最近なんだか後輩とのちょっとした事件が多い気がする。
今日は屋外練習だから日差しが直にあたってあったかい。
太陽に右の腕をかざして、影でしっかりと存在を残す黒い星に、オレンジ色のそれに触って、ちょっとにまりと笑った。
テクノミュージックに合わせて悪戦苦闘する後輩のススキ色の髪を目で追って、ん?目で追った?どうしたあたし、どうにかしちゃったか。なんて。

(あーもう確実に意識してんのはわかってんでしょ、自分!)

大きくため息をついてオレンジ色を見つめると、心なしか心臓の動きが早まった気さえする。ほんと、どうにかしちゃってる。


「部長ー、コーチはー?」

「あー、今日遅れるんだって!だからみんなしばらく自主練!」

「はーい。」


部員に呼ばれた称号をかみしめるようにゆっくりと返答を返すと、こころなしかぞくりとした。
植え込みのレンガによりかかって、自主練中の部員から視線を落とす。

部長。
3年生が本当に引退しちゃってから、2年生の中で新しく部長が決められるのは当然のことだ。
でもまさか、あたしが部長になるなんてね。
部長なんて、響きはかっこいいけどぜんぜんよくない。
先代の部長がもー大変だよーなんていっつも言ってたのを思い出す。

うちの部活、部員はみんなめちゃくちゃいい人ばっかりだし、コーチもめちゃくちゃおもしろくてサイコーの人だ。
部活自体の運営には何の問題もないし、たしかに部長ってのはちょっと嬉しい。
でも、顧問が問題。
コーチが学校の外から来てる人だから、うちの顧問はこーちじゃなくて学校の先生、しかもすっごい口うるさくて嫌味なおばさん。未婚。関係ないって?関係ありまくり。ちょうひねくれてんだから。
そういう人ほどツンデレ要素たっぷりでほんとはいい人だとか、そんなのはウソ。
いっつもかりかりしてて、ストレスのはけ口に生徒を呼び出して説教だ。

あたしだってこないだ、うちの部の活動について文句をぶつけられたばっかりだ。
部長になってからしばらく放置されてたと思ったら、この時期になっていきなりこれ。うんざりだわ。
しかもあたしの学校生活自体にまで口はさんできて、しつこいったら。
しまいには沢田くんにこのジュースあげといてだぁ?
女子と男子の前ではずいぶんと顔が違うのね、なんて思って。ジュースなんか飲み干してやったわ!

職員室を出てジュースのボトルをゴミ箱に突っ込んでから、あたしは結構泣いた。
あたしだってあんな風に言われるのは慣れてなくて、これからの部長生活にこれがついて回るのかと思ったらちょっとしんどかったりしたもんだから。

(でも絶対、部員とコーチの前では、あとあの顧問の前では泣かない。かっこわりーもん。)


ふぅっと軽く息をついて目線をあげると、それを見つけたのか遠くのほうから走ってこちらへやってくる、…犬?

(あー。もう、なんだっての。)

さっきまでいろいろ考え込んでたのがばかばかしい。心がほわっとする。
癒しってこういうことだと思うんだ。
すさんだ心に500mlのポカリ。すぅーっと染み込みますね、まったく、かわいらしい!


「だ、大丈夫ですか?」

「うん、なんともないよ。」

「そっか、」


にこりと控えめに笑って、ススキ色の髪を日の光に揺らす。
ほんと、あたしもうちょっとがんばれる気がするわ。


「そうだ先輩、みてくださいちょっと、これ!」

「お、おおう?」
「いきますよ、」


唐突に輝かしい笑顔で言い放って、ちょっとだけ走って遠ざかる。
ぱっと彼のほうに視線をうつすと、逆光でちょっとよく見えない。
目を細めて、手をかざしてからもう一度よくみると、勢いをつけてふわりと上空へ飛び上がった彼の体はきれいに後方へ、両の手をついてはねあがる足。
着地の際にすこしよろけたが、それは見事なもんですよ、うわぁいつの間にこんな、


「す、すっごー!!ちょっ、沢田くんすご、すげー!!」

「なはは。さっき初めて成功して、コツつかんだもんだから。」

「ついさっき!がんばったね!」

「先輩に一番に見せたかったんですよ。」


にこりと満面の笑み、細められた瞳も弧を描く唇も、ほんとにまぶしい笑顔でそんなこと言ってくれちゃって。
もともと運動神経あんまりよくなかったはずなのに、ここまでがんばったっていうのがなぜかめちゃくちゃ嬉しくて、こんな笑顔までみせられちゃったらもう。
ひねくれた思考をついさっき張り巡らせてたもんだから、純粋な彼の笑顔を見てると泣きたくなってくる。
腹のそこからぐぐっとアツいものがこみ上げてきて、思わずわしゃわしゃと髪をかき混ぜた。


「よくやった!!」


それに対しても満面の笑みでこたえてくれる彼に、もうあたしの心臓は耐えられそうにもない。
思わずちょっとだけ毛頭がアツくなって、目の前がかすんだ。


「え、ちょ、せんぱ、」

「いやぁー、嬉しいなぁ。よし。お姉さんがジュースおごったげよ。なにがいい?」

「…え、あ、っはは。」

「?」

「せんぱい、俺おしるこがいい。」

「古風だな!」


おしるこなんて売ってるかな、あぁあれだ。外の自販機になら売ってるかも。
行ってくるわ!なんて言ってから、ほかの部員のぶんも買ってこようと考えて。

(なんでだろう、彼、一瞬だけ泣きそうな顔をしてた。)


目尻にほんの少しだけたまった涙を親指でぬぐってから、頭を横に振った。
なんにしたって、こころがあったかい!





090128




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