「前髪、切ってやろうか。」
「え、いいです。」
「伸びてきたろう。」
「いやいや教官ちょっとまってあたし、」
「なんだその目は、俺が不器用だとでも言いたいのか。」

むっとして思わず目つきが鋭くなる。
何気ない会話がなぜこんなにもつっけんどんに、荒々しくなってしまうのだ。
「そんなこと言ってません!」
そういう郁だって目つきが。
多少なりとも長くなった前髪が大きくひらいた目にはいりそうで、すこしひやひやする。
長いまつげがかろうじてそれをはじいて、
(長い。)
なにを考えてる、俺は。
ふっと軽く頭をふった。なんとなく、くらくらしてしかたがない。
(あせってるのか、俺は。)
決まりが悪いとでも言えと、そういうことか。

「…教官?」
「…なんだ。」
「いや、いきなり黙り込むから。」

目の大きさがすこし変わった。細められたその目元は、なんとなくけなげだ。
(あぁ、なんだ、なんていえばいい。)
ぐるぐると頭の中が回る。
とっさに、郁のすこし明るい髪に触れた。

「こんなに伸びてちゃ、目が悪くなるだろうが。」

(さらり、)
精一杯に一言告げて、やわらかい髪質を指先に残す。
くそ。いつもと同じことしてるのに、意識するとダメだ。
ぱっと手を離すと、なんだか逃げたような気がしてすこしイライラする。

「教官こそあれですよ、前髪伸びすぎ!」

人のこと言えるんですか!なんて、かみつくように言ってから、前髪に、触れた。

顔が近いのは気のせいだろうか、やけに奴のにおいにくらくらして、「うるさい!」と言って歩き出した。
「まってくださいよ!」とあせる声も、なんとなくかわいいと思えてしまうあたりが重症なのだろう。

(…くそ、)

さっきから心臓がうるさくてかなわない。
後ろから聞こえる声と連動しているような気さえして、大きくため息をついた。
なんとなく、熱っぽいため息だったのは気のせいじゃない。



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