いつもどおりの学校は、きっとこれからもずっと、ずっと変わらないだろう。

そう、思っていたんだ。


決して平和とは言い難い目の前の惨劇。
飛び交うのはダイナマイト。
金属同士がぶつかる音。
時折聞こえる叫び声。

どうして、こうなってしまったのだっけな。
時は30分前にさかのぼる。



暖かい気候。
さすがは温帯。
いまだ梅雨入りすらしてもいなく、夏にはまだ遠いと言うのにもかかわらず煌々と照りつけるのは太陽。

「………だる…。」

きっと誰もこちらに目を向けていないであろう現状。
クラス内で嫌というほどに目立つ獄寺隼人と山本武は、じゃんけんで負けてクラス中の買出しにいっている。ただいま自習時間真っ最中。

教師という教師が出張やら風邪やらなにやらかにやらで一斉に学校を空ける日というのは、年に1、2回あるかないかであって。
そんな貴重な自習時間、クラスを見張る先生は3クラスに1人。絶好のサボリ日和である。

実際、教室内はうるさいし、誰もが浮かれている。

あの目立つ二人がいなければ、こちらを見るなんていう物好きは、このクラスにはいないのだ。
当然沢田綱吉はだらけて机につっぷしているし、通称ダメツナが勉強をしているなんて誰も思ったりはしない。
テストは入学時以来全て赤点。
スポーツはまったく出来ないし、
顔だって、良くもなければ悪くもない。つまりは普通。
そんな「ダメツナ」は、今日も元気にダメツナライフを続行中!

と、いうわけが、あるはずもない。

沢田綱吉は機嫌が非常に悪かった。
つまり、虫の居所が悪い。
いや、悪い所ではない。
最悪だ。

「……暑い。」
「……うるさい。」
「……気持ち悪い。」
「……シャワー浴びたい。」

「……最悪。」

どこまでも収まる事を知らないこのイラつき。
クラス内はうるさいし、外の太陽が邪魔に思える。
最後には、腕を伝う汗すらも、うっとうしい。

「沢田ー、数学のノート要る?」

黒川の元気な声。
頭に響いて、不快指数が急上昇。
しかし、ここで素に戻ってしまったら今までの苦労は全て台無しになってしまう。
せっかく、目立たないようにしてきたのだから。

「…うん、貸して?」




誰も見たことのないノートがあった。
数学、国語、英語。
社会、理科、その他。

どれも自分で作ったノート。

字は基本丁寧に書いているけど、
ダメツナ用と、


そうじゃないほうに、



相変わらずの暑さ。
まだ先ほどの会話から何分もたっていなく、特に何もせずにぱらぱらとノートだけめくって、黒川に返す。

「ありがと」
「どういたしまして」

にっこりと微笑むと、その瞬間に大きな音が発生した。

ジリリリリリ!

音と共に発せられたのは、どうやら教員の声。

『生徒、教職員、共に、ただちに校外へ避難!繰り返す!生徒、教職員、……!!』

そして、
ダイナマイトの爆発するらしい音。

「ツナ君、早く逃げないと!」

顔を真っ青にするのは笹川京子。
腕を引っ張ろうとするけれど、どうやら俺、もう、我慢できないから。

「ごめんね、笹川。
先に行っててもらえる?」


驚いた表情のまま顔を赤く染める笹川京子を外へと連れて行き、非常口からきびすを返して爆発音のするほうへと向かう。
そこは、化学準備室の前にあるホールだった。
4つの影+αが動き回っている。
そこにいるのはどうやら獄寺と山本、ヒバリさんに了平お兄さんだけではなかったらしく、もういくつかの影はせわしなくナイフやら銃やらを放ってくる。

「ボンゴレの次期ボスはどこだ!さっさと出せ!!」

叫ぶその台詞から、どうやら俺を狙っているらしいことがわかった。

「ださねぇと、こいつをぶっ殺すぞ!!」

人質。
きっと、人質がいるのだな。
響く銃声。爆音。その中で、やけに冷静な頭の中。推測だが、人質というのは女の子なのだろう。
そのせいで、4人が手を出せないのだとすると。

「…面倒だなぁ…。」

今まで隠してきたもの、ここで出してしまってもかまわないだろうか。
そう思ってしまうくらいにこの悲惨な状況がうっとうしかった。


考えているうちにどうやら敵の近くにきていたらしい。

「んなっ、なんだてめぇはぁ!!」

少々訛りのある日本語。きっと、彼らはこの国の人間ではない。だめだなぁ。同じ外国人でも、ディーノやらには間違っても訛りなんかないのに。
的外れに相手を侮辱すると、その瞬間、眼前に手榴弾。

ドォン!!


