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虚化抑え込みは体力の消耗が激しい。今回は暴走が始まってから二分も経っていなかったので、即爆睡ということにはならなかったが、風間達の戦闘に加わる元気はなかった。立つのも危うい私を真子が抱え上げて、迷惑そうに相手をしている三人に向かって引くでと声をかけるのを何となくぼんやりと聞きながら目を閉じていたら寝てしまったらしい。ふと気が付いて目を開ければ、ハッチの度アップが目の前にあって思わずギョッとしてしまった。


「……ちょ、ハッチ。マジで心臓止まるかと思った。やめて私殺す気ですか」

「コレはすいまセン。ところで名前サン、他に具合の悪い所はありまセンか?」


そう言われて漸く自分が治療用の結界内にいることに気付いた。同時に更にその外側にもこの部屋を覆う様にもう一枚結界があることにも気付いた。恐らく私が義骸を抜けたので霊圧遮断を兼ねたモノなのだろう。怪我の治療ばかりか、余計なことまで迷惑をかけてしまった。治療用結界はもういいよと言えば、はいデスと言って親指と人差し指を擦る動作をする。大分身体が楽になった。傷の痛みが慢性的に付き纏って感覚がおかしくなりかけていたので、これは涙が出る程嬉しい。ハッチにお礼を言えばにっこりと笑って頭を撫でてくれた。


「名前、もういいんか」

「真子!」


何の前触れもなしに開いた障子から覗いた顔に思わず声を上げた。少し前まで彼は暴走していたのだ。何の確認もなしに爆睡モードに入ってしまってたことに今更ながら恐ろしさを感じつつ慌てて布団から立ち上がる。


「大丈夫、なの?」

「何の問題もあらへん。お前のお陰でな」


本人の言う通り実際触れてみても特にブレはない。理論を聞いて、練習して。本番はさっきが初めてだったが思ったより上手く行って、安堵の溜息が零れた。本当に良かったと俯いて呟いていると、障子から白がひょっこりと現れた。手にはお菓子が山程乗っている。最早実家並の落ち着き感に、そう言えばこの部屋は一体何なんだと尋ねれば偶々空き家だったのをハッチが綺麗にして仮家として住んでいるらしい。違う世界への順応性の高さに最早笑しか出ない。甘いものの幸せを噛み締めながらここに来た経緯を聞いていればリサと拳西も来て、漸く自分が一番尋ねたいことを思い出した。


「誰がこっちにこのメンバーで来るって言ったの」

「あーそれは喜助が、」

「「「「真子/サンデス」」」」


問答無用で真子を殴り飛ばした。綺麗に部屋の隅へ飛んで行った彼の胸倉を掴み、にっこりと笑えば怯える真子。ちゃうねん!理由があんねん!と叫ぶ彼の鳩尾に一発叩き込み、ウソはアカンよなと笑顔を絶やさず言えば、すいませんと素直に謝る。


「死ねクソボケ真子」

「名前。女子がそんな汚い言葉を使うんじゃねぇ。やるなら殴る蹴るの暴行だけにしろ。ったく言い出しっぺが暴走しやがって、世話ねぇよ」

「…あ、それ」


拳西の言葉に感じていた疑問を思い出して真子の胸倉から手を離し立ち上がると、人差し指を拳西に向けた。それにリサが首を傾げる。


「なんや?」

「なんで真子暴走したの?別に強いヤツいなかったでしょ?」


その瞬間に四人分の視線を向けられた。え、何私なんかしたと若干焦ると、足元で溜息が聞こえた。見下ろせば今迄とは違った表情で私を見上げる真子と目があって、思わず後ずさった。


「お前、目ェ着けられとんで」


誰に、なんて聞く程馬鹿ではない。どういう経緯で私と風間との戦闘を聞いたのかと問えば、本当に唐突に現れた二人組がベラベラと有る事無い事喋り倒し、最終的に私が血だらけで瀕死だという地点に着地した様で。確かに接触したから私の霊圧は彼らに残っていて。よもや戦闘において私に喧嘩を売って無傷で逃げ仰せるとは思わないだろう。加えてこの世界での義骸に入ったままの霊圧探知は不可能に近い。アホ言えと真子が怒り任せに斬魄刀を抜いたところ、急に虚化が暴走したようで。それに焦るも喜助の道具を駆使して抑えようとしたのだが、二人組に邪魔されどうにも困ってた時の私の登場という流れだったらしい。私の心配をしてくれたのは嬉しいが敵の情報に踊らされて感情に任せるとはなんて愚行だ。だけれども、全員は私の方を向き、もう少し言動を控えろと口々に言う。
何故か私が責められるのに納得はいかないが、皆が言うことに一理はある。自然とその場に正座すると、ごめんなさいと謝っていた。
だけど、やっぱり思うことがある。


