「今日は待ちに待った、並中クラスマッチ大会です。
皆さん、思う存分身体を動かし、
明日の筋肉痛に備えましょう!」


はっ!?




(曖昧な光に、)




生徒会長のふざけた挨拶で幕は開けられたのだが、どうにも。
あぁ、ほんとうはクラスマッチなんてやりたくないんだ。
ダメツナのままでやるとダメツナやはり生傷が絶えないものであってダメツナ少々憂鬱な気分のままに沢田綱吉は2-Aと書かれたハチマキを額に巻く。
ランボ山本に迷惑かけんなよ…。
遠くではしゃぐ子供達。
それに付き合い、あはは、と笑い合うのは山本武。
獄寺隼人はリボーンと2人で椅子に座り、ボーっとタバコをふかす。
あぁ、やってらんねぇ。
俺もサボるんだったら徹底的にサボっちまえば楽だよな。
あ、でも、そしたら笹川になんて言われるかわからない。
たとえ本心ではなくとも、笹川を好きだというフリは続けなくてはならないのだ。
「僕は健全な男子中学生なんですよ」
と、周囲に知らしめるために。
まぁ、そんなことを考えているあたりでもう中学生の思考能力の範囲を超越しているのだが。

「ねぇ綱吉、難しい顔してどうしたの?」

「!」

おどろいた。
まず、警戒しなくてはならないのは、笹川京子よりも、この女子生徒。
幼馴染の、外村葵だったようだ。

「あ、や、別に、なんでもない。」

「そう?あんまり無理しないでよ、今日結構暑いんだから!」

「ん、わかった。」


彼女はきっと、うすうす感づいている。
しかし、何も言ってこないのだから、別にわざわざ自分の本性をさらけ出す必要はない。

「お前もあんま、無理すんなよ!」

わざとちょっと心配そうな顔で言ってやると、葵は必ず俺の顔を見て、にっこりと笑う。

彼女を狙っている人間は多数いて、きっと山本も、獄寺も、雲雀でさえ彼女に目を奪われているに違いないのだ。
利発そうな顔付きに、すらりと伸びた背丈。
セミロングの黒髪は、風にさらさらと揺れる。
彼女は、傍目にも美しいのだ。



「ま、俺も、例外じゃないんだけどね。」


遠くに走り去る彼女の後姿に、そっと呟いた。







「ぶっっ!!」

「おいおいダメツナぁ!ちゃんととれよー!」

「ご、ごめ、ごめん…!」



種目は色々あるんだけど、私がとったのは大抵綱吉と同じもの。
サッカー、バスケ、バレー、テニスなどなど、たくさん。
だって今日は一日かけて、いろんなスポーツをする日だもん!

綱吉はたった今、サッカーボールを顔面に受けて、ちょっと大変。
でも、私は知ってるの。

サッカーボールを思いっきり蹴ったのは、この学校のサッカー部の10番。
思いっきり、蹴ったの。
なのに、綱吉は、ちょっと顔が赤くなっただけで済んでしまったの。
何故だか、わかる?



「綱吉、はい!」

「…え、あ、…え?」

差し出されたのはひやりと湿ったタオル。
律儀にも戸惑ったフリを欠かさずに、俺は「あ、ありがとう」と、タオルを受け取り顔に当てる。

俺達のゲームは完敗に終わり、俺はチームメイトにさんざん「言われながら」とぼとぼとベンチに帰っていった。
そこにはあまり人がいなく、それでもやはり葵は俺を待っていた。
しっとりとしたタオルを顔に当てたまま、俺は少しボーっとして、空を見上げた。
青く広がった空。
快晴、クラスマッチ日和。
隣には葵がいて、風は気持ち良くて。

あぁ、眠くなってきた。
ふと俺は、彼女に礼を言った。
「ありがとう」と、
自然と口から飛び出した「言葉」

俺は、そのとき

まさか、彼女に「言われる」なんて、

思いもしなかった。


「ダメだよ綱吉、


よけれるのにわざとぶつかっちゃ!」


青い空が、広がって見えた。


ひらけた景色に、ひとひらの花。

ゆったりと笑う彼女の一言は

かくも鮮やかに

俺の中を満たすんだ。







「…知ってたの、俺が、演技してるって。」

「ううん、知ってたわけじゃないよ、『気がついた』の。」





思えばいつもそうだった気がする。

小学生のころ、川に落ちそうになったけど、落ちなかった。

こないだも、私が階段から落ちそうになったけど落ちなかった。

怖い人に絡まれても、逃げると不思議と追いかけてこなかった。


いつもそばに、


綱吉がいた。




「で?感謝してますって?」

「うん、感謝してますよ、綱吉さん!」

あぁ、もうすぐお昼だな、なんて思ってると、隣を歩く綱吉がゆったりと笑った。

それは、とても綺麗で

儚く

消え入りそうな

微笑み。



それでも、その奥に

決して失せることのない

甘い輝きがあることを

私は知っている。



「、っと、ぉ、」

「こら。いつも言ってるだろ、気をつけろよ?」

ぱしんっと、やわらかく掴まれる右腕。
段差があるなんてわからなくて、
でも、その原因が、
「貴方の瞳に見とれていたから」
なんて、

とても、言えるわけがない。



今から始まるでしょ、私達の新しい物語。

今はまだ、甘い光に追いつくことは
到底できないけれど

貴方のすぐそばで

その、奥深くにある

やわらかい物を、見つめることならば
私にだって、できるのよ。





後日、葵は全身筋肉痛になったが、綱吉はけろりとしていた、なんて、
言わずとも知れたことだ。




fin…



47000HIT、ありがとうございました、椎葉 桂様!!
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