(視線の先に何かほかの感情が見え隠れするような、)


ピンキー



朝、起きたらメールが来ていて、今日がクリスマスなんだってことを実感した。
急いで着替えて外に出ると、にっこりと笑ったお隣の綱吉くんの姿があって、ちょっとだけ心が安らいだ。
綱吉くんはよくあたしを買い物に連れ出す。
センスがおそろしく良い綱吉くんの買い物に、間違いはきっとない。
だからあたしもついつい楽しくなって、今日みたいに「買い物いくぞ」なんていうメールが届いたりするとかなり嬉しい。(絵文字がない上に句読点までないメールなのにね!)
綱吉くんと買い物をするとなんだか触発されてしまって、小物までセンス良くそろえたくなってしまうものだ。
同級生に「それいいね!」と言われるたびに、あたしは綱吉くんがほめられているような感覚に陥って、思わずにやけ笑いが止まらなくなる。

そんな綱吉くんと、クリスマスにお買い物ときたら、わくわくしてしまってどうしようもない。

「綱吉くん、今日なに見るの?」
「まぁいろいろと。」
「色々とはなかなかわかりづらいですね。」

あはは、と、笑って綱吉くんは歩き出した。
外は寒くて、風邪でもひいてしまいそうな陽気だというのに、ちょっとだけ胸があたたかいのはなぜなのだろうか。
たぶん成り行きでつないだ綱吉くんの手がとても暖かいからだってことは、言わないでおくけれど。

店についてからは、あたしたちは別々に行動することが普通になっている。
たまに迷ったときは声をかけて、どっちがいいかなんてファッションショーを開くこともあるけれど、基本的には買ったものをあとで見せ合ってチェックする2人だから、あんまり個人のことに口出しはしない。
だからきっと、ものすごくたんぱくな関係に見えることだろうと思う。

でもね、実際はそんなに軽いわけじゃなくって、ちゃんと見たいお店は互いにわかってるし、似合いそうなものをみつけたら呼んで来てもらったりするくらいに、わかりあってる存在だって言うこと。
付き合ってるとか、そんな関係じゃなくって、もっと近い感じがする。
親友、兄弟。家族。
そんな空気を、あたしたちは理解しあってる。

「葵、もういい?」
「あたしはもういい!今日の目当てはベルトだけだし!」
「俺も…、もういいかな。人混みすごいから疲れたな。どっか座れるとこいこっか。」
「うん、そーしよっか!」


定番のコーヒーがおいしいお店にたどり着いて、ついでに頼んだスコーンをほおばる。
店内はけっこうにぎわっていて、席が取れたのはラッキーだった。
目の前で小さくため息をついて、かぶっていたハットをふわりと持ち上げる綱吉くんはなんだかやっぱり輝いていて、ちょっとだけ目をそらした。

「…ねぇ綱吉くん、今日めずらしく雑貨屋なんてみてたけどさ、どうしたの?」
「んー?どうしてだろうねぇ?」
「えっなんの用事もなくあんなファンシーなお店に入ったの?」
「さすがにそれは恥ずかしいでしょ。」
「うん、ほんとにね。」

あはは、と、小さく笑ってから綱吉くんはバッグからピンク色の箱を取り出した。

「葵こそ、めずらしく男物見てたけど。」
「えっそうだったかなぁ?」
「うん、そうだったねぇ。確実にサイズがあわないコーナーに立ち寄ってたねぇ。」
「あぁ、そうだったかもねぇ。」

えへ。とかなんとかいいながら、あたしもバッグからブルーの箱を取り出した。

2人でニヤニヤと笑いながら、つぶやいた言葉は「メリークリスマス」。
ちょっと咳き込んで、箱を開くとそこにはリング。

「相変わらずすてきなの選ぶねぇ。」
「葵もね。」


あたしたちはたんぱくな関係のようで、実はそうじゃない。
恋人よりも近い位置にいて、なにか見えない絆を持ち合っていることを知っている。

互いに小指にはめた、ピンキーリングから、何色の糸が出ているかは、まだわからないけれど。



(だからあたしたちは絶対に壊れない。いつだって、理解しあえる存在。人はそれを、という。)



071225


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