謙也くんでペアプリネタ


*ペアプリ3巻に掲載されたカゴプリネタです。それと、夢主の言動がうざいと感じるかもしれません。*


 ある朝、教室に入ると、机の上でくたばっている謙也君を発見した。驚いた。屍かと思った。なんだあれ。あまりにも生気がない彼の様子に、クラスメイトたちが全員そわそわ気まずそうな雰囲気になってしまっているではないか(頼りの白石氏は不在)。

 笑いとノリに命をかける四天宝寺生としてどう反応すべきか、私は一瞬で判断した。すばやく謙也君に歩み寄り、チロルチョコを供え、そっと両手を合わせる。

「……遺恨なく安らかに成仏したまえ」

「………なんでやねん……」

 のそのそと謙也君が身じろいだ。ごろりと頭が動き、突っ伏していた顔が光のもとに現れる。うわあひどい顔だ。いつもよりゲッソリしている。

「どうしたんだ謙也君。いつものあの無駄で腹立つ輝きはいったいいずこ」

「なんで古語……しかも日ごろ俺に腹立っとったんかい……」

「ああ言葉にも覇気がない。しかしツッコミ精神は健在のようで安心したよ。それで、その憔悴の原因は何だ? なにか深刻な悩みでも抱えているのか? 50m走のタイムが13秒台にでもなってしまったのか」

「んなわけあるかい。栄光あふれる5秒台のままや」

 先ほどより覇気のあるツッコミになった。思ったより元気そうだ。ほっと一息をついて鞄を床に置く。そして謙也君の隣の席をお借りして、彼の話を聞く姿勢を取る。

「それで、謙也君、何があった?」

「いや、たいしたことやないんやけど……諸刃の剣にやられてん……」

「それは……あれか。ついに厨二病を拗らせてしまったということでオーケー?」

「ちゃうわアホ」

 あえてボケてみたところ、本日いちばん力強いツッコミが返ってきた。おお、だいぶ気力が戻ってきた。ほくほくしつつ詳しく説明を求めると、謙也君はポツポツ話しはじめた。

「昨日からずっと、侑士から嫌がらせLIMEがぎょうさん届いてん。せやから、こっちも嫌がらせLIME送ったろ思て、侑士のきらいな毛虫の写真を撮ろうとしたら」

「なるほど察した。毛虫のノロノロした動きに参ってしまったというわけだな」

「無念や……」

「アホだな謙也君。負けるとわかっていながら挑むなんて」

「今日は勝つつもりやったわ。昨日の放課後に一度惨敗しとったからな、リベンジのつもりやったんや。まあ結果は今日も惨敗やったけどな」

「ダメダメだな」

 やれやれと首を横に振る。謙也君は「うう……」と呻いた。もぞもぞと両腕に顔をうずめだす。

「なんで毛虫はあない動きが遅いねん。そんなんやから鳥に食われてまうんや。おまけに直線的な動きばっかしで、もうホンマ食われるフラグしか建ててへんやんか。食われたいんか、マゾか、カニバリズムか」

 だいぶ精神的にやられているらしい。思考が変な方向へと向かっている。私はしばし逡巡したあと、パッと思いついて立ち上がった。謙也君の腕をポンポンとたたく。

「そう落ち込むな、謙也君。私が代わりに毛虫の写真を撮ってきてあげよう」

「えっ、ホンマか! さすが××や! ほな頼むわ!」

 持つべきは友達やんなと目を輝かせる謙也君に「任せろ」と親指を立て、私は教室を出た。

「おい××、どこ行くんや。これからホームルームやで」

「由々しき緊急事態なんです。謙也君の仇討ちなんです。彼に二度も致命傷を与えた毛虫に挑んでこないと、謙也君が浮かばれないんです。なので退出許可をなにとぞ」

「俺が死んだみたいな言い方すんなや!」

 ドアのところで先生に敬礼をしていると、謙也君から声が飛んできた。途端、教室内に笑いが起こる。謙也君が元気になったので、クラスメイトたちのテンションも戻ってきたらしい。喜ばしい。先生も「おまえら相変わらずおもろいな」と笑った。

