白い、スケッチブックを開いた。
秋桜の揺れた午後の日
枕は太陽のにおいがした。
きっと、干されたすぐ後のものなんだろうな。
客観的にひとりごちて、私はすぐにまたため息を付いた。
夏が、終わった。
真夏でも、真冬でも、あまり代わり映えのない箱。
真っ白な天井、真っ白なシーツ、真っ白な肌。
ここに来て、もう何年もたつ。
入院せざるを得なくなったのは小学校4年生のときだ。
生まれつき心臓が弱かったようで、4年生のちょうどこの時期、私は何も感じないままに病院へと運び込まれた。
意識もなく、目が開けられない状態でだ。
それはもう壮絶な運ばれようだったらしいが、そんなのは今となっては単なる思い出だ。
あれからもう、何年もたつ。
身体の調子はいい。
走り回ることはできないが、病棟を歩き回れるし、うまく話せるし、勉強も出来ているし、小さいころから好きな絵だって、何の不自由なく描くことができる。
ただ、周りがうるさくて。
「葵ちゃんにはまだダメよ、いつ調子が悪くなるかわからないでしょう?」
「葵ちゃんはまだ『治った』って言えないんだから!」
葵ちゃんは、葵ちゃんは。
私だって、もしかしたら何かの拍子に倒れるかもしれないという恐怖くらい、もってる。
それにしたって、なんで私よりも他の人たちが心配して、はれ物を扱うようにして私を隔離するのか、理解できなくて。
「学校、いきたいだけなのに。」
現実に向き合う覚悟と、突き進む勇気が、みんなにはないんだ。
だから私をひきとめるのね。
(過保護すぎるのよ、みんなして。)
呟いた言葉は白い天井に溶けて、まどろんだ瞳は、音無くとじた。
(夢を見た。)
消え入りそうな、淡い夢だった。
ススキ色の髪をした男の子がいた。
たまにフロントにも電話をしてくれた。
今は、全然見かけなくなった。
誰、だれ、あなたは、
「……つっくん…」
涙が、出た。
(あなたの真心で
私はこの白をうめつくしたい。)
9月の半ばの暖かい朝。
私の中に、一筋の光が落ちた。
「…いま、なんて…?」
「一時退院の許可が下りたよ。何日か家に帰ってもいいって。」
主治医は優しくそう告げた。
どうやら父と母は仕事中らしく、なかなか電話にでないそうなので、この事は知らない。
毎日夕方には必ず会いに来てくれるから、そのときに告げよう。
嫌に冷静な頭の中とは正反対に、私は強く拳を握りこんだ。
「本当…?本当に、本当に?いままで一度も下りなかったのに…!!」
何度も何度も、医者に笑顔を振りまく。
そう。
その宣告は、私にとってかけがえのないもの。
学校に行っても良いという、証だったから。
夕方にやはり訪れた両親は跳んで喜び、私の荷物をちょこちょこと鞄につめ始めた。
気がはやいと言っても聞くような相手ではないし、私自身もそれを止める気はなかった。
だってだって、嬉しいんだもの!
スケッチブックはあと一枚。
白い静寂はあちこちにかきまわされて
きっといつの日か、最後のこの一枚さえも
私のこの手によって
音を奏でるのだと
そう思うだけで
私は、
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