大きな爆音と共に、女の子の声の悲鳴。
4つの驚きの声に、いくつかの笑い声。
熱い爆風。したたる赤い液体。

「…ってぇ………」

頭がさえてきた。
もういいや。

「どうにでもなれ。」

立ち上がった瞬間に、血のにおいが鼻をついた。
ゆっくりと歩みを進めると、どうやらこちらに気がついたらしい獄寺の声がした。

「じゅ、十代目!?なにしてるんですか、あぶな―――」
「だまれ。」

空気が凍るとは、きっとこのことを言うのだ。

「さっきはいいもんお見舞いしてくれたじゃんか?
覚悟は、まさかできてるんだろうな?」

目の前の男は息を飲んだらしい。
上下する喉仏を押さえ込み、喉をつぶす。
ゴクン…と、奇妙な音がした。

「っが…、ぁ……!」
「あんたらさぁ、うっとうしいんだよ。なに?俺になんか用があるわけ?だったら俺を探し当てて直接言えよ。」

押さえつけていた男の喉を解放し、人質らしい女の子を捕まえる男に歩み寄る。
女の子は、うちのクラスの生徒だった。
いつも俺をバカにし、嘲笑っていた女。

「…めんどくさ。」

ため息をついてから、女の子の肩に手をやり、それを台にして飛び上がる。
男の顔面に膝蹴りを入れるのは簡単だった。

「…弱いし。」

固まるのはその場にいた4人と女の子、そして何人かの敵。

「何固まってんだよ。早く残りのやつら消せって。」

眼力とやらを駆使して4人を動かすと、ソレからは速かった。一気に片付いていく敵。最後に縛りあげたのは、遅く登場しやがったリボーンとディーノ。

「遅い。早く来てくんないから素に戻っちゃったじゃん。どう責任取ってくれんの?」

初めのうちに教えておいたリボーンにそういうと、リボーンはニヤリと笑って早々とどこかに電話をしにいってしまった。

「…わけわかんねぇよ。アホ。」

呟く綱吉の雰囲気というものは、いつものダメツナとは全く異なったものだった。
誰もが驚愕に目を見開く中、綱吉は悠然と笑ってみせた。



学校の修繕はボンゴレの権力を駆使し、早々と爆薬や銃弾などで開いてしまった穴を修復した。
そのため、学校は事件の翌々日には平常どおり解放された。
綱吉が学校に来た瞬間、驚くようなものが下駄箱いっぱいに詰み込まれていた。様々な色や形の封筒や、箱。

「…なんなんだよ、これは。」

誰もまだ自分の実態を知らない。
そう思っていたため今もなおダメツナを続行中だったが、ポロリと素が出てしまった。
数々の疑問を抱えたまま、部活中の山本や遅刻してくるらしい獄寺の助けを借りられるはずもなく、なぜだか用意されていた紙袋いっぱいに下駄箱の中身を詰め込み、階上に足を運ぶ。
廊下を歩くと、後輩がこちらをちらちらと見てきているのが分かった。
先輩もそうだ。+、声をかけてくる。
同級生にいたっては、不気味だった。
いつもはどの学年の生徒よりも綱吉のことをバカにしていたやつらは、こちらを見てニヤニヤしている。
男子はこちらを見たとたんにニヤつきながら目をそらすし、女子はこちらを見ると、パッと顔を赤らめて目をそらす。
なんだってんだ。
なにがどうなっている。
なんで、俺は今比較的目立ってしまっているんだ。
地味な生活は、どこへ飛んでいってしまったのだ。

「…やってらんねぇ……。」

呟くと、後ろからいきなり声をかけられた。

「よう、ツナ!お前、とんでもねーことになってんなー!」

山本。山本、ちょうどよかった。部活終わったんだ。ねぇ、俺なんかした?どうなってんの、これ?
あくまで演技をし続けながら苦笑気味に微笑んで問いかけると、山本は一瞬きょとんとしてから笑い出した。なんか、これはこれでむかつくな。

「なんだ、やっぱり知らなかったのか!そうだよなぁ、あれ売ってたやつら、どう考えてもツナには内緒的な雰囲気だしてたもんな!」

売ってた?なにを?いつ?誰が?

「昨日、ツナ学校来なかったからしらねーんだなぁ。
昨日さ、なんかしんねーけど学校中のやつらの家のポストに『学校に1:00集合』なんつー手紙が入ってたらしくてよ、俺んちのポストにも入ってたんだがな。
昨日学校ないはずなのに、工事中の学校の隅っこに並中生が集まってよ、黒ずくめのやつらがなんか売ってて、皆がソレ買ってんだよ。」

ソレとは?

