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「てめぇ、何処の藩だ?」


喜助の声だ、と驚いたのも僅かな間。どうも耳慣れぬ単語に思わず自分の口が動いていた。


「…"はん"?」

「それか、攘夷浪士か。こんな夜更けに珍妙な真っ黒な着物で刀引っ提げて歩いてんだ。一般人ってこたぁねぇだろ」


そう言ったきり、なんていうか…なんか決まった、みたいな雰囲気で押し黙っている喜助(仮)。胸倉を掴まれ無駄に顔が近い所為で迂闊に笑えないが、無駄に整っている顔のお陰でなんとか我慢出来ている。言えばいいのだ。自分は真選組の副長護衛兼補佐で、朝方ターミナルへ攘夷浪士の制圧に行ったら不覚を取られ奴らの奇妙な砲撃により見知らぬ地へ飛ばされた、と。そして、尋ねればいいのだ。此処は何処ですか、と。だが、それは出来ないと分かっている。この目の前の男の剣幕に億している訳ではない。"異なる"、からだ。


「………」

「だんまりか?おもしれぇ…総司や斎藤の話じゃ大分暗殺に長けてるらしいじゃねぇか。なんだ?それじゃあ誰かに雇われた殺し屋か?」


この人はどうしても私を"悪者"にしたいようだ。生憎私ははんについては何も答えられないし、攘夷浪士でもない。それに勿論暗殺者でもない。…まぁ、今は。最後の蛇足は抜きとしてそう伝えれば喜助モドキは思い切り鼻で笑いやがった。だが、変わらず顔は綺麗だ。腹立つ。


「証拠は」

「証拠?そうですねぇ…あぁ、私は"はん"が何を指すのか分からない」

「またエラく思い切った嘘を吐いたな。この時代、藩を知らない奴なんざいねぇよ」

「…ならその"はん"とやらの定義をお教え願えないですかね」


そう言ったと同時、首筋に刀の鋒が当てられた。先程の一さんにやられた時より刃が皮膚に食い込んだらしい。生暖かい液体が首を唾たるのが分かった。


「ふざけるのも大概にしろ」

「生憎巫山戯たつもりは微塵もありませんよ。知らないものは知らない」

「じゃあてめぇ…異国人か?その奇妙な着物もそれで説明がつく」

「…異国人、というより…」

「?…なんだ」

「いえ。何でも御座いません」


今それを言ったとしてこいつらは到底理解出来ないだろう。私だってまだ半信半疑なのだから。


「…オイ、お前いい加減…」

「副長」


なんて思ってたら真っ黒な、まるで刑軍の部下達が着ていたような黒装束を身に纏った小柄な男が所謂屋根裏から喜助もどきの後ろに現れた。
忍、にしては気配がうるさい。全蔵やさっちゃんのような静かな気配ではないから恐らく退のようなら密偵の任務かなんかだろう。とすると彼は監察か。


「…なんだ」

「例の奴らを追って外に出ていた幹部が全員戻りました」

「そうか。悪いが…」

「それと。局長が広間に集まるように、と」


ああ、この顔。私は何度も見たことがある。後ろのなりきり忍の最後の言葉に呆れたような、諦めたような表情と共に深い溜息を吐いた喜助(仮)を見てふと思った。


「…ってことは、あの人はこいつを詮議にかけるつもりなのか?尋問じゃなく?」

「恐らくそういうことかと。俺にはこの人の治療を、とも言ってらしたので」

「…どこまでお人好しなんだ、あの人は」


そう言って再び溜息を吐くと、急に私を掴んでいた手を離したもんだから思わず尻餅を着いてしまった。両手を縛られてはいるものの、咄嗟に受け身がとれないのはやはりさっきの薬が効いているのか。


「オイ」

「何でしょう」

「今から広間に行く。が、妙な真似をしたら…分かってんだろうな」

「精々心に留めておきます」


私の返事が気に入ったんだかそうでないんだか。どちらとも取れない表情をすると彼は刀を仕舞い、私を引っ張り上げた。












「…名は」

「山田太郎」


広間に着き下座の方へ座らされ、局長と思しき人と眼鏡をかけてやや前髪が邪魔そうな人がやって来たところで偽喜助にああ言われたので、こう言ってやった。ちなみに私が来た時には既に広間にポニーテールの少年を始め、やたら色気だだ漏れの人と筋肉バカそうな人と普通に優しそうなおじさんがいた。


「…この期に及んでまだ減らず口を叩くつもりか?」

「全国の山田太郎さんに全力で謝って下さい。そしたらきちんとお答えしましょう」


うわなんか喜助みたいな口調になってしまった。なんて、私が若干苦い顔をした時。


「入ります」


つい数十分前に聞いたばかりの声と共に広間の扉が開いた。が、その入って来た面子に私は思わず呟いてしまった。


「……驚いた。こんな場所に女の子がいるのか…いや、住めるのか、の間違いだな」


元々少し大きめの霊圧が段々近付いているのを感じ、自分の霊圧を伸ばして探ってはいた。だがまさかその霊圧がこの部屋に入って来るとは思っておらず少し警戒していた所へ入って来たのは、一さんと総司さん…と、小柄な女の子。
ただでさえその霊圧の強さに驚いていたのにそれが女の子と来た。しかも総司さんが普通に会話をしているのを見れば霊魂ではないことが分かる。しかし何故か、その女の子も目を丸くして口をあわあわさせている。大丈夫か、この子?


「な、ななな何でですか!?」

「へ、何が?」

「な、何で私が女だって…」


分かったんですか、と声にならない声が聞こえて来た。見た感じの仕草から天然っぽいのかなと思っていたのだが、それは当たりだったらしい。それでバレないと思ってる彼女の危機感の薄さが物語っている。ていうか私は寧ろ恐ろしさを覚えるぐらいだ。ほら、総司さんだってやっぱバレたねぇーとか言っとるし。まぁ、きっと男装は彼女の本意ではないのだろう。しかしそれ程しっかりとした男装でないのを見ると、この子はあまり組織の幹部以外と接していないと思われる。つまり、特に気を立てて気を付ける必要もないのだろう。


「貴女、お名前は?」


私がそう考えている間に、今にも総司さんに掴み掛からんばかりの勢いで身を乗り出していた彼女を制するように問えば、驚いたことに彼女は慌てて私の目の前に正座をして答えてくれた。


「ゆ、雪村千鶴…です」


何故、こんなにも人斬り集団とかけ離れた子供がここに居るのか。
その素直過ぎる行動に再び驚いたと同時に私のアタマの中を過ったその疑問。だが、それはこの私の置かれた状況を理解してからで良いだろう。そう思って彼女、千鶴に微笑みかけると私は口を開いた。


「千鶴、ね。私は四楓院名前。宜しくね」


怪我の手当。
そう言えば、千鶴は再び目を見開いて私を見つめていた。
























そよ様、元気かな。

(私の周りでまだ純粋な方の子供はこの人ぐらい)

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