結論から言おう。
どうやら私は異世界に来たらしい。薄々気づいていたのだがはっきりとした根拠がなくて、というより私自身が認めたくなくて断言していなかった。だが数分の間に聞いた話と今の近藤さんの言葉からしてもほぼ間違いない。
私は異世界に来てしまった。
いや、連れて来られたのだ。あの浪士達の変なバズーカで。しかも、
『ああ、俺が新選組の局長だ』
巷で噂のパラレルワールド、平行世界という所へ。最近の浪士達がプラモ感覚で天人の大砲的なものを造っているのは知っていた。そしてその威力が凄まじいと言うことも。字も読めるか危うい奴らだ。そんな最先端のような技術を綺麗にコピーなど出来るわけないと思っていたし、逆にとんでもないモノを作り出してしまうのではと危惧していた。だが、そのとんでもないモノの次元が全く違っていた。私は精々デパート一個が潰れるぐらいだと予想していたのだが、実際はそれを遥かに上回る威力らしく。空間を歪める程です、と退と涼が報告しに来たのだ。
『で?空間歪めて何が出来るってんだ、涼』
『異次元、或いは異世界へ飛べるらしいです』
『…オイ、四楓院。俺の耳は腐ったのか?』
『いえ、貴方の耳は最初から腐っておりますので。でも、今のはちょっと聞き捨てなりませんね。異次元などSFじゃあるまいし』
『ちょっと待て。俺は今のお前の発言の方が聞き捨てならねぇんだが』
『ですが、被害も出てるんです』
『どういう?』
『浪士のグループのいくつかが丸ごと消えている、というものです』
『…捏造も大概にせぇよ、退』
『嘘でしょ。何で俺?』
誰がそんなのを信じられるか。しかし、攘夷グループのいくつかがまるごと姿を消しているという事実もあり、取り敢えず退を殴ってから渋々調査に入った二日目が今日だった。つまり何が言いたいかって、
なめてかかって花見しようとしてすいませんでした。
「…って、聞いてるんですか!?四楓院さん!!」
「んー聞いてるよー。なんで空に浮いてるのか、でしょ?」
「違います!!早く皆さんの所に帰りましょう、と言っているんです!!」
「嫌だよーだって喜助(仮)は完全に私を暗殺者だと思ってるもん」
「だから!!事情をきちんと話せば皆さんは分かってくれます!!」
「千鶴ちゃん…なんの幻想抱いてるか知らんが、私が今一度あの広間に戻ったらあいつら迷いもなく、私の説明を聞く間もなく、殺しにかかってくると思うよ?」
「そんなことありません!皆さんは優しい方達ばかりです!」
誰かーこの子に世の中の厳しさを教えてあげてー。まぁでも、純粋そのものっていう目してるから何言っても無駄なんだろうけどね。ああ、ていうか。
「千鶴。何で私に何か"事情"があるって思ったの?」
今さっきの千鶴の言葉。何気なく聞いていれば聞き逃してしまいそうな所にその一言は入っていた。
どうやら言った本人も曖昧らしく、一瞬考えるように目をパチクリさせてから思い出したように、ああ、と言う顔をした。
「目、です」
「目?」
「はい。沖田さんや土方さんにああやって強気に出てらしてましたが、四楓院さんの目はどこか不安げでした。でも決して自分の力量を不信がっている目ではないなとも思ったんです。まるで何かを否定したがっている…そんなような目に見えました」
エスパーか?
あまりにも図星過ぎて今度は私が思わず目を瞬かせてしまったが、良く考えればそれだけ目に感情を映してしまったということ。予想外の平行世界移動に私は思ったより焦っていたらしい。加え、薄暗い部屋という状況に無意識に甘んじてしまったようだ。ていうかそもそも、あの広間から此処に来たのはキャパオーバーしそうだったから軽く現実逃避をしたのだ。
「良く、見てたね」
参ったな。そう言って地面に下ろしてやれば何時の間に!?と言って目をまん丸くしながらもありがとうございますとお礼を言う。その目にはやっと話す気になったんですね、と書いてあるが悪いがそれは更々ない。地上に降りたのは千鶴を戻すため。私は斬魄刀を奪取次第、ニセ土方と再接触を試みるつもりだ。だって情報が足りない。取り敢えず今の日本の政治事情を聞き歴史を確認して、先ほどの吸血鬼について…吐かせる。頭の硬さはうちの副長といい勝負だから鬼道で催眠をかける必要があるだろう。浪士の取り調べ用にハッチから教わっといて良かった。
「あ、ここちょうどさっきの広間の裏ですね。じゃあ私、土方さん達を…」
「千鶴」
「は、はい!あ、私何か気に触ることを…」
「いや、そうじゃなくって」
土方さんの部屋って何処?