「私、ヒーローじゃん」

「お前一回死ねェ、アホ」

































お返しとばかりにど突かれた頭を摩りながら急いで屯所へと戻ると夜中の二時を過ぎていた。ちなみに携帯は圏外ではあるが生きていて、それで時刻を見ている。尸魂界にいたので月や太陽で時間を知ることも出来るが、慣れとは恐ろしく、最早万国共通の時間に頼りたくなるものだ。


「待て、ルーチェ」

「主。ご無事で」


ルーチェは昔尸魂界が計画した非人道的兵器で処分待ちだったのを偶々私が拾ったことで知り合った。喜助が技術開発局を開こうとした時に何か掘り出し物はないかと古い倉庫を覗きに行った時に私も着いて行って。現世駐在任務に行ったことはあったので義魂丸を持っては行ったが、使う機会はなく、一つ試験管に入れられた飴玉に首を傾げた。

『…それは、所謂失敗策っス。ですが、使い様によっては自分の相棒にもなり得る』

後々になってよく考えてみれば私が取る様に仕組まれていたのかもしれない。喜助が下手をすれば暴走する様な危険な、しかも失敗策の兵器を私に持たせるワケがないからだ。彼の説明に一つ考えて手に取ると、喜助に義魂丸が入る義骸を作って貰い、ルーチェを手元に置くことに決めた。彼女は気配に関することに非常に長けていて、隠密行動は勿論、ある一定範囲の人の気配を操作出来る変わった能力を持つ。今回、この壁の薄い部屋で普通に千鶴と会話が出来ていたのは彼女の能力故だ。それから耳と目がズバ抜けて良い。
そんなルーチェに私の行動と千鶴のことを伝える様に頼んだのだが、思ったより食いつきの良い千鶴に困惑していたらしい。私が入って来るなり安堵の表情を浮かべた。


「どこ迄話した」

「千鶴様と同じ気配を持つ者の存在迄を」

「そうか。手間をかけたな」

「いえ。お役に立てたのならば」


同じ顔が同じ空間にいることに話を聞いていたとしても驚きはするだろう。口をあんぐりと開けて私を凝視している。そんな千鶴に笑いながら隣に座るとルーチェの方を見た。


「千鶴、混乱させて悪かった。彼女は私の分身の様なモノだ。名をルーチェ。外国語が浸透していないお前には少し慣れ辛いだろうが、出来ればそう呼んでやって欲しい」

「はい。'るうちぇ'さん、ですね?」


やはりたどたどしい呼び方ではあるがそこがまた可愛い。ありがとうと言って頭を撫でると話を戻すことにした。


「さてお前の同族だが、ルーチェも言った様に知るには良く考えた方がいい」

「どうしてですか?」

「現実はそんなに甘くない。真実を知るには痛みを伴うこともあるということだ」


風間千景、不知火匡、天霧九寿。この三人は霊圧から間違いなく雪村千鶴と同じモノだ。しかし戦闘能力は育ちの環境の違いからか千鶴には全く備わっておらず、これ程迄に食いつく様子から恐らく自分の境遇も今一分かっていない。しかも三人は新選組と一戦交えている。一応新選組預かりとなっている彼女がよもや敵と同種とあればどんな扱いを受けるか、また千鶴自身が苦しむか想像に難くない。そもそも今回こうやって彼女に話したのは風間千景達との関係を知りたかったという単なる興味本位であって、新選組どうこうは関係していない。そしてこんなにも千鶴が無知だということも想定はしていなかった。それなのに、異世界から来た私が軽い気持ちで教えて良い物なのかとストッパーがかかり、出し惜しみの様なことをしているのだ。
偉そうなことを言っているが、簡潔に言えば千鶴ごめん、だ。
私の内心の葛藤など知らずに真剣に考えていた千鶴はやがて、ゆっくりと私とルーチェの顔を見て、口を開いた。


「少しお時間を下さい」



























困ったな。

(もう少し待てば良かった)

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