幼稚園のときから一緒にいた子がいる。
幼なじみってやつだけど、大抵そんなのって、中学生くらいになるとなんとなく話しづらくなったりするものだ。
たぶん原因は「恋心」。
だって小さいときから一緒にいるのだもの。お互いのいいところも悪いところも、みんなが知らないような表情や性格だって、知ってるんだ。
(だから恋におちる。)
わたしの幼なじみ、沢田綱吉。彼は結構な身分の人だ。みんなは知らないけれど。
ススキ色の髪をゆらして、風にふかれながらたそがれてる。口元は、ゆるやかな笑みをつくって。
春が近付いた3月のおわりに、窓際でそんなふうにぼぅっとしている彼は、そしてわたしも、高校生になった。
来年度からは高校2年生だ。
(成長したなぁ。)
昔にくらべると、彼にもわたしにも、余裕じゃないが、落ち着きが出てきた気がするから。
「綱吉くん、目。」
「あ、」
「気をつけないと、因縁つけてると思われちゃうよ。」
「思われねーよ。」
ふんっと鼻で笑って、彼はしかめていた目面をほぐしてからため息をついた。
「悪くなりたくなかった。」
「目?」
「うん。」
「なんで?」
疑問を少し残してまたまどろもうとしたけれど、無理だったみたいだ。
だって、窓の外を見つめていた彼がわたしのほうをむいたから。
外では部活をする生徒たちの声が聞こえる。
ひとつの机をはさんで椅子を向かい合わせにしていたわたしたちの、距離は近い。
「遠くから葵が見つけらんないんじゃ、意味がない。」
微笑んで、彼はわたしの髪をすくった。
とたん、やっぱりわたしの心はあったかくなって、なんだか鼓動が大きく聞こえる気がした。
(ほら、やっぱり、恋心。)
わたしはそれだからって、彼とよそよそしくなったりなんか、したくないなぁ。
大切ならもっと近くにいたい。
そう、思うもの。
(綱吉くん、メガネ買うって言ってたね。何色?)
(まだ決めてない。)
(じゃあ黄色とか、オレンジとかはどう?スケルトンで、すてきなの。)
(…黄色とオレンジの中間って、あんのかな。)
(探せばあるよ!)
(ま、なんにしても、お前がよく見えれば、いいや。)
end
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