「姫?」
「…ん?」
「どうかなさいましたか。」
「…どうもしないよ、綱吉。」
「それではなぜ泣いていらっしゃるのですか。」
「これは涙ではない。雨だ。」
「…そうですか。きれいな、…雨ですね。」
「…茶を持て。共に語ろう。」
「…ありがたく存じます。」
「っていう夢をみた!」
「すごいねぇそれ。なんで俺が家臣なんだろうね。」
「不服?」
「いや、あんたなら。」
「いいの?」
「喜んで。」
ばかみたいな話しをしてから、リプトンの紙パックをひょいと持ち上げてストローから吸い込む。
冷たい紅茶の味はなかなかはまるものだ。
それにしても、この目の前にいる美しいススキ色は、なんていう目をしているんだ。
熱を帯びたように、憂いを含むように、とろけたアメ色をしていて、とても綺麗だ。
「…俺ね、思った。」
「…なにを?」
「もしその夢が前世の夢で、俺たちは姫と家臣で決して結ばれることはないのに、恋に落ちて。」
「ちょっとまて空想科学的すぎやしないか?」
「何百年を超えて今こうして出会ってまた」
「無視か!」
「恋に、」
「っ、」
「おちて。」
ふぅ、と、ゆるやかに笑みをつくる綺麗な目じりに、思わず息をのんだ。
(恋に、おちて。)
「…いつから私と綱吉はそういう関係になったんだか。」
「知らないの?とっくの昔だよ。」
いたずらに笑うこの人のキスを拒めないということは、そういうことなのだろう。
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