南と、彼女さん



「……なあ、××は、俺のどこが好きなんだ?」

 ある日、私の彼氏である南が、私と向かい合って昼食を取っているときに、至極真剣な(というか、必死な)表情でそう言い、私を見つめてきた。

「………」

 私はパチパチと目を瞬かせ、とりあえず口の中にある昼ご飯を咀嚼した(口にものを入れたまま喋るのって、許されるべきじゃないよね)。

 口を動かしている間も、私と南の視線は合わさったままだ。初心で奥手なあの南が、なんとまあ積極的。そんな冗談めかしたことを私は思った。

「……どうしたの、南。そんなに見つめてくるなんて。キスでもしたいの?」

 ようやく口の中を空っぽにした私が少しだけ首を傾げて言うと、一瞬置いてから一気に南の顔が赤くなった。

「な……っあ、いや、あの、そうじゃなくて……!」

「わぁ、ショック。南は私とキスしたいとは思ってくれてないんだね」

「それは違う! そういうのは、いつだって思って……る……」

 私の言葉に、南はワタワタと慌てたかと思ったら今度は照れて、私から顔を逸らして口元を手で覆う。耳まで真っ赤だ。

「南、可愛い」

「……複雑なんだが……」

 私がニッコリと笑って言ったセリフに、南の眉間にちょっとだけ皺ができた。うん、やっぱり可愛い。眼福だ。私が上機嫌で南を見つめていると、また南が顔をこちらに向けてきた。

「は、話を元に戻すけどな」

「うん」

「その……××は、俺のどういうところを好いてくれているんだ?」

「……南、もしかして、私のこと疑ってる?」

 はて。私は、彼に浮気だと見なされるようなことをしただろうか……。ここ最近の記憶を手繰り寄せ出した私を見て、南は焦った様子で身を乗り出してきた。

「いや、俺は、××のことを疑ってなんかいないぞ」

「……そっか。よかったぁ……」

 ホッと安心して、私は頬を緩めた。南に本気で疑われてたら私きっと泣く(でも南の前で泣くわけにはいかないから、ここでは我慢しなきゃいけなかっただろうけど)。そして数日は家に引き籠る。無論、日がな一日泣いているだろう。

「………」

 嫌だなぁと想像していた私は、ふと視線を感じて、前を見た。南が何とも言えない顔をして、じっと私を見つめている。……変な顔でもしてるかな。ちょっと顔の表情筋を緩めすぎてたかな。私は慌ててキリッとした表情を作った。

「……そ、れで。質問の答えだけど」

「……っ、あ、ああ」

 南はビシッと背筋を伸ばして話を聞く体勢に入った。それを見て、私も目を閉じて考える体勢に入る。

「……真面目で、責任感があるとこ、とか。周りがよく見えてて、人に気配りができるとこ……とか。ひたむきで、芯が強くて、コツコツ努力できるとこ。忍耐強くて、懐が大きいとこ。地味'sって呼ばれてるのを、ちょっとだけ気にしてるとこ。落ち着いた良い部長であろうと頑張ってるけど、焦ってるときとか失敗したときには、表情に出ちゃってるとこ。存在感が薄いせいで、話すタイミングを逃したり、人に忘れられたりしてるときの、寂しそうな横顔とか、気づいてもらおうと頑張ってるときとか、可愛いなって思う」

「そ、そうか……」

「一番好きなのは、予想外のことに慌てたり、焦って失敗したり、一生懸命やったのに空回りしちゃったりするとこ。何ていうか、すごく、可愛い。ぎゅーっと抱き締めたくなる、みたいな」

 ごん、と鈍い音がした。頭の中で“一番好きな南”を思い浮かべていた私は、その音に驚いて目を開いた。見ると、南がすぐ横にある壁に頭をぶつけている。

「どうしたの? 大丈夫?」

「……お、おう……」

 痛そうと心配する私に、南は体勢を立て直して、困ったように笑った。

「あ、そんな風に笑う顔も好きだよ」

 私が付け足すと、今度はお茶を飲んでいた南が突然むせ出した。私は目を丸くする。本当にどうしたんだろうか。しかし、大丈夫かと聞いても、南は「大丈夫だ」と頷くだけ。あまりに必死なので、それ以上追及できない。

 私は諦めて、話題をちょっとだけ逸らした。

「ところで、なんでそんな質問するの?」

 純粋な疑問を口にすると、南は固まった。目を瞬かせる私の前で、気まずそうに視線を左右あちこちに彷徨わせる。

「あー……それは、その……」

「南?」

「………」

 ついに、南は観念したように溜め息をついて、ぽつぽつと語り始めた。

「……この間、クラスの男子が××の話をしていたんだ」



『××さー、結構イイよな。普通に可愛いし、明るいし、話しやすいし』

『でも××って、南と付き合ってんだろ?』

『マジで? ありえねー。南とか、どこにでもいるよーな奴じゃん。どこがいいんだよ』

『まあ確かに、南には悪いけど、ちょっと不釣り合いだよな』



「……南、そいつらの名前、分かるなら今すぐ言って」

「落ち着け、××。俺は別に気にしてない」

「気にしてるから、さっき私にあんな質問したんでしょ」

「………」

 黙り込む南に、今度は私が溜め息をついた。些細なことで気に病むのは南の少し悪い癖だ。まあ、私は南のそんなところも好きなのだが(認めよう、ベタ惚れである)。

 私はちょっと手を伸ばして、南の頬に触れた。私よりちょっぴり体温が低い肌だ。私に視線を向けてくる南と目をしっかり合わせて、私は微笑んだ。

「南の良さを分かってないような奴らの言うことなんて、いちいち気にしなくていいからね? 外野には、勝手に言わせとけばいいんだよ」

「……××は、逞しいな」

「頼りない彼氏を守ってあげなきゃだから」

 ふふ、と笑って私が言うと、南は微かに眉を顰めた。

「……そう言われると、男として、少し傷つくな」

「じゃあ、早く男前に成長してね」

「お、おう。任せろ」

 ぎこちなく頷く南にクスクス笑って、私は食事を再開した。

「……**」

 不意に名前を呼ばれて、私は咀嚼していたものを飲み込んで南を見る。南は穏やかに笑っていた(あ、今、キュンと来ました)。

「今日は早く部活が終わるから、久しぶりに一緒に帰ろう」

 突然の嬉しい誘いに、私は目を瞬かせたあと、思い切り頬を緩めて笑った。



優しくて普通のひと 
 (十分魅力的でしょ?)


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 まさか南が一番手とは……驚きです ←
 でも、お題を見て真っ先に浮かんだのが彼だった……。
 ヘタレだけど時々男前な南が好き。山吹で真っ先にリア充になるといい。そして千石辺りにからかわれて真っ赤になってたりすると、爆死する。sincere が。

お題配布元:サンタナインの街角で
 

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