ごめんね、



そう言って、目の前で彼は力なく笑った。

いろんな人にケンカを売られやすい彼は今日もまた教室の外で上級生にまでたかられて、これって苛めよね、先生に言ったほうがいいのかしら、なんて、分かりきっていることを実行しようとしないのはあたしが弱いからだ。

前まではこんな光景、当たり前だった。
彼が弱弱しい顔つきでなにもかにも押し付けられて笑って、いいよ、なんて返事しちゃうところなんて、毎日のように見ていた。

その度にたぶんあたしたちクラスメートは胸を痛めた。
誰かが「やめろ」と言ってはくれないだろうか。
皆がそんな事を考えていた。
誰もが気づいていたんだ、ひとりでも勇気を出せるような人間がいたら。そう考えている時点で助けられるような人間なんてどこにもいなかったってことに。

あたしだって怖くて、誰かにいつも助けを求めていたよ。
だからあたしは、もう彼に近付けなんかしない。
だって助けなかったもの。
そんな勇気がなかったもの。
勇気がなくても助けるのが友達ってものらしいけど、友達なんかじゃないからって自分に言い聞かせてた。

だからあたしはもう、彼には近付くことなんて出来ない。



彼が変わっていったのは1年の半ばあたりからだったね。
転校生と仲良くなって、人気者と仲良くなって、マドンナと仲良くなって。

あたしね、それでも彼は、その人気者達の背中に隠れるだけでなにもしないような、そんな弱虫だって決め付けてた。



「外村さん、そこ、危ないから、こっち来てたほうがいいよ。」



いつだったか彼はそう言って、あたしを転校生の謎の花火から守ってくれた事があった。
困ったように笑って、本当に申し訳なさそうにしてから、転校生を軽く叱っていたこともよく覚えている。
そして力なく笑って、ごめんね、と、そう言ってから走り出した。

あたしは気づくのが遅すぎた。

彼は誰の背中にも隠れてなんかいなくて、自分ひとりで前にでて、その小さな肩で。

あぁ、弱いのはあたしだった。
やっぱりあたしはいつだって弱くて、彼が苛められていた時だって、助けなかったじゃないの。

守りたいものがまだよくわからないけど、あたしは少しずつこの世界で、愛おしいものを見つけようと思った。

きっと彼が教えてくれたんだね、決意をあらわにして、いつ死んでしまうかもよくわからない世界に手を差し出した彼の背中は大きかった。

こんなにも平凡な日常があたしには夢のように素敵で、つまらないと思っても、それでも愛おしいんだと思うから、あたしはここにいる。

あなたのおかげよ。
あなたがそっと教えてくれた強さがあたしを生かしているわ。





「だからあたし、強くなりたい。」

「…これ以上強くなってどうするんだか。」

「守りたいのよ。」

「はは。いい覚悟だね。さ、いくよ、葵。」

「ええ。」






きっとあたしがここにいるのは、この世界を何かを愛す標したかったからだわ。

弾丸を確認してから彼の頬にそっと口付けて。

驚く彼にそっと微笑んで、こう言ってやったから、あたしはまだ歩ける。


「死なせないわ、綱吉。」






(勇気を出して踏み出した一歩があたしの世界を大きく変えた。)







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