったが。

 セブルスが眉間に皺を寄せたまま、ジェームズを最後に一にらみして立ち去った。野次馬たちも散りはじめる。リンもくるりと踵〔きびす〕を返した。ピーターが慌てて「ジェームズの口は?!」と声をかける。振り返ったリンは、ジェームズを見て瞬きし、「口閉じてたほうがモテるんじゃない?」と首をかしげた。そういう問題じゃない。男四人は一斉に思った。代表してシリウスが「あのな」と意見する。

「しゃべれなかったら不便だろ」

「でもブラックなら意思疎通できそう……一心同体、以心伝心だって噂だし」

「お、おう、まあな」

 なに乗せられてるんだよ。という意をこめて、ジェームズがシリウスの足を踏む。シリウスは「冗談だって、わかった、悪かったよ」とつぶやく。リーマスが苦笑した。リンは「ほら、以心伝心」と感慨深げにひとりごちて、すいと視線をジェームズの口元へやった。ジェームズの口が開いて「うおっ」と声が漏れる。

「……じゃあ。説教のためとはいえ、意地悪してごめんね」

 ひらりと軽く手を振って、リンは今度こそと歩きはじめた。なんだかんだと時間を食ってしまったので、これからの予定の時間配分が変わることになりそうだ。考えながら足を進めるリンのあとを、長い足を使ってシリウスが追う。気づいたリンは歩を緩めて視線だけで振り返った。

「どうしたの?」

「あー……ちょっと、誘いにきた」

 微妙に視線をさまよわせつつ、ぶっきらぼうにつぶやかれる。リンが「誘い?」と不思議そうに瞬くと、「ホグズミード」と単語が返ってきた。そういえば来週末だが、それがどうしたんだろうか。

「暇なら一緒に回らないか?」

「……参考までに聞くけど、計何人で?」

「………ふつうに考えて二人だろ。俺と、おまえ」

「二人なの? どうして? ポッターたちと一緒じゃなくて大丈夫なの?」

「察しろ」

 疎いにも程があるだろと内心で呆れるシリウスである。自分の想いが成就する確率の低さを突きつけられた気分だ。イヤになる。いや負ける気はないけれども。「私は君とそこまで親しくないし、君と趣味や好みもちがうだろうから、あまり楽しめないと思う」とか、けっこうグサッと刺さってくるが、なんとか持ちこたえる。

「楽しいかどうかは俺が決める。俺がおまえと二人がいいって言ってるんだから、それでいいだろ。で、行くのか行かないのか」

「んー……まぁ、君がそれでいいのなら、いいよ」

「……っしゃ。んじゃ来週末な。忘れんなよ」

「うん。ちなみに、後日やっぱり楽しくなかったとか言われても責任は負いかねますのでご了承ください」

「………そこまで堅苦しく構えなくていいから」

 売買契約か何かでありそうな文句に、さすがに頬が引き攣る。リンらしくておもしろいっちゃおもしろいけども。やっぱりなんかズレてるよなぁと感想を抱きつつ、シリウスは足取り軽く友人たちの元へと帰った。とりあえず上手く誘えたので良しとしよう。



**あとがき**
 今鹿様リクエスト“「世界」if ナツメではなく「世界」主が親世代と同級生だったら”でした。お相手はシリウスとのことでしたので、彼との絡みを多くしたつもりです。
 甘さがあんまりなかった。せっかく親世代IFだし、スニベリーいじめに出くわしたらどう反応するのか書いてみようと思ったのが悪かったのか。あまりシリウス夢っぽくない出来になってしまった……遺憾。お気に召しませんでしたら遠慮なく申しつけくださいね。



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