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そして。次に目を開くと自分の身体は土の地面らしき場所に転がっていた。なんで土だ、と思ったのも束の間。先程のやり取りが一気に頭に蘇って来て頭を抱えた。


「…あー。やっちゃったよ」


他人を守ってとかならまだしも、完全に自分の油断から招いたこととなると、落ち込み度も半端ない。しかもフラグを立てて。


「取り敢えず…」


何時までも後悔していても仕方がないと、立ち上がりながら周りを見渡して愕然とした。先程までとは全く違う光景、だけではない。此処ら一帯が真っ暗であるのを見れば、時間帯も違うことが容易にわかる。私達がターミナルに着いたのは午前九時二十三分だった。だが此処は星が綺麗に見える程真っ暗。完全に夜だ。そして目に入る光景。建ち並ぶ家々についてなのだが、これは良く見た光景だと思いきや、良く見ればガスメーターはないし電線やアンテナなども見当たらない。そう。副長や総悟など真選組の誰かが見れば、天人が来る前の街並みに似てると言うだろう。だが、私の頭をよぎるのは違った。


「…流魂街」


尸魂界にいるような感覚に陥ったのだ。更にこの状況になる直前に未知のものに巻き込まれた、と言う事実がその感覚をより確信へと近付かせている。


「…落ち着け。それにしては霊子が薄過ぎる」


冷静に調べてみれば当然のことだ。私が此処に来てからは最低でも三分は経っている。浦原喜助の逃亡幇助としての罪に問われている私の霊圧など早急に対処されるべき事柄であって、時間から考えても刑軍が到着してもおかしくない頃合いだ。なのに、辺りには何の気配もない。つまり此処は尸魂界ではない。と、信じたい。


「だとすると。此処は何処なんだ」


この際どうやってターミナルから民家に来たかなんてのは、特殊銃によるで良い。今解決すべき問題は此処が何処で江戸からどれぐらい離れているのかということ。見た限り純和風な建物ばかりなので外国ではないことが分かる。それに電気が通っていないことから天人の文化に殆ど影響されていないのも分かる。…が。


「……いや。されなさすぎ、か?」


持ち込まれた文化の中で一番使えると判断された電気はあっという間に日本中へ普及した。そりゃあ、よっぽどの山中や僻地は需要がないから通ってはないだろうが、今や日本に電気を知らぬ者はいないし、敢えて使わない者も殆どいまい。ところがどうだろう。私が今いる場所は、かぶき町に近い街並みをしており、そうすると需要がないとはとてもではないが言えない。なのに、電気がない。と言うより、電気そのものを知らないんじゃないかって思えてしまう。


「いや…流石、に……いくらなんでも…


「な、なんだお前は!?」



と、ある考えが過ぎり、若干焦った時だった。突如、切迫詰まった声が一帯に響き渡った。大した霊圧も感じないので人間で間違いないと思うが、その声はやたらと緊急性を帯びているものだ。真選組として現世の警察になってからから早十年。こういう声に反応することが習慣付いていた私は、無意識にその声の方へと足を走らせていた。だが、そこに着いて自分の身についた習慣を呪った。


「……なんだ、これは…」


目に入って来たのは不気味なぐらいの鮮やかな赤。満月らしく、眩しいほどに照らされた狭い路地裏の一面をほぼ埋めつくすかのように血の海が広がっている。その中心に折り重なるように倒れている三人の男達の息は既にない。死因は失血性ショックだと火を見るより明らかだが、どうも死体の様子がおかしい。遠目から見ても分かるぐらい致命傷以外の傷が多いのだ。強い怨恨に因る殺人。喩え、警察関係者でなくとも行き着く結論だろう。だが、どうやら今回はそんな単純なモノではないらしい。

死体の上に男が馬乗りになっているために。

一応断っておくが、別段如何わしい光景を目の当たりにしている訳ではない。言ってしまえば寧ろ、そっちの方が良かった。


「…吸血鬼って御伽噺の中だけかと思ってたんだけど」


恐らく死体の致命傷となったであろう傷に口を当てて啜る様はまさにそれ以外に当てはまるモノがない。


『バウント、ってご存知っスか?』


人間の魂魄を吸って生き永らえる、死神とも滅却師とも勿論人間とも異なる種。それをバウントって言うんスよ、と喜助に聞いたのは五十年程前だったと思う。まるで血を吸っているかのように見えるので彼らは屡々、人間達から吸血鬼と呼ばれているらしい。だが、コイツは明らかにバウントの霊圧ではないし、実際彼が啜っているのは魂魄ではなく血だ。となると、コイツは本当の吸血鬼、となる。


「吸血鬼は実在したのか…
…て、呑気に考えとる場合じゃないな」


いくら死んでいるからと言って仏様は粗末に扱うべきではない。そう呟くと、一向にやめる気配のない吸血鬼(仮)に狙いを定めて呟いた。


「【破道の一 衝】」


直後、ぎゃと奇妙な声を発しそいつは軽く吹っ飛んだ。なんだ、案外弱いな。そのいとも簡単に飛ばされた様子を見てそう思ったのも束の間。次の瞬間には奇声を発し、刀を振り回しながらそいつがこちらへと向かってきた。


