部屋にはいるとすぐさま香ったのは甘いミルクのにおいだった。
優しくて暖かいぬくもり。その先には決まって奴がいるんだと、俺は知っている。
後ろ向きに座って牛柄のカップをすする奴の姿は、正直言うと美しい。
揺れる癖毛にかたむいた頭。細い腰はかすかに曲げられ、ちょうど雑誌でも読んでいるのだろうか。
奴好みのなにか可愛らしい雰囲気の部屋は、そこに主が居るだけでもっとふわりとした空気を漂わせる。
「…珈琲、飲むか…。」
「え?…あぁ、リボーン、あがったの?」
ふわりと笑う奴の顔に、珈琲豆の粉末をたった今蒸そうかと思っていた俺の手は、ピタリとその動きを静止させた。
あぁ。嫌でたまらない。
てめぇはなんでそんなに
「綺麗なんだろうな。」
「えー?なんか言った?」
「なんでもねぇ。」
これはきっと病気。
もう手遅れで、慢性のガンみたいなもので。
きっと、手放すなんて
考えられないのだろう。
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