「葵、」
はっきりとした声色で呼ばれたので、たぶん怒られる。
そう思った。
(でも、これで彼から逃げると、さらにひどく怒られるって、知ってる。)
10年たってますます厳しさに拍車がかかった横顔をちらりとみやり、ちょっと肩をすくめる。
ボンゴレの敷地内にある庭にはベンチがあって、私たちはいま、目の前にすてきな花壇のあるベンチに座っている。
なかなか口を開かない11歳の少年。
なんとなく、眉間にしわがよっている気がする。
「葵。」
「はっ、はい!!」
「変装にはメガネが必要だと思うか?」
「…はい?」
大きくため息をつかれすこしびくりとすると、鋭い目線でこちらを見られた。
「…特徴をかえるなら、とことんやらねーと任務にひびく。」
ぽつりと呟かれて、あぁなるほどなと思った。
私たちのボスが、彼に潜入捜査なんかをまかせたって言ってた。
警察がやるようなのじゃなくて、他のファミリーが怪しげな動きをとったときに調べなきゃならない、マフィア界では必須な捜査ね。
「リボーンは顔がわれてるから、隠せるだけ隠したほうが、いいとは思うわ。」
「…めんどくせぇな。」
呟いて、彼はまたため息をついた。
「何色かしら。黒?」
「千種がもってたな。」
「度が入ってるわ。」
度が入っているとは言ったけれど、それ以上に彼には黒ふちのステンフレームが似合うと思った。
プラスチックはラフすぎるだろう。
だって、そう、リボーンだもの。
「伊達メガネね…。葵、買ってこい。」
「………一緒にいく?」
(それは誘ってんのか?)
(マセガキ。)
end
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