| ふらりと一人で校内を散策していると、ふだん出会わないようなものに出くわしたりする。たとえば、自寮の後輩と他寮の後輩が口論している場面とか。
「討論と口論って、境目がイマイチわからないものだよね。注意すべきか、判断に困ってしまう」
「っうわ、リン?!!」
ひょいと彼らの頭上に頭を突っ込んで呟いてみると、吃驚した表情が向けられた。自寮の後輩たちはすぐに顔を輝かせてリンの名前を呼んできたが。
「リン! ちょうどいいところに!」
「ガツンと言ってやってください!」
「まず状況を説明してくれるかな」
冷静に頼むと、アーニーたちではなく、ハーマイオニーが簡潔かつ的確に説明してくれた。次のクィディッチの試合(ハッフルパフ対グリフィンドール)でどちらが勝つか、かなり白熱した議論を交わしていたらしい。なるほど。
「そういえばもう来週末だったね」
「え、今週末ですけど」
「日曜である今日を週のはじめととらえるか終わりととらえるかの違いだね。私は日曜は週末派なんだ。よって次の土曜は来週末」
「いやそのあたりはどうでもいいんですけど……」
ロンが控えめに言った。ジャスティンが睨むような眼光でロンを見たが、リンが「いいツッコミだね」と述べると敵意を収めた。さて話を本題に戻そうかと思ったとき、リンはふと視線を廊下へと向けた。見知った人物が早足で歩いてくる。
「リン、エドガーを見なかった?」
「とある女の子とデートに出かけるって、さっき更衣室で言ってたでしょう。今日はみんないいプレイだったからフィードバックもザックリでいいよなーとか言って、手早く述べてさっさと解散号令を出して去っていったじゃない」
「……それ、もしかして僕がボールを片づけに行ってるときかい?」
「ああ……そういえばそうかもね」
神妙な顔つきで頷くリンに、セドリックは乾いた笑みを浮かべた。「だから更衣室に戻ったときにだれもいなかったのか……」と落ち込む彼に、リンは「あれ、ロバートが残って伝えとくって言ってたんだけど、いなかったの?」と首を傾げる。
「だれひとりいなかったよ……」と視線を下に向けるセドリックの肩を、リンが無言でポンとする。ハリーたちも思わず同情の視線を送った。
「ごめんねセドリック、ロバートがバカなの忘れてた」
「いや……ロバートはバカでは……」
「自分で言ったことすら忘れるんだよ? バカでしょう」
「……うん、そうかもね」
うまいフォローが思いつかないのか、セドリックは首肯した。ハンナたちが「なんか試合の勝敗、自信なくなってきたわ……」と額を寄せ合って囁きはじめる。セドリックが慌てて笑顔を取り繕った。
「いや、大丈夫。クィディッチのプレイに関しては、ロバートの実力はすばらしいものだよ。ねえ、リン」
「些細なことで頻繁にほかのプレイヤーと口論するけどね」
「リン、それは言わないでおくべきことだよ」
「不都合な事実を隠すなんて情報操作、好きじゃない」
「勇ましいな……君のそういうところ好ましいけど、ときと場合によるんじゃないかな」
のんびりズバッとものを言うリンに、セドリックが適宜ツッコミを入れる。何なんだろうこの人たち……とハリーたちは思った。
他寮の先輩なので接点がなく、それゆえ、クィディッチもうまくて成績も優秀で人柄もいい優等生コンビ、つまりキラキラした上層階級の人たちだと思っていた。密やかな憧れが揺らぐ感覚。いや、それでもかっこいいと思う気持ちは消えないのだが。
「そういえばセドリック、次の試合でどちらが勝つか熱く口論してたらしいよ、彼ら」
ふと思い出した風情でリンがハリーやアーニーたちを示した。いきなり話題の中心に引っ張ってこられて、ハリーたちは萎縮する。一方のセドリックはきょとんとしたあと、ふと柔らかい笑みを浮かべた。
「どっちが勝つか……か。それは僕にもわからないな。グリフィンドールはいい選手がそろってて、いつも強いから」
「優秀なシーカーもいるしね」
リンがハリーを見ながら賛同し、セドリックも「そうだね」と頷く。雲の上な先輩たちに褒められて、ハリーは顔が熱くなるのを感じた。
「でも、おいそれと勝ちを譲る気はないよ。僕らも僕らなりに自分のチームは強いと自信を持ってるし、一生懸命に練習してる」
「本気で試合に臨むから、よろしくね」
にっこりと二人そろって微笑まれ、ハリーは固唾を呑んだ。笑顔から伝わってくる自信というか圧力が半端ない。こういうところに年の差を感じる。気圧される反面、やっぱりかっこいいひとたちだと感動を覚えた。
「……じゃあ行こうか、セドリック。エドガーのフィードバック、簡単に教えるよ」
「ああ、うん、頼む。じゃあね君たち、喧嘩はしないように」
どことなく困ったような顔で言い残し、セドリックは先を行くリンを追っていった。ハリーたちは静かに立ちつくす。
「……去り際までかっこいいとかずるい」
「同感」
ぽつりとしたロンの言葉にしみじみと頷く。ハーマイオニーは「はじめてこんなに近くで見たけど、やっぱりきれいなひとだったわ」とほんわかしていた。
「……クィディッチ競技場って、あいてないよね」
「たぶん。たしかスリザリンがなぜか予約してたはずだけど……なぜ?」
「いや、ハリーと話したら練習したくなって」
視線を空へと向けながら言うセドリックに、リンは「ふぅん」と無感動に相槌を打つ。そういうものなのか。他人と比べて競争心が薄いリンにはよくわからない。だが、なんとなく気持ちは汲み取れる。
「……ハグリッドの畑あたりなら、頼めば貸してくれると思うよ。クアッフルならローレンスが個人用のを持ってるし」
不安なら結界を張るし、やる? と首を傾げると、セドリックはうれしそうに頬を緩めて首を縦に振った。そうと決まればメンバーに声をかけるかと、進行方向を修正して歩を進める。
「……勝ちたいな」
ぽつりとこぼされたセドリックの言葉を拾い、リンは「うん、勝とう」と頷いた。
**あとがき** カナリア様リクエスト“if「世界」もし、主の学年がセドリックと一緒だったら”でした。恋愛要素について言及がされていなかったので、友情夢っぽい感じで書かせていただきました。 書いていたら後輩(本編では同輩)夢みたいな感じになってしまった……セドリック夢を目指したはずだが、なぜ。でも楽しかったです。 同い年で恋愛要素がないバージョンだと、セドリックはツッコミ役の友人ポジになると思います。本編のアーニー的な。よくも悪くもボケる「世界」主やエドガーに、ポンポン言ってくれる人物かと。
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