うすぐらい部屋にいて、たぶんひとりで、目を開けたまま耳をふさいで、耳鳴りを必死で堪えて、あたしの部屋にまた星が流れる。
「葵」
ゆっくりとこちらへ寄ってくる足音、聖者になりきったかかとの声。
日本に、ローマの外れに、地図が頭をかすめて。
「ボス、私は帰りたくなりました。」
「そう。今ならまだ間に合うよ。」
「いいえボス、私は離れたくありません。」
「強がらなくていい。」
流れる星の音が鮮明に聞こえる気がする。
ぶつかった目が、闇の中で光った。
ひらいた彼のくちびるからそっとのぞく白い歯がまた光って、小さく舌を出してくちびるを舐める。
少しうつむいたその顔、目はもうぶつかってなんかいない。
「ボス、私」
「辛いなら帰ってもいいんだ。」
「帰りません、ボス、あなたの秘書ですよ、私は。」
「君がそう言うなら、そばにいてくれたほうがいい。」
「そうですよ、いたほうがいい。」
くらやみのなか、彼はまたくちびるを舐めた。
私は座っていた椅子の上で、彼のほうへと腕を伸ばした。
構えて、定めて、引いて、そして、
「葵、眠りな。俺がいるから。」
「そうですね、ボス、あなたは優しいわ。
そうやって私を眠りへいざなって、」
「そう、君が大切だからね。」
そういって、かるく近寄って、ちょっと目を閉じてキスをして、
「ボス、私、人を殺したんです。」
呟く君のくちびるを
(そうだね、君に引き金を引かせたくなんかなかったのに。)