少女


本当に、この少女はあの二人の娘なのだろうか。遠い記憶にいる親友の面影を思い返して、男はため息をついた。
思えば、セオドアは二人によく似ていた。セシル譲りの生まじめさと、思い立ったら一直線なところがローザ譲りで、本人は至って無自覚という非常にやっかいなところまでそっくりなのである。
彼女はというと、頑固と言えば頑固なのだが、ローザのそれとはベクトルが違った。利かん気が強いというか、我が強いというか、物怖じしない口ぶりはセオドアの双子という事実さえも疑わしい。
しかし彼女自身がこの国の王女であると宣言しているのである。加えてセオドアから「姉さん」と呼ばれていることのだから、それは疑いようのない事実なのだった。
言われてみれば――言われないと気づかない程度だが――自分を見つめるまっすぐな瞳に、たしかに面影があるようにも思えて、男はなぜだかいたたまれない気分になった。

「あなた、だれ」
セオドアと言葉を交わしたあと、少女は背後に立つ男に視線を向けた。不審そうな目付きに戸惑うセオドアが、必死にこれまでのいきさつを説明する。いきさつと言っても、道中助けてもらった、とだけをたどたどしく語るセオドアに少女は肩をすくめる。続けて「名前は?」と聞かれて、彼はやはり困った顔をするのだった。彼もまた、男の名を知らない。「ええと…」とどもる様子に、少女の瞳に不審の色が増した。
「ない」男はセオドアと初めて会ったときと同様、無愛想に答える。「名は捨てた」

「名前がないとなんて呼べばいいのか分からないじゃない!」

少女は「バカじゃない!?」と一蹴した。驚くべきことに、彼女は年上に対しても構わず無遠慮だった。
謙虚な性格なセオドアの反動でこのように育ったのか、姉がこのようだからセオドアが謙虚にならざるを得なかったのか。その肝の据わった様子にセオドアは慌てるのだった。

「ね、姉さん!」
「名前がないなら、勝手におじさんって呼ぶわよ!お・じ・さ・ん!いいの!?」

良くはない。
良くはないが、今の自分にそれを拒否する権利はないと男は心のなかで自嘲する。名乗る気はないのだし、あの二人の子だったらなおさらだった。

「…行くぞ」
「あ…はい!」
「ちょっと、なぜ無視をするの!」

構わず歩を進めると、王女を名乗る少女もセオドアに続くのだった。
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