「だから、どうしたいんだよ、お前は。」
雨、霧、靄、月。
呆れたようにため息をつくのは沢田綱吉であって、沢田綱吉じゃない人。
私と奈々ママしか知らない、沢田綱吉。
外にはしとしと雨が降り
薄くかかった靄に目が眩む。
月の光を淡く反射して
霧の中で、くるくる、きらきら、
まるで、万華鏡みたい。
「…掴まえたかったの、万華鏡!」
「馬鹿じゃねーの。」
「馬鹿じゃないの!」
じっとりと濡れた髪の毛に、ランプの光が眩しく輝く。
「…まぁ、確かに綺麗だとは思うけどさ。」
「でしょう?ツナだってそう思うくせに!」
「だからって傘もささずに雨ん中歩き回る馬鹿がいるか。」
「…。」
口を噤むと、自然と眉に力が入るのがわかった。
いくら相手が綱吉でも、こればかりはなんとも。
今日はお母さんの帰りが遅いから、私は綱吉のお家にお泊まりさせてもらってる。
だから、下手にこういうことしちゃいけないって、わかってた。
でも、でも、
「でも、…今日は、綺麗だったの。
ツナに見せたかったからツナのこと呼んだのに、ツナいそがしそうで来れなかったから、私が掴まえなきゃって、思っちゃったの。」
…幼稚なやつでごめんなさい。
そうぼそりと呟くと、綱吉が一瞬固まってから、深くため息をついたのがわかった。
手に持ったデジタルカメラが、水滴を携えて光る。
ベッドに座っていた綱吉が立ち上がる音がする。
ぎしり、てく、てく、てく、わしっ!
え。
「わしっ!」…?
「…ったく、お前は、いつも、いつも…っ!」」
頭に圧力がかかってる。
視界は、真っ白なタオルに覆われている。
「心配、かけやがって!!」
がしがしがしがしがしがしっっ!!
「ぎ、ぁーーーっ!!」
はや、あ、頭が、ぐらぐらする…っ!
ぽいっと白いふわふわのタオルが投げ捨てられたと思ったら、今度はどうやら綱吉の手のひららしいものが、眼前を塞いでいた。
「…まぁ、なんだ。
…ありがとうくらいは、言っといてやるよ。」
ふわっと、体が、暖かくなるのがわかった。
「…っ、うん!!」
雨、霧、靄、月。
よく似た光を買いにいこう
悩んで選んで手に入れて
本物に焦がれて夢を見て。
きらきらまわる
きらきらまわる
机の上の万華鏡
ふたつでひとつの万華鏡
もう片方は、
あなたの元へ
袂にそっと、忍ばせて
きらきらゆれる
万華鏡