「ねぇちょっと、買い物つきあってください!」

「やだよ俺今日忙しいもん」

「うそつけ!漫画読んでる人にそんな事言われたくないね!」

「うるさいなぁ。なに買いに行くの?」


日曜日は快晴で、きっと街は人でいっぱいだと思う。
だからこそ、あたしはこのお隣のめんどくさがりやさんと一緒に買い物に行こうと思うんだけど、ほらね、やっぱり優しい!
だってめんどくさいっていいながら、漫画をしまってくれているから!


「あれ、その服見たことないな。買ったの?」

「うん!せっかくだから見てもらおうと思って!」

「似合うね。」

「…あ、ありがとう…!」


なんて、ちゃんと気が付いてくれるとこも、さらっとちょっと恥ずかしい事言っちゃうとこも、いいとこなんだよね!
恥ずかしいけど!


バス停にとまったバスには結構人が乗っていて、空いている席は2人乗りがひとつだけ。
綱吉くんを座らせようとしたら逆に座らされてしまって、申し訳ない気持ちでいると隣にゆったり腰掛ける綱吉くん。
あれ。なにこれいきなり急接近だ。
なんとなく、いつも一緒にはいるけれど、ここまで近くにいるとちょっと緊張するなぁ、なんて、こっそり思いながら綱吉くんを見た。

ぱっと目が合って、ちょっと微笑まれる。
殺人スマイル。
あたし、何回この笑顔にやられてきたんだろうな!


「つ…、綱吉くんは、いま欲しいものとかってあるの?」

「欲しいもの?…とくに。なんで?」

「なっなんとなく!あたしはねぇ、いまものすごく鞄が欲しい!」

「高校生にもなって中学校のときの鞄引き継いでんのアンタくらいだもんね。」

「そうなんだよね、だからさぁ一緒に選んでよ!」


そう、高校生だ。
私たちはもう高校生になっていて、バイトも出来ればデートも出来るお年頃。
学校という場所には意外にも、甘くときめく恋が待ち構えているというのにあたしってば未だに中学校のときから使ってるぼろぼろの鞄を引っさげてる。
こんなんじゃ高鳴るものも高鳴らない、どうした華の16歳!
ということで、センスの良い綱吉くんに無理言ってついてきてもらってるわけだけど。

ちらりとあたりを見回すと、綱吉くんのほうを見つめては顔を赤くする女の子が結構たくさんいて。
そういえば綱吉くんは、ここ数年で一気に大人びたなぁ。
髪が伸びて、重力のせいでちょっとぺたんこになったよね。
背も伸びたよね。
性格も、昔に比べたらすごくやわらかくなったよね。
あたししか知らなかった秘密、みんなも知るようになって、演技なんかいらなくなって。
とっても素敵になったよね。皆が惹きつけられちゃうくらいに、魅力的になったよね。

なんだか、そんな綱吉くんとデートしてるって思うと、ちょっと優越感が湧き出てきちゃうのは仕方ないことかな。



(……いやいやいや、つっ綱吉くんと歩いてるのは決してデートなんかでは…!)

「なにぼそぼそ言ってんの?」

「なっ、なんでも!なんでもないよ、綱吉くん!あはは!」

「…どーだか。」


ふって笑って、綱吉くんはあたしの手を引いた。

うわぁ、って、思ってちょっと笑った。
昔はこんな事、絶対しなかった!

へへって、笑ってから綱吉くんの手を握り返してみた。

たぶん綱吉くんは驚いてるんだと思う。






結局そのあといろんなお店に回って、たまに別行動で欲しいものとかを探してはまた一緒に歩いて、綱吉くんが選んでくれた可愛らしいベージュの鞄を買って、あたしたちはその足でありきたりなコーヒーショップに入る。
キャラメルマキアートがいいな。なんて、思って財布を手にした。


「綱吉くんはなにがいい?」

「いいよ、俺、買ってくる。葵は何がいいの?」

「え、いいよ、そんな、」

「いいっての。座ってろよ。ね?」

「…うん、じゃ、キャラメルマキアート…」

「わかった。いってくるね。」


こくりと頷いて、あたしはすとんと椅子に座った。
なんだか申し訳ないけれど、嬉しくなって、ミュールをぷらぷらさせながら新しく買った鞄が入った紙袋を見つめて、ちょっと笑った。
そういえば別行動の時に綱吉くんに似合いそうなブレスレットをみつけて、プレゼント用にしてもらったけど、ちゃんと渡せるかな。
嫌がらないかな。気に入ってくれるかな。いつ渡そうかな。


「ねぇ、あの人かっこよくない?」

「わ、ほんと!ちょーかっこいい!」


ひとりでにやにやしていると、斜め前の席から声が響いて、思わず指差しているほうを見る。
どれどれ、かっこいいって?
どんな人なのかなぁ、ちょっと気になる。


「…て、……綱吉くんじゃん…!」


ちょうどこちらを向いて、カップを持って歩きだす青年の姿は紛れもなくお隣の綱吉くんの背格好。
きゃあきゃあと騒ぐ女の子の視線はなんだか熱っぽくて、なんとなくどきりとした。


「2人分だよね、あれ。」

「えー!カノジョかなぁ?」

「ちょっとショックだねー。」

「ねー。」


ショックなんだ。そうなんだ。
っていうか彼女じゃないんだけどな。
でもあたし、綱吉くんの彼女に見えてたらどうしよう。ちょっと嬉しいかもしれない。
そっかぁ。綱吉くんはかっこよくて、やっぱりモテるんだ!
あたしなんかじゃ不釣合いかな?大丈夫?大丈夫かな?
綱吉くんをほめてもらえるのは嬉しいけど、なんだか複雑になってくる。


「なにまた一人で百面相してんの?」

「つっ!…綱吉くん、お、おかえり!」

「え?あぁ、ただいま。はい。」


うふふ、と笑って受け取って、ありがとうと言ったら、綱吉くんは笑った。
やっぱり、綱吉くんが笑ってくれると嬉しいな!


「ねぇ綱吉くん、そういえばさぁ、武くんのバイト先って近かったよねぇ。」

「そうだねぇ。帰りによってみる?」

「うん!鞄みせつけちゃる!」

「それはまだダメ。学校でね。」

「なんでー?」

「…なんでも!」


そっかぁ、って、頷いたら、ブレスレットの事が頭をよぎった。
キャラメルの匂いが口の中で一杯に広がって、甘くあたしを急かす。
斜め前の女の子達に、あたしたちは付き合っているように見えるだろうか。
だとしたら、世界一幸せな2人に見えているといいな!


「綱吉くん!」

「なに?」

「今日は付き合ってくれてありがとね!お礼!」

「…俺に?」


小さな紙袋をわたすと、驚いた顔つきで、中をのぞいた。ちゃらりと揺れたブレスレットに、ふっと笑って、綱吉くんはありがとうと言って、


「…綱吉くん、これはなに?」

「俺から。」

「綱吉くんから?えっ、綱吉くんから?」


こくりと頷く綱吉くんは、綺麗に笑った。
あぁ、あたし達ってシンクロ率高すぎる。
だって紙袋の柄とかは全然違っても、


「ありがとう…、一生大事にするよ、このブレスレット!」



ちょっと幸せ、なんて、そう思って笑った。




たぶん、あたしたちの関係はこれからもお隣さんだろうけど、それでもいいからちょっとずつ、幸せをためていければ良いと思う。


(綱吉くん、武くんにはこれをみせびらかすことにしたよ!)

(あ、じゃあ俺もそうしようかな。…葵、)




(来週は、俺の鞄、選んでね。)






(…もっちろん!)




君と!



070630





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