| ホグズミードでブラックについての話を聞いた翌日、リンはいつも通り朝早くに目を覚ました。
寝室にはリンとスイ以外誰もいなかった。なぜかと疑問を抱いたリンだったが、すぐにクリスマス休暇に入ったのだと思い出した。つまり、みんな帰省しているのだ。
習性で手早く着替えを済ませ、リンは寝室を出た。談話室にも誰もいなかった。今年もハッフルパフ生は、リン以外全員がクリスマスを家で過ごすらしい。さぞ宿題がはかどるだろうなと思いながら、リンは静かに寮を出た。
外はとても寒かった。マントを持ってこればよかったと少し後悔したリンは、せめてと自分の周りに薄く結界を張って、冷気を遮断した。玄関ホールを横切り、大広間を覗き込むと、やはり誰もいない。退屈そうに振り返って、玄関ホールを眺め渡し、リンはふと瞬いた。
一昨年も、こんな風に朝に一人で歩いていたことがある。あのときはクィレルに見つかって話かけられたんだっけ……感慨深く回顧して、リンは玄関ホールの外を見やった。
一面銀世界で、さらに雪が降っていた。朝食を済ませたらスイと、ついでにハリーたちも誘って雪合戦でもしようか。思案して、リンは口元に笑みを浮かべた。
十五分ほど一階を歩き回ったあと、リンは散策にも飽き、寮へ帰ることにした。スイはまだ寝室で眠っていた。雪が降っている日のスイは起床時刻が遅いので、リンは特に気に留めなかった。
スイが自力で起きるまでそっとしておこうと思い、リンは宿題を手に談話室に戻り、暖炉の近くのテーブルにそれを広げ、順番に取り掛かった。
最初に「占い学」をすべて一気に片づけた。そのあと「魔法史」のレポートを三分の一ほど書き、飽きたので「変身術」のレポートを四分の一作成し、まだスイは起きないのかと呆れつつ「古代ルーン文字学」の課題図書を十一ページ翻訳した。それから、ついにリンは、立ち上がって宿題をテーブルの端に寄せ、スイを起こした。
「もっと早く起こしに来てもよかったのに……」
大きな欠伸を隠しもせず、スイが言った。
「退屈だったろう?」
「べつに。宿題やってたから」
「馬鹿かい君は。休暇一日目くらい遊べよ」
子供らしくない……とブツブツ言うスイを無視して、リンは彼女にマントを着せ、腕に抱えて再び大広間へ向かった。今度は何人か ――― ほとんど教員だったが、中にいた。リンとスイは、いつも通りハッフルパフのテーブルの一番端の席に着いて朝食を取った。
リンが朝食を終えた頃、ハーマイオニーが大広間に入ってきた。ひっそりとした雰囲気で、テーブルから食べ物を取ってはナプキンに包み出す彼女を見て、リンは立ち上がった。スライスされていたバナナを(器用にもフォークを使って)食べていたスイは、最後の一切れを口に放り込み、サッとリンの肩に飛び乗った。
「おはよう、ハーマイオニー」
傍まで行ったリンが挨拶すると、ハーマイオニーは飛び上がった。勢いよく振り返ったハーマイオニーは、声をかけたのがリンだと気づくなり、肩の力を抜く。
「ああ、リン……もう、脅かさないでちょうだい」
「ごめん……ロンとハリーは?」
ハーマイオニーは表情を僅かに暗くした。
「……ハリーはまだ寝てるの」
「……そう」
リンは納得して、ハーマイオニーの隣に腰かけた。スイがテーブルの上に降り、まだ食べ足りないのかリンゴに手を伸ばす。それを横目に、リンが杖を取り出して一振りすると、どこからともなくバスケットが現れた。それをテーブルの上に置き、ハーマイオニーが包んだものを中に入れる。
「元気ない?」
「分からないわ……ベッドにカーテンを引いて、寝てるっていうか塞ぎ込んでるって、ロンが言ってたの。たぶんショックなのよ……あんな……」
一回言葉を切って、ハーマイオニーは用心深く周囲を見回した。二回ほど教員テーブルに視線を走らせたあと、声をぐっと潜めた。
「あなたは大丈夫なの?」
「え? あぁ、うん。ハッフルパフにはまだ誰も侵入してきてないよ」
「そっちじゃなくて! つまり、その ――― 自分の父親が、あの……そう、友人として望ましくないことをしたって知って、バカなことを考えてないかって聞いたのよ」
「バカなこと?」
「たとえば、ハリーに合わせる顔がないとか」
「まさか」
かぼちゃジュースとアップルジュースのボトルを二、三本ずつ失敬してバスケットに押し込みながら、リンが言った。ハーマイオニーは静かにリンを見つめて、リンの言葉が嘘ではないと判断したようだったが、そこから何を返そうか迷っているようだった。
「……私、父親について、たった二つのことしか知らなかったんだ」
リンが先手を打った。ハーマイオニーが静かに息を詰める。
「西洋人で、純血。知ってたのは、それだけ。名前も、顔も、どこでどう育った、どんな人なのかも知らなかった。だからさ、私、父親からは本当にまったく影響を受けてないんだ」
視界の端で、スイがヒョイと尻尾を振ったのが見えた。これは彼女が興味津々で話を聞いているときの癖だ。リンは、フルーツをいくつか適当にバスケットに放り込んだ。
「私は、ハリーに対して後ろめたいことなんか何もないよ。だって私は“父”とは別の存在で、ハリーの害になることは ――― 私の思う限り、何もしてないんだから」
「……そう。それならいいの」
しばらく沈黙が流れた。スイはついに食事を終えたようで、リンの肩によじ登る。彼女を一撫でして、リンはふと教員テーブルを見て、ハグリッドがいないのに気がついた。何かあったのだろうか? 疑問に思ったリンは、あとで小屋を訪ねてみようと決め、立ち上がった。
「じゃあ、ハーマイオニー、ロンとハリーによろしく」
簡単に挨拶をして、リンはスイを連れて大広間を出た。誰もいない場所に行ったら即行でスイから質問攻めに遭うんだろうなと、リンは覚悟をした。
→ (2)
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