再会


突如現れた幻獣オーディン。その力強さに圧倒されながらも、一同は戦闘の構えをとった。
セオドア、カイン、シドは前衛に立ち攻撃の機会を見図る。一歩下がったところで、ローザが再び保護魔法の詠唱をはじめるのを見て、シルビアも詠唱をはじめた。
しかし、予期せぬ「声」がそれを遮った。

──久しいなカイン……。

懐かしい声を聞いた。二十年以上聞くことのなかったその響きは、生前の堂々たる風貌を思い起こさせる重々しい口調だが、どこか優しくもあった。

「へ、陛下……!?」
「た、確かに……!亡き先代の陛下の声じゃ!」

声の主は幻獣オーディン、すなわち先王である。 セシルに喚ばれ現れた先王の眼は、魂の灯火を失っておらず、見るものを圧倒する。

「これが、先代の王……!?」
「オーディンがお父様の前の王だというの?」

バロンを継ぐ子どもらは、射抜かれたように動けない。オーディンの姿を見るのはこれが初めてだった。

──そしてローザ、セオドア、シルビア……バロンの子らよ……この剣、おまえたちに向けるわけにはいかぬ……。頼むぞ、セシルを……この大地を……!

オーディンが天高く剣を掲げた。剣は金色に煌めき、瞬く間に閃光が走った。
咄嗟に瞑った瞼の向こうに、セシルの声を聞く。

「なぜだ……バロン王……」

全員の目が開かれたとき、オーディンの影はなく、城内は元の静寂を取り戻していた。彼らの目線の先には、地に伏したセシルの姿があった。
正面の扉が勢いよく開かれた。
振り返ったシルビアたちの目には見覚えのある面々が映る。召喚士リディア、エブラーナ王エッジ、ドワーフ王国王女ルカ――そして、彼らの中心には、誰の記憶にもない男がいた。

「セシル!」

浅黒い肌を覆う黒布に銀髪の映える男は、倒れた国王のもとへ駆け寄った。
「兄…さん…」と、微かな声を聞き一同は唖然とする。
セシルの兄は月の民であり、その正体はかつてこの世を掌握を目論んだ魔人ゴルベーザであった。カイン同様洗脳されていた彼は、心を取り戻したのち、月を自らの帰る場所として──或いは自戒として──地球を離れた。
そのゴルベーザが、今、バロンの中心部にいるのである。驚いたのはカインたちだけではなく、共に行動していたエッジやリディアらも同様である。誰もが言葉に惑い、かろうじてカインが彼の名を呼ぶのみであった。

「お前たちはとうに用済みだ──……」

感傷に浸る間もなく、緑の髪の少女が攻撃の矛先を向けた。表情のないまま、おもむろに右手を挙げると、幻獣王リヴァイアサンと幻獣神バハムートが姿を現す。

「そんな……!」

リディアの悲痛の叫びは、バハムートの咆哮に打ち消された。
幻獣たちの猛攻に防戦一方を強いられ続け、反撃の機会をつかめないでいると、リヴァイアサンが雄叫びをあげ大波を呼び寄せた。

「いけない!みんな隠れて!」

リディアが声を荒らげる。
押し寄せる波は柱を削り壁を砕いた。その中で一同が無事でいられたのは、ローザとセオドアの保護魔法の効果である。

「うぎゃっ!」

相殺できなかった衝撃を諸に受けて、シルビアは体勢を崩した。水浸しになった床に頭から突っ込み、全身が濡れそぼる。
側にいたルカが手を差しのべると、シルビアはその手を力強く握り立ち上がった。水滴の滴る前髪の先では、眉間に皺を寄せ唇を噛み締めている。

「……大丈夫?」
「い……」
「い?」
「いい加減にしなさいよ!幻獣王だか幻獣神だか知らないけど、簡単に操られてんじゃないわよ!強いんだったらしっかりしろ!――サンダガ!!!」

その途端、リヴァイアサンの周りを電流が囲み、長い動体に電撃が走った。一瞬、怯んだのをエッジは見逃さなかった。

「へっ……よく言ったぜシルビア!ちょーっとおイタが過ぎるよなァッ!」

地面を蹴りあげ高く舞うと、鋭い得物がリヴァイアサンの中心を貫いた。鈍い音をたてて落ちたのは、エブラーナ印の鉄製の手裏剣である。


リヴァイアサンの気配が薄れていく傍ら、黒衣の男――ゴルベーザが放った黒魔法に怯んだバハムートの急所を、カインとセオドアが突いた。バハムートはけたたましい叫声とともに姿を消していった。

「やったか……!?」

思わずエッジが声をあげるが、ゴルベーザは怪訝そうに眉をひそめる。

「……いや」

――消えたのではなく、消されたのだ。彼らが理解したのは、緑の髪の少女が再び現れたからだった。

「ご苦労」
「クリスタルは回収していく」
「この星の役目は終わった」

同じ顔をした四人の少女が周囲を取り囲む。一人の手にはクリスタルがあった。
あっけにとられる一同を前に、少女たちは揃って腕を天に掲げ、そして消えた。

「ま、待ちなさい!」

荒れた城内た、シルビアの声が無情に響く。
残された者たちは、言葉を発せぬまま、ただ呆然と立ち尽くすのだった。




20170205
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