半袖は絶対に着ない。

夏でも薄手の長袖を着る貴方。

だからたぶん長袖のシャツやらなにやらはいっぱい持ってるんだと思うんだけど、私は一目ぼれしたの、このシャツに。

絶対彼に似合うと思って。










「ってことでぇ、スクさんスクさん。ちょっとこちらへいらっしゃいよ。」


「…なんだぁ、お前。気持ちわりぃなぁ。」


「気持ち悪いとは失礼だねぇ。いいからこっちきなよ、渡したいものがあるんだって!」




訝しげな顔をして、足を引きずって歩く。
痛々しく包帯の巻かれたそれはもうそろそろ完治するはずだ。
山本武との戦いがこんなにも彼に重症を負わせるとは、なんとも驚きね。
あんなぼうやがこの彼に、こんなにも。



「…見てんじゃねぇぞぉ、コラ。」


「っみ、見てないよーあはは!さ、ささ、こっちこっち!!」



じろりと長いまつげをちょっと動かしてこちらを見た彼に、なんだか心が飛び跳ねたように痛んだけれど、私は結構頑張ってうまく笑えたと思う。
いつものお調子者っていうステータスで、私はなんにも考えていないように振舞って、スクアーロに近づいて、笑って、笑って。


だから今日、あたしがこうしてクリアブルーの包みを彼に渡そうなんて考えたこと自体、大事なんだけど。




長い髪は決意の証だって、私は知ってる。

彼の痛々しい包帯の色が、髪の色に似ている気がして、嫌いになれない。

あたらしく巻きなおされたその包帯も、あたしは全部、貴方が好きよ。


ヴァリアーなんていう組織に入ってなかったら、あたしはきっと素直に彼に気持ちを伝えられただろうな。

でも、この組織に入っていなかったらば、彼にクリアブルーの包みを渡すこともなかったかもしれない。


あぁなんて複雑なの、乙女心、恋心。


馬鹿なあたしの唯一の安らぎよ、血の色なんかよりも貴方の髪の色が好き。







「ねぇスクアーロ、アンタは何色がすき?」


「…そうだなぁ。
やっぱ、赤…いや、
……白、だろうなぁ。」




そう言っていたずらっぽく笑った。

彼は血に染まるけど、その後でその色を流すのは、やっぱりリセットの意味も込めて、何色にも染まらなくて、自由に。


彼はそんな人だ。









風が吹いて、アンティークな感じのテラスは暖かい。

日差しが差し込んで、しばらく曇り続きだった空は真っ青で。

シャツ、やっぱりあの色にして良かったな、と、そう思った。




「で?なんだぁ、渡すものとかってのはぁ。」


「…あたしね!
やっぱりスクアーロがいてよかった!

おそくなってごめんなさい、退院おめでとうプレゼントです!」


「………てめぇは、テンポがずれてんなぁ、おい。
…Grazie mille.」




ちょっと唇を尖らせて、それでも軽く笑って、彼の手にはクリアブルーの包み。


かさりと音を立てて、風に広げたそれの色が空に輝く。


ちょっと目を見開いて、彼の唇が感嘆の形に持っていかれた瞬間を、あたしは見逃さなかったよ。


あぁ、なんて綺麗な鮫。

そうやってちょっと恥ずかしがって、唇の形をさっと元に戻した彼は美しい人。




「…葵。

今度飯でも食いに行くかぁ、足が治ったら、な。」





に、と、笑って、彼はシャツをつまんだ。


思わず、笑みがこぼれた。





くしゃりと、髪を混ぜられて、あたしは思わず身を退いた。

笑う鮫の髪がひらりとなびいて、なんとなくくすぐったくて、


愛しいと、そう、思った。





(どうしよっか、いまからなにする?本でも読んであげようか?)

(馬鹿にしてんのかぁ、コラ。)

(うそだよ、冗談!リア姉さまんトコでも行ってお茶淹れてもらおっか!)

(………もう少し、ここにいろぉ。)

(………うん!)





THANKS!

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