たしかにつながっている。

私と彼は、つながっている。

私は彼の幼馴染で、いつだって家を行き来できる。

私と彼は、雰囲気が似ている。

でも。


彼は優しくて、綺麗で、純粋だ。



私は、どうだろうか。



誰かが何かを囁くんだ。

私のことを、

囁くんだ。


本当って、何なのだろうか。



Get twisted boy
(わかっていたはずなのに何故だか抗うことのできないこと。)







「、ふざけないでよ、綱吉、なんで私が、」

「しょうがないだろ、足りないの、人数が!」


教室の真ん中で繰り広げられる眼力対決。
机に突っ伏して眠るのは獄寺隼人。
それの隣で、山本武がにこやかに笑いながら赤色のカッターシャツを広げる。


「だからって、なんで私が?
なんで私がホステス?
私はあんたらの仲間になっちゃいけないっての!」

「だからいってるだろ##name_2##、お前は女の子なんだよ!?
俺達の中に入っちゃいけないんだって!」



学園祭は近付いてきていた。
パンフレットはもう出来上がっているし、クラス内の準備も着々と進んできている。
しかし、##name_1####name_2##には、不満があった。


「ホストっていったら、十分に『女の子で』遊べる唯一の手段なのよ!
いっちゃなんだけど、私だってやってみたいのに!!」

「馬鹿いうなよお前、俺はやりたくないのに…っ、よくそんなこと言えるなぁ!」

2-Aでホストの役をするのは、男子全員が交代で計18人。
今まさに##name_2##が食って掛かるのは、綱吉、獄寺、山本、ロンシャン、堀江、石黒の6人。つまりは、「Aグループ」だ。
女子にはホステスて言う役回りがあり、男子のホストグループと共に店に出る。
そしてやはり、男女共に、ウェイトレスとして働く者もいる。
非番だったり、その役割だったりしたら、もちろん買出しにもいくし、店の内装や衣装だって、自分達でやる。

ずばり、2-Aの出し物は「店」。
名を「Damerino」。
ホストハウスである。

選択肢は他にもいくつかあったのだ。
駄菓子屋、スポーツ大会の主催、そのほかにもたくさん。
誰だっただろうか、「ホスト」なんて言い出したのは。
誰かが一言発した後、たしかにクラス全体にその言葉が広まった。
担任は「限度をこさぬ程度に」などといっていて、まぁ、反対はしなかったから、なるままに決められて、ついにこの意見は生徒会にも、風紀委員にも通ってしまった。
(雲雀は「面白そうじゃない。」などといっていたそうである。)

「だからってさぁ、なんで俺までやらなきゃなんないの?
訳がわからないんだけど。
っつかさ、「オレ」がホスト?むりむり。
だってイメージ合わないし。」

そう言った瞬間に、雲雀は綱吉に向けて、はんっと冷笑を向けた。

「何言ってるの、綱吉。
僕が何で、『綱吉もメンバーにいれる』っていう条件付きでこの件を了承したと思ってるの?
そろそろいいじゃないか。
ばらせばいいのに。
『そのこと』。」

しかめ面をした。
綱吉は、思いっきり眉を寄せた。

「じゃないと、##name_2##は僕が貰うけど、それでもいいなら。」

「…言うと思った。」

はっとため息をつき、バサリと制服の上着を椅子から取り上げる。

「恭弥は頭がいいね。

お前が、ほんとにそんなことするはずないじゃん?」


くすりと口元に笑み。
ぱたりと閉じる扉。
雲雀の視線はいまだ扉のドアノブ。


「…どうだろうね。」


ま、君があの子に、ちゃんと「本当」を見せてあげないのなら、僕にもそれなりの考えがあるんだけど、ね。


「…にしても、僕って実は綱吉に結構信頼されてるんだ?

…まぁ、長い付き合い、だしね。」










綱吉は少々不機嫌だ。
なぜなら、雲雀とかわした会話を一通り思い出してしまったのだから。
しかし、その時点で、すでに綱吉は##name_2##を説き伏せていた。
頬を膨らませながら、##name_2##は綱吉に言った。

「…わかった、よ。
そんなに言うんなら、私、ホステスやる。
でも、絶対綱吉のテーブルには行かないんだからね!!」
「…別に、来なくていいよ。
来られたほうが困るし。
…わかってくれて、ありがとな。」

##name_2##は、声の出し方を忘れてしまったのかと思った。
視界が、頭が、一瞬くらりと揺れた。





6時間目のHRの時間が終わり、放課後を過ぎ、私はいつものように応接室へと向かった。
そう。「今日の綱吉」を報告するために。



「ってことで、ひどいんです。
ホストやるな!なんていったんですよ!」

「へぇ。まぁ、##name_2##はホストっていうよりホステス向きだと思うけどね。
女の子だし、男装似合わなそうだし。」」

「…そうなんですかね……。
で、結局私、ホステスやるんです。
しかもAグループ。
…全部、綱吉と一緒の時間帯なんですよ…。」

「…ふぅん。

で?今日はなにか収穫があったの?」

暖かいココアを飲むのは##name_2##。
両手に包み込んだ、湯気の出るカップをじっと見つめ、反対側のソファーに座る雲雀の気配をうかがった。

窓の外からは、野球部のものなのであろう掛け声が威勢よく響く。
えらく、不似合いなBGMだと思った。


「…ねぇ、雲雀さん。
私、わかってしまったことがあります。」

「…どんなこと?」


「…綱吉は、私を騙していますね。

綱吉は、演技をしているんだわ。」


雲雀は、口元で微笑った。

それに、##name_2##も微笑でこたえた。


セーターを着ているために、ブレザーの前ボタンは全て開かれていて、まるでコートのようだ。
おもむろにそれを脱ぎ、すっと、ブレザーの右ポケットから手帳と細身のシャープペンシルを取り出した。