「よっしゃ××、行ってこい」

 先生から快く許可をいただき、私は中庭(毛虫の生息域)へと向かった。



「謙也君! 無事に任務を遂行してきたぞ!」

「おおきに! さすが××や!」

「確認してくれ。ざっと100枚ほど撮ってきた」

「多いわ! どんだけ撮ってきてんねん! 俺の画像フォルダ毛虫だらけやないか! キモっ!」

「数があったほうがいいかと思って」

「ありすぎても困るっちゅー話や……嫌がらせか、おまえ……」

「心外な。10%くらいは善意なんだぞ」

「10%しかないんかい! 90%は悪意か!」

「いや、悪戯心と遊び心という名の愛情表現」

「たいして変わらんわ……」

 はぁ……と重い溜め息をつく謙也君。スマホを見つめて、がしがしと後頭部を掻き、「ホンマ毛虫だらけや……鳥肌立つわ」とぼやく。私はそっと視線を下げた。

「……ごめん……謙也君のためになるかと思ったんだけど、さすがにやりすぎたよね……気持ち悪くてごめん……」

「なにしてんねん、謙也。せっかくの××サンの好意を無碍にする気かいな」

「え、いや! いやいやいや! 責めとるわけちゃうで!? ちょおびっくりしてもうただけで、アレや、その、××には感謝してんねんで! 俺のためにホンマおおきに!」

 さりげなく便乗してきた白石氏とともに謙也くんをじわじわ責めてみると、見るからに焦った様子でまくしたてた。実におもしろい。いじっていて飽きないというか。

 内心でクスクス笑いながら、私は「そう言ってもらえてうれしい、謙也君。ありがとう」と笑顔を浮かべておく。周囲で笑いながらグッと親指を私へと立てているクラスメイトたちには、謙也君に見えないようピースサインを返しておいた。

「それより謙也、はよ従兄弟くんに写真送れや!」

 クラスメイトの一人が急かした。謙也君は「おう、せやな!」と我に返り、スマホを操作しはじめる。「見とれや、侑士! 積年の恨みを晴らしたるで!」とウキウキする謙也君がアホかわいい。

「……送らず仕舞いやろなあ」

 ぽつりと白石氏が呟いた。私が視線を向けると、白石氏は苦笑混じりに「さっき侑士クンとLIMEやっとったんやけど」とスマホの画面を見せてくれた。それを見て、私は「……あらら」と声を漏らし、自分のスマホを構える。

 撮影開始ボタンを押すと同時に、謙也君が「はぁあ?!!」と派手に吃驚の声を上げた。愕然とした表情で「ありえへん!!」とスマホを凝視する。白石氏が「やっぱりなあ」と溜め息をつく。

 従兄弟君は「しょうもないケンカやし、よお考えたら今回の原因は俺やろうから、ぼちぼち謝っとくわ」という言葉を実行に移したようだ。

「なんやねん、これ! 俺だけやられっぱなしで終わりやないかい!」

「ドンマイ謙也君」

 荒れる謙也君を動画におさめながら、私は笑いかけておいた。私の毛虫撮影も無駄に終わったわけだが、いまこうしておもしろい謙也君の姿を撮影できたので構わない。あとで白石氏と財前君にも動画を送ってあげよう。二人とも私と同じく謙也君大好きだから喜ぶだろう。



 そんな日もあるさ
 (いざ準備ができた途端に必要なくなるパターンね)


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 ペアプリを読んでひらめいて書いた文章が、出てきました。うわ懐かしいと思いました。ちょこちょこ修正してアップしておきます。
 謙也くんがかわいいんですがどうしたらいいんでしょう。いやかっこいい謙也くんも好きなんですが、どうしてかいじられキャラポジションにしたくなる。ステキなツッコミ&いじられ要員だと思います。

お題配布元:Tantalum

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