今日はなんだかとてもあたたかい。
昨日なんてすごく寒くて、薄着で外に出たことが後悔されるくらいだった。
やわらかな風が髪をすり抜け、なんとなく甘い香りが鼻孔をくすぐる。
テラスの白いテーブル、そこにちょこんと置かれた紅茶。
ちょっとしたお嬢様みたいなことをしたくて、このテーブルを庭に置かせてもらったのはほかでもない、私だ。
こんな天気の良い日にこんなことできちゃうなんて、なんだか幸せ。
パソコンの中も整理して、書類もちゃんと提出して、今日は仕事がほとんどすんでるからかなり気が楽だ。


「…いー天気…。」

「ほんとだね。」

「!」

「ごめん、遅くなっちゃった。」

「…綱吉くん。」


お詫びにお茶菓子なんて持ってきたけど、とか言って、にこりと微笑むススキ色。
ちいさく頬がゆるんだ。
突然のご登場にほんの少し驚きはしたものの、彼ってば気配がちょっと感じられないから。
いつの間にか後ろに立っていることなんて日常茶飯事だ。
右手には薄いオレンジ色の盆、その上にマカロンとスコーンの乗った華奢な白い皿と、紅茶が入っているのであろう白いポット。
左手は背中にまわしている。
かしゃと小さく音を立ててテーブルに置くしぐさは、なめらかできれい。


「やーっと逃げてきたよ。」

「こら、逃げる前にちゃんと仕事しなさい。」

「だって今日の確認の書類、量ハンパじゃなくってさ。」

「そっか、みんなこの日に合わせて一斉に帰ってくるからね。」

「俺の苦労も考えてほしいよ、まったく。」


唇を尖らせてため息をつき、ちょっと目が合ってからこちらに向かって瞳を細めた。
そのまま右手でやわらかく髪をすかれて、なんだかちょっとどきりとする。
そのままするりと髪をはらって、すり、と、円を描くように手のひらが頬をなでる。
指先が顔のラインを確かめるようにすべって、親指が唇をかすめて少しくすぐったい。
これが、キスをするときの彼のクセだってことを私は知っている。
椅子に座ったまま彼を見上げていると、口元がゆるやかにカーブをつくった。
穏やかな風が頬をかすめて、あたたかさにまどろむ。
うっとりと、空気が甘くて、夢を見ているみたいだ。
思わず目を閉じそうになると、左の手が目の前にすべりこんできて、目を大きく開く。
彼の優しい微笑みが視界から消え去って、かわりにそこにはふわりと束になった、


「…愛してるよ、葵。」

「…私も、愛してる、綱吉くん。」


思わずにやける顔をおさえられない。
もう何度目かになる、彼と共にすごすこの季節。
こっちに来てから初めて迎えたその日に、彼が頬を染めて恥ずかしそうに花束を差し出す姿は、今でもよく覚えている。
想いが通じ合ったそのときから、この甘くてかわいらしい特別な日は、「恋人たちが愛を確かめ合う日」。

(受け取った花の真意は情熱。そんなことって、嬉しすぎて思わずとろけてしまいそう。)

それでも、ひざの上から控え気味に差し出した小箱の中身は日本に居たときと相も変わらずチョコレート。
でもね、私たちって日本に生まれて育ったわけだから、ちょっと懐かしいし、たぶん嬉しい。
だって、彼ってばオトコノコなんだもの。

(でも今度は私も、花束も一緒にそえてみようかな。)

どうしちゃったの、なんて言われちゃうかもしれないけれど、ううん、いいの。
精一杯の愛情をこめて、去年よりも、もっとずっと、私があなたを想っていることが伝われば、それで。





(普段とはちょっと違った、甘い、甘い愛の形に、なんだかちょっとくすぐったくて、それでもとってもあったかくて。)


090214
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