ボン、と、音がして、ランボは泣き出した。

俺が見るに、ランボの十年バズーカには水がしたたり、明らかに故障している。
背を冷や汗が伝う感覚。


「な、なぁ、獄寺、あれ大丈夫なのか?」

「し、知らねーよ、俺に聞くんじゃねぇ!」


獄寺は少しばかりあせって俺に言ったが、二の句をつむぐ前にはもう、ボーズに静止させられた。

確か、ランボのバズーカは10年後の自分と入れ替わることができるとか何とか、今まさに『バズーカを打たれた』、ツナ本人が言っていた気がする。

と、いうことは、ツナは今10年後の、24歳くらいの姿になっている、のか?

でも、ランボのバズーカは水に浸かってて、故障していたはずだから、…どうなるんだろう。

あー、よくわかんなくなってきた。

そう思った刹那、左肩の上にちょこんと座っていたボーズが、軽々とフローリングに降り立つ。



「…ツナ。
お前、今いくつだ。」



ボーズが言ったとたん、煙がはれてくる。

その先

白い、煙の先に

神秘的なまでにひとり佇む青年の姿。



今から話すのは、この事件の8年後の話だ。
さて、俺はフェードアウトしたとして、
8年後の聡明なアイツに、語り手を明け渡すことにしよう。
今日、これから部活だし。



今日、これから会議だし。



くぁ、と、あくびをひとつして、俺は紅いシャツのボタンを止めた。

山本武。
現在22歳。
















目が覚めたらいい気分だった。

妙に心地良くて、なんだかよくわからない使命感を背負った感じだ。

変な感じだけど、嫌いじゃない。


「あ、今日、会議だ。」


のんびりと呟いて、私は顔を洗いに行った。
窓から差し込む日の光は、柔らかに暖かい。



まさか、こんな穏やかな日に、

あんな事が起きるなんて、思ってもみなかった。




17族ハロゲンアスタチン扱い!
(ようはのけ者ってことかしら!)








「おはよーございまぁーす。」


おなかをすかせて、ついには携帯保存食なんかをかじりながら私は大会議室へと入った。

ざわざわと騒がしく、アットホームな雰囲気は変わることはない。
いくらマフィアといっても、
「殺しあいたい」マフィアと
「話し合いたい」マフィアがいる。
ボンゴレは言うまでもなく、後者だ。フゥ太くんがそういっていた。

おとなりの部屋のフゥ太くんは今15歳だけど、いつも変わらず無邪気にランキングをとる。
ランキングの星には、暗さなんて必要ないんだって。
雨が降ればフゥ太くんまで体調が悪くなるし、ランキングの星の王子様って、本当に、何者なんだろう。


「ってわけで、フゥ太くん、いつものお願いね」

「まかせといてー」


テラスにて毎日の日課をこなす。
椅子が浮き、テーブルが浮く。
私はなるべく危険じゃないようなところに移動して、フゥ太くんの様子を見守る。

やがて宙に浮いていたものが、がんごんと音を立てておち、私はそれを片付けながらフゥ太くんに近付いた。


「…どうだった?」

「んー…」


早速、大きなランキングブックにかりかりと内容を書き込む。


「…変だったなぁ。」

「え?」

「んー、今日の危険人物は、ツナ兄、みたい。」

「え?ツナって、ボス?
え、ボス?今日はボスが危険?どーゆーこと?」

「うーん、今までこんなのなかったんだけどね…」

「…みんなに、知らせる?」


私はなんだか不安になってきて、フゥ太くんにたずねた。

ボスが危険な目に合う?
それとも、ボス自身が危険なんだろうか。

どちらにしても、私はボスの、まぁ、「被者」の役割をしているのだから、万一ボスが危険な目にあったらば、私はできるだけボスの危険を背負うし、ボス自身が危険な人になってしまったら、私はボスのかわりにその場を指揮し、(まぁ、大半は髑髏ちゃんや恭弥さんにまわすけどね。)ボスを隔離しなければならない。


「…うぅん、危険度はそんなに高くないから、あんまり気にしなくっていいんじゃないかな?」

ふんわりと微笑い、フゥ太くんは続けた。


「ただ、僕がすっごく気になるのは、」



葵姉自身のことなんだけど。










私は日本人だ。

日本にいる時、ハルと一緒にリボーンちゃんにボンゴレに入るお誘いを受けた。
最初は、とんでもないと思った。
確かに私は弓で全国を勝ち取った経験があった。
それでも、私は闘うことなんて、できないのに。
ハルが結構ノリノリで「はい!」と言ったのに対し『正気じゃない』とも、思った。

まぁ、いまここにいるのだから実際はお誘いに応じたのだけれど。

イタリアに来る一週間前。
私がまだ、「絶対マフィアなんて嫌だ」と思っている時。
ツナさんに、会った。

当時、私は19歳になったばかりで、ハルと同じ大学に通っていた。

初めてツナさんに会った時、感想は「綺麗な女の人…」だったのを、今でもよく覚えている。
ツナさんはその時、やはり大学生で、それはもう、有名人だった。

中学時代、周りからは落ちおぼれなんていわれていたらしいツナさんは、高校に入り飛躍的に進化し、全国模試を一位で通過し、でもそのとき彼は推薦で慶応大学生だったと聞く。
東大じゃないあたりがなんとも。

