あれから1年がたつ。
あたしが彼と目を合わせて、手をとって、笑い合うようになって1年がたって。
本当にすてきな事で、彼はきっと他の男の子よりあたしを大事にしている。
あたしだって、いじわるで、でもとってもやさしい彼がとても大事だし、大好きだと思う。
「…ねぇ、綱吉くん」
「ん?」
「ミサンガ、きれないねぇ。」
「もう1年たつのにね。」
あはは、と、八重歯をちらつかせて笑う。
3年生は部活がそろそろ終わるころで、その先には受験がまってる。
すごく勉強をした。
頭のよさをここ1年であらわにした彼。
同じ学校に行くために、あたしは毎日、部活前と部活後に彼と勉強をするんだ。
今もその最中で、図書室にはあたしと彼しかいない。
笑っていた顔が、ふわりと柔らかくなって、
目が細まって、瞳が色濃くなる。
細い指先が髪をなでる。
まつげが影をつくる頬は透き通って、
「外村さん、」
そっと名前をよんで、ふれた。
ちゅ、と、音を立ててはなれる。
はずかしくて、もう1年たつのに、慣れなくて。
えへへ、と笑うと、くすりと微笑む。
「ねぇ綱吉くん、1年前はさ、1回だけ名前、呼んでくれたじゃない?」
「…そうだっけ?」
「そうだよ。ねぇ、もう1回。」
「名前?いやだよ。」
「なんでー!」
もうそろそろ部活が始まる時間になる。
3年でキャプテンの私は、遅れてはならない。
あと数分しか一緒にはいられないのだ。
「…だめ?」
「…外村さん、部活、はじまるよ。」
「えー。…記念日なのに…。」
「はいはい。行った行った。」
「…ちぇ。」
ちいさくつぶやくと、はは、と笑う。
あんまりその顔がきれいで、なんだかごまかされた、と、苦笑いした。
「…行ってきます。放課後までいる?」
「うん。たぶん教室にいる。行ってらっしゃい。」
やわらかくいわれて、よし、放課後まで、頑張ろう。って。
意気込んで図書室のドアをあけた。
今日の帰りは綱吉くんにプレゼントを渡そう。
2000円くらいしたネックレス、似合うと思って買っちゃったんだ。
ラッピング、くずれてないかな。
さ、いかなくちゃ。
空がまぶしい。
綱吉くんみたいに。
「葵」
とうめいな声がして、ピンク色の包みがとんできた。
振り返った私はキャッチに成功するけれど、なんだか頭が回らなくて。
いま、いま、なまえで、
ぱっと顔を上げると、目の前が暗かった。
やわらかいかんしょくがした。
「…行ってきな、キャプテン。」
色濃い瞳で、もう1度、やわらかくキスして、頭をなでた。
「…うん、つなよし、くん。」
たぶん顔が赤い。
初めてキスしたときみたいに、くちびるがじわりとあつくて。
7月27日
(ピンク色の包みの中、リストバンドはあたしの手首に。)
(ねぇ、私、あなたを好きになってよかった。)