「夏休みはね、しばらくこっちにいれそうなのよ。」
「そ、そう…。」
「…なによ、あんまり嬉しそうじゃないわね、アンタ。」
「え、あ、いや、嬉しいよ、嬉しい嬉しい。」
ただ、夏休み中この人は俺の部屋に住み付く事になるのだろうが、どうする、俺。
獄寺と山本は知っているからいいとしても、恭弥は…、あぁなんだ、知ってるじゃん。
昔あった事が、
骸は?
「…葵、外出したい時は俺も一緒に行くよ。」
「はぁ?なによ、どういう風の吹き回し?」
「…いや……」
もうすぐ夏だ。
この人はまた、俺を説教しに帰ってきたわけだけど、今度は長くなりそうだな。
いったん向こうに帰るのかと思ったら、彼女はこのまま俺の監視とか称して、日本で夏季休暇へと首を突っ込むらしい。
「にしても、あっついわねぇ。
この部屋、クーラー…」
「あるけどまわさないよ。
チビたちにクーラー慣れさせたくないんだ。
しばらくは参らせといたほうがいいんだよ、そのほうが真夏には耐性ができてるだろうから。」
「アンタ。
結構いいおにいちゃんになってるわね。」
「…うるさいよ。」
キャミソールのまま、カプチーノの長い髪を束ねて、サイドでひとつにくくるその動作が、なんだか緩慢で、美しかった。
ったく、綺麗なんだよなぁ。
「昔さーあ?
アンタ、弟ほしいって散々いってたわよね。」
「あったねぇ、そんなこと。
葵に「おねぇちゃんならいるじゃない」っていわれた。」
「言った言った。」
「あんときだってそんなに歳変わんなかったからさ、なんとなく嫌だったんだよなぁ。」
「嫌だったんだ?」
あはは、と、小さく笑って、俺が飲んでいた麦茶に口を付ける。
間接キスなんてのに、彼女はかなり鈍感で、無神経だ。
「…むこうでも、そんなこと平気でしてんの?」
なるべく平静を保って、
なるべく興味なさげに、俺はそう言ったのに、
彼女ときたら、ちょっと飲んだだけの麦茶をもう一回掴んで、一気に飲み干した。
だんっ、と、大きな音を立ててコップを机にたたき付ける彼女の顔は、にやにやと、笑っていた。
「なぁによぅ、綱吉、やいてんの?
大丈夫だって、向こうじゃこんなことできないもの、ルールには厳しいからね。」
「………あー、そう。」
なんだか俺ひとりで空回りしてる気がして、悔しくなってきた。
俺とした事が。不覚。
「そうだ、オレガノさん、元気?
こないだ誕生日にネックレス贈ったんだけど届いてたかな。」
「…あのネックレス、アンタがあげたものだったんだね。」
「ってことは、つけててくれた?
うわー、嬉しいねぇ。」
「すっごく、幸せそうに、シャツにしまいこんでたわよ、誰にも見られないように!
…まぁ、オレガノだから、いいけどさ。
オレガノだから可愛いけど!
オレガノだから!」
葵とオレガノさんは仲がいい。
だから、俺も昔からよく世話になっていて、誕生日なんかにはよくプレゼントとかを贈ってたんだけど、もしかして気づいてないのかこの人。
「葵にだってネックレスあげたじゃん。」
「…。」
無言でちゃらりと胸元から取り出す。
モチーフは鍵。
「…まさかさ、本当に気づいてないの、葵?」
「…なにが。」
「怒んないでよ。
よく思い出して、オレガノさんのモチーフは何?」
「錠でしょ、真ん中に鍵が差し込める。」
「…驚いた。アンタがここまで鈍感だとはね。」
「っなによ、なんだってのアンタはさっきから!
男ならハッキリと言いな!」
「葵は鍵。
オレガノさんは錠。
2つで1つなんだよ、もともと。」
2人にはずっと仲良くいてほしいっていう意味も込めてたってのに、全く。
そう呟くと、葵は、いきなり、抱き付いてくるものだから、もう。
「っなんだよ、どけよ!」
「うわぁー、ごめん綱吉、ほんとに!?
ごめん、ほんと、ありがとう綱吉!」
「っもう、わかったから!」
とりあえず、彼女の笑顔が見れたってのは、たぶん良い傾向かな、と、思った。
(なによ、オレガノがあんなに嬉しそうにあたしに抱き付いてきたのって、別に自慢したいからじゃなかった。
オレガノはたぶん気が付いていたのね、2つで1つなんて、洒落た真似してくれるじゃないの、あたしと親友の間に!)
さりげない優しさが、やっぱ、たまんないわよねぇ、アイツ。
いい男になりなよ!
FIN.
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