ツナさんは物腰が柔らかくて、でもたまにとっても黒々しい一面を発揮して、なんといっても、瞳が、柔らかい色をしていた。

彼が一マフィアのボスになる人だなんて、どうにも信じられなかった。
(しかも、ボンゴレだ。当時の私にはその地位なんて全くわからなかったが、今となっては、その素晴らしさを嫌と言うほどに実感している。)

私は、ツナさんに惹かれて、ボンゴレに入ったといっても、過言ではない。




でもまぁ、それでも、
今は腕に、自身はあるからね。

私に何かが起きても、自分で自分を守ることは、容易にできる。



そう言ったら、フゥ太くんはにっこりとわらって、
そうだよね!って。


「さ、会議始まっちゃうよ!
行こう、葵姉!」



そういえば、ここに来てすぐのころは、フゥ太くんに色々教えてもらったっけな。

そんなことを思いながら、私は微笑った。









私はボスの座るはずの椅子の、かどをとって左側に座った。
なにが起きても、すぐに対処できるように。

私以外は、「守護者」だけが座ることのできる位置だ。


「おっはよー、たけしくん、ボスは?」

「おう葵、はよ。
ツナなー、まだ寝てんのかな。」

「えぇー。
ボスが寝てるとかいったら私が起こしに行かなきゃならないじゃん。」

いやだよ私。あれこわいんだよ。
ボスは優しいけどすっごく黒いんだからね。
寝起き、ちょっと、いやあんまり、いや、やっぱりかなりよくないし。
わかってる?

そこまでぶつぶつと文句を言うと、なにやらフゥ太くんが引きつった顔でこちらに目配せしていた。

(「…!葵姉、うしろ、うしろ!」)


「…?」


そっと振り向いて、私は凍りついた。


「…人が獰猛なケモノみたいな言い方だね、葵。」

「―――――!!」


ぴんっ、と、何かがはじけた音が、鼓膜の奥で響いて消えた。


「………。
おはよーございます、ボス!!」


そうよ。
今日一番の危険人物は、この人なのだったわ!


「さ、ささ、ボス!座った、座った!!」

「…ん。」



厳格そうに、ずっしりと構えた椅子は主人を受け入れはじめてひとつの「モノ」になる。
ざわりとしていた部屋に、数多くの「Come sta?」。
それに笑顔で「Bene, grazie.」と応えるボス。
私がイタリアに来て一番はじめに覚えた言葉だ。
「お元気かい?」「あぁ。ありがとう。」
まぁ、こんな感じだろうか。
私はこの言葉と、あとちょっとの言葉のおかげで結構多くの場面で救われた。

朗らかにコトが進む。
ファミリーに笑顔は絶えず、ボスもいつだって笑っている。
へらへらと笑うんじゃない。
とっても、素敵な笑顔だ。

あぁ、なんていうか、本当に、すてきな人。

部下を想って、慕われて、強くて、優しくて。
この人が、昔、本当にダメツナなんて呼ばれていたのか。

まぁそれも演技の成せる結果だと、隼人は言っていた。
私は並盛中じゃなくて、緑中だったから、よくは知らないけれど、ハルに常々聞かされていた。

すてきな人だって、聞かされていた。



そう思った瞬間。





危険な人物は、盛大な爆音に包まれた。






目を瞬きさせた瞬間、私はとっさに声を上げた。


「みんな、退いて!!」




緊張が走る。
ぴりりと、するどい、痛みに似た感覚が肌を伝う。

ボスは、おそらく無事だ。
空砲の音だった。
火薬の爆発する音ではなかった。
摩擦熱。
熱風が頬を打ちつける。
ボスのほうから音がしたので、誰かに狙撃されたのではないようだ。
サイレンサーがまぎれていても、ボスなら自分で身を守ることはできるはずだ。
念のため、もう一度声を上げる。


「―…誰か、怪我をした者は居るか?」


誰からも反応がないので、みんな無事だと取って良いのだろう。
細やかな振動の擦れ合う音の中に、うめき声や、血脈の波打つ音は聞こえない。
私は、自慢じゃないが、人外に耳が良い。

途端、羽音のような静寂の中に、少しばかり幼いような声が聞こえた。


「―――…、最悪、アホランボ…」


「(………、ランボ…?)」



部外者ではない。
ここでランボくんの名前が出ると言うことは、どういうことなのだ。

すぅ、と、頭の中が冷えた。
しかし、そんな数多くの思考は、必要なかったようだ。


もうもうとした煙が徐々に晴れる。




だいぶ、幼くなった、



ツナさんが、いた。












ここにはツナさんが居る。
しかし、それは「ボス」ではなく、「ツナさん」だった。

私の記憶には、全くない、ツナさんの姿。




あぁ、これって10年バズーカのせいなんだろうな。
でも、それでも、おかしい。
たしか記録によると、ツナさんがランボくんにあったのは13歳の時だ。
もしこのツナさんが13歳なのであれば、あと、一年後の私達の所に現れなければ、つじつまが合わない。

