出会う


「ねー!ねーえ!ねーってば!」

背後から女特有の甲高い声。
気にせず歩き続けると、痺れを切らした娘が俺の正面へ回り込み、顔を覗き込んだ。訝しげな表情を浮かべるその顔は、まだ年端もいかぬ少女のものである。
実際、十四、五を数えるかという年齢だろうということは、背丈や立ち振る舞いから予想できた。
そんな少女が、この訳の分からぬ戦場に呼び出されたのだという。

「どこに、向かってるの?お父様のところ?お父様のことを知ってるの?ね、さっきから黙ってばっかじゃ分かんないじゃない!」

そう言って俺の腕を引く。
無言で腕を払うと、見るからに不機嫌そうに眉根を寄せた。

「せっかく助けてあげたのに」

助けられてはいない。むしろ魔物に襲われているところを俺が助けたのだ。

「言っとくけど、あの魔物はあなた一人では危なかったわ。あたしの魔法があったから倒せたのよ」

そもそも、俺なら一人で勝てない相手に立ち向かうなど無謀なことはしない。

「何か言いたげだけど、言ってくんなきゃわかんないんだから!」
「……お前の父親のことは知らんが」

言葉を遮るように言うと、まさか返事があるとは思ってなかったかのように目を丸くさせる。言動がちぐはぐな娘だ。

「父親がこの世界にいると何故わかる」

単純に疑問だった。自分が何故この世界にいるのかも、わかっていないというのに。
しかし、娘にとってそれは大した問題ではないかのように断言する。

「あたしのお父様のことだもの。わかるわ」
「……そういうものか」
「そういうものよ!」

娘は得意げに腕組みをして、さも当然のように言う。
父親がどこかにいるという確信も、素性のわからぬ男に対する横柄な態度も、一体どこから湧いて出るのか。過信するだけの魔法の実力はあるようだが、それだけだ。どんな敵が現れるかわからないこの世界に、たった一人でどうしようというのか。
そんな不安を微塵も感じさせないのは、その若さ故か、娘の性質か。父親を見ればわかるだろうか。

「そういえば、名前、教えてよ。あたしはシルビア。ね、教えて」
「シャドウ、と名乗っている」

なにそれ、と笑いながら並んで歩く。たびたび質問やら雑談やらを振られ、適当に返したり返さなかったりをすると、いとも簡単にヘソを曲げる。静かになったと思えば、また何かを言いだす。全くもって、騒がしい娘である。
賑やかな道中は性に合わないが、どこか懐かしいとも感じるのだった。


20181219
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