「ハルや京子までつれていくのに、私が日本にいなきゃならない理由は一体?」
「自分の胸に聞いてみなよ。」
「わかんないよ。」
「ほんとうにわかんないの?」
「わかんない。」
涙声になりそうなのを必死でこらえて、私は綱吉の目をまっすぐに見た。
ここ数年で随分と大人びた顔つき。
目が、一瞬細まって、半分開いて、上を見て、
「オレが、君を好きじゃないからだよ。」
笑って彼はそう言って、目を閉じてから歩きだした。
「いいの、ツナ君。」
「いいの。いいんだ、もう。」
「泣きそうだよ。…あ、……泣いた…」
「…」
「本当は駆け寄りたいんでしょう?」
人生でたぶん、一番大きな嘘をついた。
大きな、大きな嘘だった。
そうしなければならなかった。
大好きだから、彼女を連れてなんか、いけない。
つらくなるのは両方で、たぶんそれは、本当に意味のない嘘だった。
「…いこう。」
「…うん。」
さみしそうに、京子ちゃんは笑って、それから言った。
「…私を、葵ちゃんの代わりとして、連れてくんだね。」
「…そうだね。」
「危険な目にあっても、…死んでも、大丈夫なように?」
「死なせないよ。絶対に守る。
…葵は、危険な目にもあってほしくないから、連れてかないだけなんだ。」
「…いこっか、つっくん。」
「……ああ、京子。」
ラブベクトル
(ピエロのように笑ってあげて、ねぇ。)