太鼓の音が腹のそこに心地よく響く。
軽快なリズムで全ての人が笑って、笑って。



ことわり。




「ねぇ綱吉、ひま。」

「うるさい、さっきから。そんなに暇なら祭りでも行ってこいよ、笹川たちと。」

「まつり………祭り!?」


ここは沢田綱吉の部屋、ベッドの上。
この部屋の持ち主は机に向かってやる気なさげに参考書を開いているが、どうでもいい。
っていうかちょっとまって、それ赤本じゃん。
君まだ中学2年生でしょ。
高校1年のあたしだってまだ一回も見たことないっての。


「だー、さけぶな、うるさい。
今日並盛神社の例大祭だろ。
なんでもいーからさっさと行ってこいよ。邪魔。」

「なにいってんの綱吉!
一緒に行こうよ!
ってか綱吉、もうちょっと子供になんな!
あたしより年下の癖に!」

「世の中精神年齢で全部決まんだよ、お子様。」

「うわむかつく!
ホストやなガキに育ったね!」


そう言っても、綱吉は何の反応も示さない。

「(………あーあ。)」


昔は、こんなじゃなかったのに。


不意に、頭の中に、太鼓の、低い、低い音が響いた。



「―――綱吉。」


ねぇ、綱吉。
一緒にお祭りに行って。

お願い。













「ねぇ綱吉、浴衣あるけど着てく?
あたし着付けなら得意だよ!」

「や、いーよ。お前が着替えるだけでも時間かかりそうだし。」

「なっ!とっきゅーで着替えるから綱吉も着ようよ!
ちょっと待って!」

「げ、ばか、ここで脱ぐなよ!」

「へるわけじゃなし!つか綱吉なら別に見られても何も、「っざけんなこのあほ!!」


結局綱吉は静かに赤本を閉じて、浴衣も着てくれた。(怒られたけど。)

外は結構冷えていて、てっぺんでお団子にした髪を、冷たい風がかすかに揺らす。
首筋がやたら寒くて、でもなんだかふわりと温かい感じがした。

きっと、となりに綱吉がいるからだ。




「あ!ねぇつなよし、あれあれ、あれとって!」

「だー、うるさいな、わかったよ!!」
「ねぇねぇ、あそこにいるの恭弥くんじゃない?」

「げっ。」


「つなよしー、お姉さんが綿菓子おごったげよっかー?」

「お前が食いたいだけだろ。」

「う…。」



からころ、からん。

どんどん、どどん。

ひゃらり、ひゃららり。


たくさんの音が直接鼓膜に響く。
ざわつく道。
きらめく光。


「ねぇ綱吉、きてよかったねぇ。」

「…まぁ、ね。」


ふわりと微笑む貴方の横顔。
あぁあ、いつのまにかこんなに大人になっちゃって。
浴衣の裾をぐっとつかむと、「なんだよ。」と笑われたけれど、それでいいんだ。
綱吉だから。









神社の裏側に、ちょっとした丘が在る。
そのすぐそばには橋があって、大きくもないけれど、決して小さくもない川が流れている。
ちょこんと座って、綱吉に手招きをすると、綱吉は意外とおとなしく隣に座った。





「ねぇ、そろそろ始まるね、花火。」

「ん。」

「ねぇ、ホントは京子ちゃんと見たいんじゃないのー?」
「…お前、それでからかってるつもり?
つかなんで笹川。」

「なんとなく。」

「付き合ってらんねー。」



「(…あぁ、まただ。)」


そう

昔はこんなじゃなかった。



「ねぇ綱吉」

「なんだよ」

「ねぇ、綱吉」

「…なんだって」

「…ねぇ、」


綱吉。














昔、綱吉はそれこそやっぱり天才で、大人びていて、あたしは綱吉より2歳年上だけど、すぐに泣く子だったから、みんなに迷惑かけた。
綱吉は、絶対に、そんな事する子じゃなかった。

家がおとなりで、あたしと綱吉は昔からかなり仲がよかった。
だから、あたしと綱吉はよく比べられた。

だから、あたしはゆがんだ。

お母さんにも、お父さんにも、いつも「おとなりの綱吉君」と比べられて育った。

寂しかった。


でも、あんなことを言ってはいけなかった。
あたしは、許されざる言葉を、綱吉に向かってはなった。

綱吉は、私と遊んでくれたのに。

綱吉は、私に笑いかけてくれたのに。

綱吉は、優しかったのに。




いまから5年前だったと思う。

ちょうどこの季節で、やっぱり同じようにお祭りがあって、あたしと綱吉はちょっとどきどきしながら、お母さんになんとか許可を貰って、お小遣いを貰って、一緒にお祭りに来た。

たくさんの人。
楽しそうに輝くすべて。

今と同じように、屋台を見て回って、綿菓子を食べて、楽しくって、楽しくって。


「おう綱吉君、泣きむしねぇちゃんのお守りかい?大変だねぇ。」


全てが、崩れてしまった。



近所のおじさんだとしても、あたしはまた綱吉と比べられた。
綱吉が、あたしのせいで大変な思いをしてるってわかってしまった。
あたしなんて、いらない、と、思った。


花火が上がる時間まで、あたしは綱吉と丘の上で待っていた。

ちょうどいまみたいに。





「ねぇ、綱吉、覚えてるんでしょ。」

「…何の話?」

「…覚えてるんだね。」








あたしはきっと、おさないころから、どこかに暗くてどろどろしたものが住みついていた。


「つっくんなんていなくなっちゃえばいい。
あたしなんていなくなっちゃえばいい。

あたしなんていらない。

あたしなんていらない!