「ヒャハハハハハハハハァア!!!」

「…っと、何がそんなにオモロイねん」


吹っ飛ばされた様子からは想像も出来ない俊敏な動きで驚くも、振り降ろされた刀に込められた物理的な力の強さに更に驚く。一応此方も刀を抜いて受け止めたので、その金属音の重さから尋常ではない力と分かる。だが、生憎こんなのに競り負けるつもりは微塵もない。刀を思いっきり薙ぎ払うと、縛道をかける為に狙いを定めた。


「【縛道の三十 嘴突三閃】!」


漸くまともに話が出来る。
綺麗に塀に磔られた吸血鬼に近付きながら私の頭を占めていたのはそれだけ。この時、ほんの少しでも警戒していたら、と後で何回思ったことか。そう。万一にも鬼道が破られるんじゃないか、とか。


「…血、……血を、」

「生憎あんたにあげる血は、一ミリも…っ、」

「血を寄越せェェェエエエ!!!!」


だが気付いた時にはもう遅く。後悔後先立たず。そんな言葉が頭を過る中、斬られた右腕を抑えながらすぐ近くの民家の屋根に飛び乗った。


「…マジか。腕力だけで解けるのか」


今目の前で起きた事がとても信じられず、腕の痛みも忘れて茫然としていると、知らずに零れた言葉。確かに、虚化した拳西が六十三番、しかもハッチの鬼道を腕力だけで外したのは見た。だけど、あれはあくまで死神の、虚化も加わった異例中の異例だ。だとして今、死体より鮮血を望むらしく私に熱視線を向ける得体の知れない吸血鬼は一体、何なんだ?


「んー…でもそんな暇ァないみたい」


何かおかしいと思ったら、限界まで考えて下さい。喜助の教えに従おうとしたのだがどうやら無理みたいだ。人間ならまずあり得ないだろう地面から助走なしの跳躍で私のいる場所まで上がってきた吸血鬼の刀を、受け止めてそんなことを思う。
逃げるのは容易い。
そう考えもしたがコイツが人間の集まる都会に出てしまった時のことを考えると、まさか放っておく訳にもいかず手足の腱を切って動きを止めようと一旦距離を取る。そして、吸血鬼がこちらに踏み込んで来た瞬間に狙いを定め、すれ違いざまに手足四本の腱全てを斬った。斬られた本人も何をされたか理解するのに時間がかかる短さで。鬼道で吹き飛ばした時に微妙な声を上げていたので、痛覚はあるのだと思うがこれだけ無惨に人を殺しているのなら容赦は無用だろう。暫く痛みと向き合って反省すればいいと、思っていたのだが。


「…んー、これは困ったな」


腱を斬られたら普通起き上がる事はできない。それは周知の事実だろう。なのに、彼は起き上がっている。しかも信じ難いことに、血染めの袖の隙間から覗く傷は跡形もなくなっていた。死神でもないし、霊でもない。妙な霊圧が混ざってはいるが、主たるものは人間のそれに近い。だが、腕力に至っては人間離れし過ぎたものを持っていて、夜兎とほぼ同じと言っても過言ではない。更に、超速再生に近いモノも持っている。

不死身。

この言葉が一番しっくりくるか否か、確かめる術はある。こう頭でごちゃごちゃ考えている間にも吸血鬼とは刀を交えているので、試しに心臓か延髄を刺してみればいいのだ。それでもし死んでしまっても、幸い今此方に人間と見られる薄い霊圧が近付いて来ている。被害を最小限に抑える為に、と口実はいくらでも作れる。


「…仕方ない、か…」


人間が来たらあの死体と同じ末路を辿り兼ねない。庇うことは造作もないが、恐怖に慄いた人を庇いながら戦うもの程やりにくいものはない。


「…悪いな」


取り敢えず地面に下りて、何の考えもなしに突っ込んで来る吸血鬼の正面に立つ。そして瞬歩で一気に距離を縮めると、すれ違い様に心臓の左心室と上大動脈を刺した。直後、素早く吸血鬼の後方5メートルぐらいまで距離を取って構えを下げずにいると、僅かに呻き声を上げて彼は倒れた。そのままやや暫く待ってみるが、彼は地面に伏したまま起き上がる気配はない。どうやら、懸念していた"不死身"ではないようだ。だが、そう思ってつい気を緩めたのがいけなかったらしい。


「…動くな。筋一本でも動かせばその首、飛ぶと思え」


斬魄刀を鞘に収めたのとほぼ同時だった。首筋にひんやりとした感覚と共に、更に冷たい声が私の耳に滑り込んで来た。




















あ、左利き。


(ちなみに私は両利き。何故かって?)
(それは秘密です)

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