「雲雀さんは、知ってたんですね、綱吉のこと。」

「うん、知っていたよ。」

「さ、雲雀さん。
報いの時がやってきましたよ。
今まで私にそのことを黙ってた報酬として、
私に何をしてくれます?」

「…何してほしいの?」

「そうですね、とりあえず…」


綱吉の、本当を教えてください。






私だって負けないつもりよ、このひねくれ者対決。












「うらまないでよ、綱吉。」

「…恨む、恨まないの問題じゃない。
なんで教えたの?
どうしろっていうの?
今までやってきた事ぜんっぶパァじゃん。」


ぎろりと睨み付けてくる「裏幼馴染」を一瞥して、雲雀は軽くたため息をついた。


「…ファミリーのことなんか心配しないで、思い切って皆の前でばらしちゃえば。
大丈夫だよ。
もし君を狙う奴がいても、本当の君なら、すぐに倒せるんでしょう。」

「…それ、まさか恭弥も手伝ってくれるんだろ?」

「なに、交換条件ってやつ?
…ま、僕もそのほうが飽きないし、綱吉と学校でも「遊べる」かな。
手伝ってあげないこともないけど?」

「…じゃ、そーゆーことで。

頼んだよ、恭弥。」


くすりと微笑んだ口元は、ドアの向こうへ消えていった。


「全く、なんで僕がこんな役をやらなきゃならないんだか。」


言ってはみたものの、
雲雀の口元は、至極嬉しそうな、笑みを浮かべていた。


「ね。##name_2##。」


まるで、お前らのためだとでも言わんばかりに。






準備は整った。
クラス内は薄暗く、どことなく怪しげな雰囲気が漂う。
衣装を身にまとった生徒を見て、担任は大きく声を上げた。

「Damerino、開店!
みんな、売り上げが上々だったら打ち上げするから、しっっかり働けよ!!」」


それまであまり乗り気でなかった生徒も、「打ち上げ」の言葉を耳にし、実際に看板が外に立てられ、並んでいた客が入り始めると、今までになく瞳を輝かせた。
Aグループは席に着き、そのほかのグループは裏でせっせと仕出しや料理。

しかし、その中に、綱吉はいない。


「…また遅刻、ってやつ?」


ひとりごちて、##name_2##はそっと教室のドアを見た。

服装はいつもの制服ではなく、黒のワンピースは膝上。薄いピンクのショール。こつりと響くロングブーツ。
##name_2##としては、「へぇ、ホステスなんてこんなかんじでいいんだ」という感じであったが、本人がそう思うだけであって、制服と私服の違いは大きい。
(まぁ、担任のほうから釘をさされているため、あまり過激な格好はしない決まりになっているので、「そういうの」を求める生徒にはあまりにも不向きだ。)
だからか、客には男子生徒だって混じっていて、結構、やはり薄暗い店内で静かに賑わっていた。

「武、綱吉は?」

「あぁ、まだ見てねーぜ?
おっかしいな、##name_2##だったら知ってると思ってたんだけど…」

「そっかぁ、わかんないか…。隼人も知らないの?」

「あぁ?俺だって今探してんだよ!」


Aグループは意外にも皆がみんな顔立ちがよく、スーツ姿がとてもよく似合う。
まぁ、ロンシャンはカスタムかけて、なんとも個性的に着ているけれど、彼だって今日は結構おとなしく接待をしている。
きっと打ち上げが楽しみなんだろうな。
そんなことを思いながら、##name_2##はふっとため息をつき、「裏」から飲み物を受け取り、トレイに乗せた。
今は、ロンシャンと山本がいるテーブルに、それを持っていく。
短調な作業で、それでも結構楽しいのだが、やはり何かもの足りない。


「…綱吉、早く来ないかな。」

「誰に、早く来てほしいって?」

「!!」


トレイになにも乗っていなくて良かった。
驚いて、おとしてしまったのだ。

カラカラと転がってゆくトレイは、前方で円形にくるりとまわり、後ろへいってしまった。


「…なにしてんだよ。ほら。」


後ろから聞きなれた、でもなんだか馴染みない声がまた聞こえて、##name_2##はそっと後ろを伺った。


「…つな、よし?」


「…他に誰がいるっての。

……お前のせい、なんだからな。
俺が今こうしてんの。」


「…なに言ってんの。
もとは騙してた綱吉が悪いんでしょ、ばか。」



口元に、苦笑を隠せない。

後ろに立っていた、綱吉は、



「ほんとにホストみたいだね。」


「うっさい。」








表情はとても大人っぽく、それでいて、そんな言葉じゃ言い表せないほどの色気があった。

「反則技ってヤツ?」

「何のハナシしてんだよ。とっとといくぞ。」


まるっきり、綱吉が変わるのはだんだん手に取るようにわかった。
口調はそれほど変わらないのに、やっぱり口がちょっと悪かった。
でも、その中に、ほわりと優しさがあるのがわかる。