「みたいか?たぶん今学校中のやつらが持ってるもの。」

みたいな、是非。

「じゃんじゃじゃーん☆」


時が、止まった。


差し出されたのは、何枚かの写真。
1枚目は、微笑んでいるもの。
2枚目は、物憂げなもの。
3枚目は、運動をしているらしいもの。
4枚目は、風呂上り。
5枚目は、寝顔。
うつっているのは。

「…う、そ、だろ…?」

つい素に戻ってしまうのは、仕方がないことだと思ってしまうのは、きっと俺だけではない。

「かっこよく撮れてるよなー。これ、素のときか?」

昨日説明した素の俺について。山本は、それをしっかりと理解しているらしい。まさにそのとおりですとも。
そう。写真に写っているのは。

「俺、かよ…。」


きっとリボーンが隠し撮りをしたのであろうソレの数々。山本いわく、それはもう半端ない量の写真があったらしく、山本の持っているもの以外にも、大量の種類の物があるとかなんとか。

「…うれしくねぇ…。」

もう、素に戻ってもいいということなのだろうか。
演技をすること自体が面倒になってきた。

ま。いっか。

そう思った瞬間、力が抜けた。



心なしか目が半開き気味になっているのは気のせいではない。必要最低限の力で生活をすれば、誰だってこうなる。是非試してみてくれ。
鞄を山本に任せ、トイレへと向かう。
誰も居ないのを良いことに顔をぬらし始める。
メイクを教えてくれたのは、母さんだった。顔を悪くするメイクなんて、簡単だった。もう、今からは必要ないけれど。
制服のズボンにはいつも小さいボトルにクレンジングオイルや洗顔フォームなどを1回位分だけ入れている。
すばやくクレンジングを塗りたくり、水で流してから洗顔フォームで顔を洗う。すっかり元の顔付きになった。化粧水なるものを顔に広げ、手で軽く蒸すと良い具合に綺麗に仕上がるのだ。これも試してみるといいだろう。
鏡を見ると、正直、ここに入ってきた自分とは別人の姿がうつっているような気がした。

「…あー…。女子じゃねーけど、スッピンさいこー…。」

さっぱりしたところで、HR開始までまだ30分も残っているのを確認し、トイレを出た。

誰もが振り返るのが分かる。
時々聞こえる「誰、あれ?」には笑いそうになった。
教室まではそんなに時間がかからなく、騒然としたクラス内に入ろうとすると、クラスの人気の高い性悪男が何かを破いているのが目に入った。

「んだよ、こんなのどーせ合成かなんかだろ!
皆してバカじゃねーの!なにだまされてんだよ!!」

けらけらと笑うその男とシモベたち。
破いているのはどうやら俺の写真。山本はどこかに寄り道でもしているのか、まだクラスには居なかった。

「…はっ。」

なんて幼稚なのだ。
ガラリと扉を開けるが、誰もこちらに気づかない。
すたすたとその男が座る俺の机に向かって歩く。
途中、女子の「ぅっわぁ…」なんていう声が何回か聞こえたが、とりあえずは無視しておくしかない。

「おい。」

声をかけるが、やはり気づかない。

「なぁ、アイツが学校きたらよ、水でもぶかっけてやんねぇ?面白そーじゃん!?」
「…。」

はぁ。
ため息をついて、少々後ろに下がる。
ポケットに両手を突っ込んだまま、左足を軸にギュリッと回転をかける。振り上げた右足。ヒュッと風を切る音がした。

ドカァ!!

軽く吹っ飛んだのはその男子生徒。
何人かを巻き込んで床に倒れこんだ。

「…っ、ってぇ…!誰だおらぁ!!」
「俺だけど?」

綱吉が発言すると、何人かが息を呑んだのがわかった。

「て、てめぇ、ダメツナのくせして…!!」
「…。誰に口きいてんの?誰が、誰を苛める話をしていたの?
なめてんじゃねぇぞ、馬鹿が。」

空気が止まる。
呼吸が止まる。


男子生徒の顔のすぐ横に足を大きく踏みつけると、男子生徒は真っ青になって謝りだした。


後日、写真は売れば1時間でなくなったし、綱吉は女子生徒から1日に3回は告白される生活を送ることになった。

知っているのだ。綱吉は。


こうなる原因の、写真を売り出したのが、きっとリボーンだということを。



THANKS!




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