「今朝の新聞を読んだかい? アズカバンの集団脱獄について?」


「ああ、読んだよ」


「まったく恐ろしい状況だと思わないか? そうとも、とてつもなく危険な状態だ……我らが DA 活動の重要性がより増してきている。なにしろアンブリッジは、このような事態に陥っているにも関わらず、依然として、」


「アーニー、少し声を落とした方がいいぞ」



 演説じみたアーニーの発言を遮って、アルバが視線を巡らせた。スリザリンの上級生のグループが、なにやら盛り上がった様子で、近くを通りかかるところだった。アーニーたちの顔が青くなる。


 しかし、スリザリン生たちは、アルバたちには目も向けず、騒がしく通り過ぎた。ハンナがホッと肩の力を抜くのが、アルバの視界に入った。



「……僕たち、ほんとに DA に力を入れるべきだよ」



 不意に、アルバの背後に隠れていたデニスが言った。スリザリン生のグループを、じっと睨みつけている。



「あいつら、いつも僕に呪いをかけて楽しむんだ……仕返ししてやりたい」


「こら、デニス、私怨の仕返しで呪いをかけるのはよくないぞ」



 正義のヒーローは、自分以外の誰かを守るために戦うものだ。デニスの頭に手を置いて言い聞かせつつ、アルバは、微妙な笑みを顔に浮かべた。



「……まあ、呪いをかけられるのは仕方ないさ。俺たちは、あいつらよりずっと年下で、おまけにマグル出身者だからな。あいつらにとっちゃ格好の餌食だ……」


「 ――― そんなこと、アルバたちが虐められる理由にはならないわ!」



 自嘲するように笑ったアルバの言葉に、ハンナが激昂した。その場にいる全員が目を丸くする。六人分の視線の先で、ハンナはアルバを見つめていた。



「年下でもマグル出身者でも、アルバは、あの人たちよりずっとよくできた人間だもの!」


「 ――― ……」



 まっすぐな目と向き合って、アルバは息を詰めた。ハンナがこんなにも強い光を目に宿したところを、アルバは初めて見た。ゆらゆら揺れている目なら、何度も見てきたが。



「……それ、は……ハンナ、俺のこと、買いかぶりすぎだ」



 困惑しながら、アルバは、もごもごと言葉を発した。途切れ途切れの言葉を聞いたハンナは、瞬きをして、首を傾げた。



「だって、アルバはいつも、私が失敗しても責めずに明るく笑い飛ばしてくれるし、私が落ち込んでるときには励ましてくれるわ」



 それは、トラブルに陥る度にハンナが泣きそうな顔をしているからだ。女の子の泣き顔はあまり見たくないと思っているため、必然的にそういった対応になる。それとなく伝えようとアルバが口を開く前に、ハンナが、いつものようにニッコリと笑った。



「だから、アルバはとってもいい人なのよ」



 純真無垢とでもいうべきか。そんな笑みを前にして、アルバは何も言えなくなってしまった。よく分からない複雑な感情が、胸のなかに沸き起こる。むずがゆい。


 どうしよう、どう返答したらいいんだろう……。アルバは悶々と悩んだ。自分とハンナの周りでは、コリンやアーニーたちが、居たたまれないように視線を合わせ身じろいでいる。彼らの姿を認識しつつも、アルバにはどうしようもなかった。助け舟を出してほしいのはアルバの方だったのだから。




 君が笑うから
 

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