パンジー・パーキンソンとヘンリー・フォスターは、いわゆる幼馴染という間柄であった。ともに純血貴族の出身であり、両親同士の仲も比較的良好。そのため、互いの家を気軽に行き来し、一緒に遊んだり勉強したり、時には悪戯をして怒られたりするような、そんな親しい仲だった。

 そう。そんな親しい仲「だった」のだ。ホグワーツの入学式において「組分け帽子」が彼らの寮を組分けするまでは。

 純血主義の貴族は、通常スリザリンに組分けされるものだ。その通り、パンジーは「組分け帽子」を悩ませることなく、スリザリンに入寮した。一方、ヘンリーは「組分け帽子」を少し悩ませた後、なんとハッフルパフに組分けされた。

 べつに、純血の生徒が在籍している寮は、スリザリンに限らない。ハッフルパフ生にも、マクミラン、アボット、ボーンズなど、由緒ある純血の者がいる。だから、ヘンリーがハッフルパフに組分けされたことは、まったく奇妙なことでは、決してない。

 しかし ――― 正直に言って、ハッフルパフは「劣等生の集まり」というイメージ(偏見)が強い。それに、ハッフルパフに選ばれる生徒の特性は、スリザリン生のものと正反対だ。

 グリフィンドール生ほどに相容れないとは思わないが、あまり仲良くできそうにはないと、パンジーは常々思っていた。また、ほかのスリザリン生たちもそんな感覚を持っているだろうと、薄々感じていた。

 ドラコ・マルフォイは(パンジーの予想通り)即行でヘンリーを「軟弱者」と切り捨てた。ビンセント・クラッブとグレゴリー・ゴイルも同様だった。

 ミリセント・ブルストロードは、最初は顔をしかめるだけだったが、ある日、ヘンリーがマグル出身の生徒をドラコの嘲りと呪いから庇ったことを機に、彼を露骨に嫌うようになった。

 ダフネ・グリーングラスは、ヘンリーへの態度をとくには変えなかった。もともと彼らは、出会ったら挨拶し、場合によっては世間話を少しする程度の仲であったため、ダフネが心中でどちらの立場を取っていたとしても、大きな波は立たなかった。

 セオドール・ノットやブレーズ・ザビニは、自分から積極的にヘンリーと関わる姿勢は取らないものの、ヘンリーを拒むことはせず、ふつうに接した。どこの寮に所属していても純血は純血だと思っているのか、何なのか。もとから他人にあまり興味を示さない二人なので、彼らの胸の内は分からない。

 ほかのスリザリン生たちは、しばらく様子を見ていたが、徐々にヘンリーを「裏切り者」と蔑視するようになった。スリザリン系統の一族の出身であるヘンリーが、魔法族ともマグル出身者とも隔てなく接しているからだ。

 パンジーは、ヘンリーの元来の性格(穏やかで心優しく、まっすぐ素直で、ちょっとした博愛主義を持っていること)をよく知っていたので、それほど驚きも動揺もしなかった。ただ、複雑な想いに頭と胸とを締めつけられ、ひどく悩んだ。

 悩み迷いつつ、パンジーはヘンリーから距離を取った。分かりやすく避けたりはしなかった。ただ、人目を気にして接したり、同じ寮の友人たちを優先したり、自分からヘンリーに声をかける回数を少なくした。

 決別したわけではない。そうしたいと思っているわけでもない。ただ、戸惑っていた。判断がつかなかったのだ。寮のちがうヘンリーと親密な関係を保ってもいいのか、思想がより近いと考えられる者たちを取るべきなのか。自分がどうしたいのかすら、分からなかった。

 一方、ヘンリーは、パンジーとの関係について悩みも迷いもない様子だった。

「おはよう、パンジー」

 朝食の時間、ヘンリーは毎日スリザリン寮のテーブルに足を運び、にこにことパンジーに挨拶をする。もちろんパンジーの周りにいる生徒たちにも挨拶する。ドラコが眉をひそめようと、先輩たちから不審そうな目で見られようと、まったく意に介さない。

 パンジーが先に朝食の席にいれば、大広間に入ってすぐ駆け寄ってくる。ヘンリーのほうが先であれば、わざわざ朝食を中断して駆け寄ってくる。そして、パンジーから挨拶を返してもらい、ほわほわした口調で一言二言たわいない話をして帰るのだ。

 一度、その様を指してザビニが「主人に構ってもらいたがる子犬みたいだな」と茶化した。間髪入れずにミリセントが「パンジーの顔のほうが犬っぽいわ」と言ったので、パンジーとミリセントの口論が勃発し、ヘンリーからザビニへの反応は得られ損なった。

 その代わりヘンリーは、ミリセントに向かって「パンジーはかわいい人間の女の子の顔をしてるよ」と珍しく強い語気で言い、パンジーを初めとしてクラッブやゴイルまでもを含んだ全員を硬直させた。

 そのあとの会話はよく覚えていないが、パンジーは熱のあまり死んでしまうのではないかと思うほど身体を熱くしたことはよく覚えている。

 幼いころから、ヘンリーはパンジーを優しく丁寧に扱ってくれた。ホグワーツに入学して異なる寮に組分けされてからも、それは変わらなかった。新しく得た友人たちよりもパンジーを優先してくれた。

 パンジーはうれしい反面、気まずい気持ちになった。ヘンリーはとても親しくしてくれるのに、パンジーは彼から距離を取っている……しかし、彼の親切に応えるのは無理だった。そんなことをしたら、スリザリンで孤立してしまう。パンジーは一人になるのが怖かった。

 もしヘンリーがスリザリンに入っていたら、なんの問題もなく、あの親密な関係が続けられただろうに……。そして、パンジーの学校生活は、もっと楽しいものになっていたはずだ……。そう思う度、パンジーはいつも悔しくなった。

 蛙の子は蛙。パンジーたちスリザリン生は、しばしば他寮の(仲のよくない)生徒からこう言われる。一族代々純血主義の「いやな」やつらだと。べつに傷つかないし、むしろ見下して笑ってやるので、そんなことを言われるのは構わない。

 ただ一つだけ、パンジーは思うのだ。

(……ヘンリーも『蛙』でいてくれたら、よかったのに)


 蛙の夢

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