あたしなんて死んじゃえばいいのに!!」



あたしはそう叫んだ。

綱吉の呆然とした顔は、今でも思い出せる。

あたしは、飛んだんだ。

橋の下の川は、冷たかった。

ダウンやマフラーに冷たい水がしみこんだ。

これで、あたしが死んじゃえばそれでいい。

綱吉に迷惑なんてかけなくてすむんだから。



そう思ったのは覚えているけど、そのあとは覚えていない。




あたしは残念なことに、一命をとりとめてしまって、今でもこうして生きている。

でも、気がかりなのは、綱吉だった。


あたしが飛んだ後から、綱吉は世間でだめな子扱いされることがとても多くなってしまった。
そのかわりあたしは結構普通に育って、精神鑑定なんてそう長く受けなくて済んだ。
あたしは前向きに育った。

そして、人前で泣くことは、絶対にしなかった。

泣かなくなった。

人々はあたしを前向きだとほめてくれた。

でも、綱吉は、




「あたしのためにだめになんなくていいんだよ、もう。」

「あたしはもう高校生だし」

「泣かなくなったし」

「綱吉に嫉妬して川に飛び込んだりなんかしない」

「いつまでもガキじゃない」


「あたしは綱吉が好きだから」


「綱吉のこれからを前みたいにダメにしたくない。」







「…ばかじゃないの。」

「は?」


一気にまくし立てると、綱吉はあたしに向かってこういった。

暗くって、顔はよく見えない。


「なんで俺が今までこんなに頑張って演技してきたと思ってんだよ。


お前のことが好きだから


お前に壊れてほしくないからに、きまってんだろ。」



雰囲気で、綱吉が微笑んだのがわかった。



「でも、お前もやっぱちゃんと大人になってんだな。

泣いてるけど。」



ちょうど、大きく、一番最初の花火が上がった。

顔が柔らかく照らされて、

視界がなんだかゆがんでいることに気がついた。


泣いてる。

…泣いて、いる。



微笑む綱吉の細い指が、頬の涙を払った。



かせをはずしたように

涙がとめどなく溢れるって、こういうことだ。









それからあたしは綱吉の胸を借りて、声を出して泣いた。

こどもみたいに、顔をぐしゃぐしゃにゆがめて、あたしは泣いた。




「お前も頑張ってたんだね。」

「…ん。

ごめんね、綱吉。

ありがとう。」


「…ん。


さて、葵、」


綱吉はあたしをそっと引き離して、微笑んだ。


「もっかい、いくか?」


「………うん!」




世界が開けた。


金魚すくいは思いのほか楽しくって、射的だって、なんとわんこのぬいぐるみをゲットしてしまった。


りんご飴をかじって、あたしと綱吉は歩く。

ラムネの瓶が目に付く。


「あれぇ?」


横から、以前に聞いたような声がした。


「綱吉君と、…葵ちゃん?
すっかり姉ちゃんだねぇ、綱吉君、頑張れよ!」


顔をほころばせて、あたしは綱吉の手を握った。


「あのおっちゃんだろ、5前の。」

「うん。でも、いまはぜんぜんへーき。」


あたしよりいくらか背の低い綱吉の手。
暖かくて、大きい。
きっと、そのうち身長も追い越されてしまう。

でも、いいんだ。

綱吉だから。


「ねぇ、聞いた?あたしのこと姉ちゃんだって。綱吉君、頑張れよ!」

「うるさい。
つかなんだあのおっちゃん。
姉ちゃんじゃねーっての。」

「え、あたし綱吉のお姉ちゃんじゃないの?」

「“お姉ちゃん”でいいの?」

「…さぁ?綱吉君の頑張り次第だよ。期待してるよ。」

「なんに期待してんだか。」


溝にゆっくりと砂糖をこぼして。

綿菓子みたいにふわふわしてなくていいから

ゆっくりと溝をうめていって。




りんご飴っておいしいよね、あぁ、舌が変な色になっちゃったよ。

ねぇ綱吉、あした日曜だから一緒にお買い物行こうよ。

こないだ綱吉に似合いそうなのみつけたんだ。

メールしてね。

また明日。



秋祭り、冬祭り、君が好き。


きみがすき。




Fin…



幼馴染でお祭りへGO!緋月様リク59000HITthanksです!

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