あぁ、ツナさん、制服着てる。
はじめて見た、ツナさんのこんな姿。
なんだかかわいい。


しばらく目の前のツナさんを見つめてほうけていると、後ろから、結構な勢いで背をたたかれた。


「い、った!」

「ボーっとしてんな葵。」

「り、リボーンちゃ、」


わたしはよろけながら背中の痛みの根源、リボーンちゃんを見た。


「なぁ山本、獄寺。お前らなら覚えてんだろ。」


いきなり武と隼人に話題を振るリボーンちゃん。
ふっとわらって武を見上げると、リボーンちゃんはそっと目の前に視線をやった。
目の前にはパチリと瞬きをし、ほこりにむせるツナさんの姿。

武や隼人は一瞬瞬きした後、あぁっ!と、声を上げた。



「お前らが中坊んとき、ランボのバズーカ壊れたコトあったろ。」

「…あー、もしかしなくてもアレか!
あったあった、ランボが水に浸したままツナのコト撃ったん、だったっけ?」

「沢田さんが大人になって現れたのはすげーインパクトありましたからね、俺、よく覚えてますよ!」


朗らかに、本当に懐かしい話をするように、笑い合いながら口を動かす。

え、なんですか、私が知り合ってないころ、そんな楽しいハプニングがあったんですか、そうですか。

でも、今その話をするって事は。


「…ぇ、あれ?ってことは、もしかして、このツナさんは…、」


「たぶんそうなんだろーな。
今から、あー…、

8年前のツナだ。」



ファミリー全員の絶叫が、大会議室に響き渡った。








みんなだって、まさか8年前のツナさんの姿を今見ることができるとは、思っていなかっただろう。

私だって、思っていなかったんだから。





「へー、俺、ちゃんとボスやってんだ。」


という言葉を繰り出したのは、8年前のツナさん。
あぁ、今のほうがたしかに背は伸びたし、髪もちょっと伸びたけれど、8年前もやはり美しい人だったようだ。
私は少々打ちのめされたけれど、勇気を振り絞って、おずおずと切り出してみた。


「…あ、あの………」

「…ん?
君は誰?」


やはり、距離を感じた。

この時点で、おそらくハルはツナさんと知り合っている。
今現在、ハルは情報収集のためにアメリカの女になっているため、この場にはいない。
居たら、たぶん大騒ぎだったんだろうな。


「…私は、その、」

「葵だ。ハルとよく一緒に居る奴だぞ。覚えとけよそんくらい。」

「…リボーン、大きくなったね。
俺、なんかもうびっくり。」


おどけて笑うツナさん。
急に不機嫌になるリボーンちゃん。
あぁ、この二人も、長い付き合いなんだよな。


「で、葵さん?
ハルと一緒に居る?
君、今…違うか、元緑中生?」

「え、あ、あぁ、はい。」

「…ふぅん。」


そう呟くなり、ツナさんはおし黙った。

ツナさん?と、声をかけようとしたけれど、その前にツナさんはニヤリとわらい、こちらに歩いて来る。

すばやく、ほんの一瞬に、

ツナさんは私の頬にキスをした。



頭の中がとってもぐらぐらする。

なに?いまの、なに?

ん?

カレハイマワタシニ、ナニヲ、シタ?


ふれられた頬が嫌にあつい。

ふと離れて、またにっこりと笑った、


「葵、ね。
OK、忘れない。」


くすりと笑う表情に、なんだかしらないけれど、私は頭の中がぐつぐついってるような感覚に襲われた。
ツナさん以外がなにも言わずにニヤニヤとこちらをみているのが、なんだか恥ずかしいし、むかつく。


「気に入った、葵。」


頬が、一気に熱のかたまりになった。


「お、おお、大人をからかうのもいい加減に、」

「実質同い年。」

「うっ」


「はは。

じゃ、また、ね。

次に会うのは5秒後だよ。」






一瞬の間に、風がうなり、爆発する軽い音が耳に届いた。


何度も何度も頬を撫でつけて、私はおそらく戻ってきたのであろう、ボンゴレ十代目ボス、沢田綱吉のいるところに目をやった。


「…あ、あぁ?
れ、葵。
あぁ良かった、ちゃんと戻って来れたんだ。」

「…あ、の………」

「ン?どうかした?」

「…、なんでも、ないですっ!」


なんとなく腹が立って、私はツナさんをぐいぐいと椅子の在るほうに押しやった。

目配せすると、フゥ太くんは、ぎこちなく、あいまいに微笑んだ。

危険って、コレのことか。

火照った頭をふるふると横に振って、私はボスに、会議を進めるように催促した。






まさか、8年前の彼でも、あんな事を言われるなんて、思ってもみなかった。

どうしろっていうの。

私はみんなと付き合いが全然浅くて、ツナさんだって私のことを全然気にかけていないと思っていたのに。
ようは、そうね、
のけ者だっけ思っていたのに!



あぁ、どうしよう私、今日は嬉しすぎてよく眠れないかもしれない!




Fin…>




Thanks乙宮さま!
(原作設定とちょっとズレてます!)

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