そう言おうとした時、不意に僅かな風の流れの変化を感じてその場から飛び退いた。着地しながら見れば、今まで私が居た所にクナイが二本と小太刀が一振り刺さっている。千鶴は一瞬何が起きたか分かっていないようだったが、地面に突き刺さるものを見て目を見開いていた。そんな彼女を見てから小太刀が飛んで来た方、つまり屋敷の方に目をやれば刀を右手に持つ人間がこちらに歩いて来るのが見えた。
「…へぇ。これも避けちゃうんだ、やっぱ」
あの忍擬きかポニーテール少年か。どちらかであって欲しいという私の希望は今の言葉で見事に打ち砕かれた。ニヤリと妖しげに笑う猫のような彼は見まごうことなく総司さんだ。
「…分かっててやったのか。それにしては随分危険な賭けをしたもんだ。万一少女に当たったらどうするつもりだったんだ?」
「バカにしないでくれる?千鶴ちゃんに当たるワケがないでしょ」
そうやって話しているうちに、お前らテレパシーでも使えるのかというぐらいにぞろぞろと集合して来た"しんせんぐみ"の彼ら。
お目当ての土方もいることだし瞬歩で攫って、という手段もありかな。…なんて、思うだけでとても実行になんて移せない。理由は二つある。一つは今現在進行形で私に笑顔で斬りかかっている総司さんを始めとする彼らの攻撃を先程投げられたクナイの内の掴んだ一本で受け流しているから。そして、もう一つは、霊子の薄さだ。私のいた世界の現世、なんてもんじゃない。それにあそこは天人が来てから少し大気の霊子配分が変わって死神にとって過ごしやすいぐらいの環境になったのだ。対してコッチは凡そその半分。滅却師のように霊子を集めるタイプだったらどうにか持って来れただろうが、生憎死神は自らの体内に頼るしかない。霊圧回復は大気中の霊子濃度にかかっているのだ。つまり、さっきのいざこざで縛道の三十番・百弱の瞬歩の連用・腕の止血などに結構な霊圧を使った私は軽いガス欠で、その回復も殆ど絶望的だ。だから。
「…どういうつもりだ」
「どうもこうも。一対五、明らかに分が悪い」
冷静に考えろ、と自分に問うてみる。異世界に来てしまった時点でまず考えなければならないことは、帰る方法。いつも私の助言をしてくれる喜助、私の腕を引っ張ってくれる夜一、私の我儘に付き合ってくれる真子、達はいない。何もかも自分でこなさなければならないのだ。いつも私の側にいるのが当たり前だったから多少無茶しても誰かが助けてくれるだろう、という思いが無意識にあった。だけど、今はない。あり得ない。世界が、違うのだから。ということを、土方が自分以外を退かして対峙するのを見ながら気付けた。だから、土方が殺気飛ばしまくりで向かって来てもその場から動かずクナイも下げたまま、じっと彼を見つめることにすれば訝しさMAXの表情で問われた上の一言。刀の切っ先が私の眼前に突きつけられたのを見て息を飲んだ千鶴を除き、ほぼ全員が同じ表情をしているだろう。
「…お兄さん」
「…なんだ」
「ここは、何処ですか?」
「新選組の…」
「そうではなく。地名を聞いているのです」
そう言えば、表 訝しげな表情は更に増し、iPhoneでも挟めるのではというぐらいに眉間のシワが寄った。
「何を言ってんだ、と思われてるんでしょうね」
「当然だ。てめぇのいる場所も分からずに歩いてるヤツなんざいるわけねぇんだよ」
「居るんですよ、それが」
「…自分だ、ってか?」
ご名答。私はそう言いながら微笑むと、すぐにその笑みを消して真っ直ぐと土方の目を見た。彼はその変化に僅かにたじろぐような表情を見せるが、私の覚悟はボンゴレリングだって灯るぐらい強いのだからそれぐらいの反応をして貰わないと困る。
「私は、とある所で護衛兼補佐、という役職をしています」
「…それがなんだってんだ」
「場所は江戸。私の所属する部門は将軍様の傘下にあります」
「!…なんだって?」
驚いたのは目の前の土方だけではない。彼の周りの幹部達もざわついている。あの斎藤でさえ目を見張っているのだから相当なことらしい。
「…将軍様の傘下ってんなら多少は名のしれた部門だろう。言え」
そして当然来るだろうと思っていた土方の質問。それに私は思わず口角を上げた。喜助がいつも銀時や土方と話している時にこのような表情になるのが今、納得出来た。自分の思うように会話が進むとこうも嬉しいのか。しかし、相手からしたら不愉快極まり無い。現に土方の顔は再び眉を潜めている。その表情を見て、一つ短く息を吐くと私は一思いに言ってやった。
「真選組、という部門です」
あ、オモロい顔。
(恐らく彼らの頭は混乱しているのだろう)
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