とげの中に優しさの綿が埋め込まれてるんじゃ、意味がない。
前の綱吉は、とてつもなく思いやりがあって、でもめんどくさがりで、やっぱり優しかった。
でも、その優しさってたまにどこかでちくりと痛いものがあって、なんだか「本当に」綱吉じゃない気は、どこかでしていたんだ。

今の綱吉はそんなことはない。
柔らかいとげで包まれる優しさが、水に溶けてゆるゆる外に染み出して、とげをうすい、薄い綿で覆いつくしたみたいだ。
存在が、うっすらと優しい。

「はぁーいぃー。」

「間ぁ抜けた声すんなー。」

「はい!」

「ん、いい子。」

ぽん、と、頭に手を置かれる。
ほら、優しい。
ゆるゆると優しさが嬉しくなってきて、同時になんだか気恥ずかしくなった。

ほら、ね?
やっぱり。




結局、なんだかんだいって同じテーブルに着いてしまった。
別に、嫌ではない。
嫌ではないけれど、嫌だ。
やはり、というべきか、綱吉の可愛らしく笑った顔写真は、他のホスト役の写真より飛びぬけて、てっぺん。
つまりは、1だ。
天然なのか、計算なのか、彼のホストぶりは半端ではない。
「今日は何時からお仕事ですか?」
と、夕方の裏通りで聞かれても違和感はないだろう。

私は、なんとなく、それが気に入らなかった。
綱吉には「本当」を出してもらいたかったし、今こうして本当の綱吉が公衆の面前でさわさわと話題になることは、嬉しいし、それを望んでいたはずだった。

心のどこかに、なにか、他の生き物が喉を鳴らして警戒しているようだった。
ざわりと落ち着かないこのむかつき。
どうしようも、ないのに。

私はどうにかしたくて、出来なくて、もどかしくて、

きっと、これって、嫉妬だった。










「…綱吉。」

「ん。」

「…なんでもない。」

「なんだ、それ?」


はは、と、私だけに笑いかける。



別に、嫉妬なんかしても意味は全然ないし、私ひとりが誰かに対しての思いを膨らませたところで、この世界は同じように回るし、たとえ私ひとりが苦しくなって泣きそうになったとしても、影響を受けるのは数少ない。

太陽は暗い教室の外でいつだって輝く。
さえぎられた空間。
わたしの心みたいだった。


でも、それでも、


私は、綱吉が好きだ。









同じ場所にいてもわからないことだって結構たくさんあって、それでも私は、綱吉の本当を見つけ出すことが出来た。
わけもわからず、不思議な優越感に浸る。
今、綱吉の前でぽわん、としている数多くの女生徒も知りえない、裏の事情。
くるりと反転する瞬間の綱吉を、私は知っている。


「なに、にやにやしてんだよ、気持ち悪いな。」

「な、気持ち悪いとは失礼な!」

「自覚ないの?イイ精神科紹介してやろうか?」

「うわうっざ!綱吉、うざ!」


他愛のない話さえも、なんだか別の世界が切り開かれたように、ほわりとやわらかくて、好きになれそうだった。
嫉妬なんてしてみても、いつだって変わることのない空間も在る。


「ねぇ綱吉、私、綱吉のこと好きだよ。」

「…うん。」

「本当なんだよ。うそじゃない。」

「わかってるよ。うそなんかつけるほど頭よくないだろ、お前。」

「失礼だよ、綱吉。

でも、好きだよ。前からずっと、好きだよ。」


「…うん。」



さらりといってみた言葉だって

貴方は微笑みながら、すっとその瞳に吸い込んでいってしまう。



薄暗い教室のはずれ。

微笑む貴方の瞳。



「俺だって、」


ふわりと、唇に何かが触れた。


「俺だって、前から

好きだった。」


間近に感じる貴方の吐息。

あぁ、コイツの本性はやっぱりこんなだったのか。

やけに遠くに、多数の女生徒の悲鳴が聞こえる。

唇に、ふわふわとしたものが触れる。

感覚が、なくなってゆく。

しびれた。

いとおしいと、思った。





「好きだよ。」

「うん。」

「雲雀さんより、ずっと好きだよ。」

「なんでそこで恭弥がでてくんだか。」

「さぁ?」



ねぇ、うちのクラス、売り上げ全校ダントツ1だったんだって。

すごいよねぇダントツ

あ、まってよ綱吉ー。

早いよー、なんで走んの。

そっちいったら応接室だよー。

あ、そうだ、皆の前でキスしないでよ、恥ずかしかったよ。


まってよつなよしー。

つなよしぃー……―――――


Fin―



文化祭でホスト.ありがとうございました、花丘様!

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