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私が義骸を抜けたのは生命の危機からだ。
この世界に来て最初に吸血鬼擬きにつけられた右腕、沖田総司と一試合した時の左腕、そして風間とかいう巫山戯た野郎のお仲間に撃たれた脚。しかも普段なら自分の霊圧と合わせて直ぐに治るであろう傷が中々治らず、戦闘になった途端に開くと来た。一つはこの世界の霊子の薄さにあるだろうが、最大の原因は追跡から逃れる為に入った霊圧遮断型義骸だろう。この義骸、確かに霊圧遮断だが、ある程度その機能を止めることは出来て、自分の持ちうる霊力全開の戦闘も出来る仕様になっている。他の人はないが、私は過去に二回それを使った。不便ではないが、今の体力的にこの義骸は厳しい。原田左之助が来て、遅れて沖田総司が来て。二人の表情にあったのは逃亡への疑惑ではなく心配をしたというなんとも拍子抜けのする感情だった。やはり甘い奴らだと内心嘲笑しながらも、風間千景らがどうにも気になったのもあり、自身の回復を理由に千鶴への言伝と共に後のことは義魂丸のルーチェに任せて何年振りかに義骸を抜けた。

瞬間、唖然とした。

久々の感覚に霊力関係の情報が膨大に入って来る。そしてその中に疑いようもない霊圧情報が入っていた。


「真子?…いや。リサと白と拳西…珍し。ハッチもか?」


ここの死神に見つかるのも面倒なので、全体に霊絡を張り巡らせながら瞬歩で真子達の方へと向かう。私からの連絡手段が一切ない状況下で、コッチの世界へ誰かしら来ることは有る程度予想は出来ていた。しかし、それが高リスク集団オンリーだと誰が予想するか。白とハッチがいる辺り良く考えられているとは思うが、押し切った人物に憤りを感じざるを得ない。思わず感情に任せて踏み込んだ所為で民家の塀が綻んだ気がするが、後でハッチに直してもらおうと安易なことを考える。そんなことを思う辺り彼らに会えることが嬉しいのかもしれないと自嘲する。だけど、楽観視してはいられない。早く向かわなければと更に足に霊圧を込めると、突如、霊絡の色が三本変わった。
その色は、薄桃色。
何とも可愛らしい色に一瞬目を疑うが、近付く霊圧に顔を顰める。空中で足を止めると、その桜に色付いた霊絡を握り潰した。


「まだ、何か御用があるのですか」

「……話す時は相手の顔を見て話せ。無礼者が」

「訪ねて来たのは貴方がたでしょう。正面ではなく私の後ろをコソコソと付け回す様に追うだけに留まらず、態々私の方から足を止めた事に対しそれを無礼とするか。現世の存在の分際で身の程を弁えろ」


風間千景。
振り返らず、霊圧の調節もせずに言い切れば返って来たのは一発の銃声。だがそれも私へと届く前に消滅する。先程の小競り合いでは廃炎を使用したが、今は私の霊圧に現世の物が耐え切れなくて消滅したものである。後ろで誰か一人が息を飲む音が聞こえたのはこれが廃炎ではないと理解出来たからだろう。無礼は無礼だが、その程度のレベルにはいる。僅かだがその力を称えて振り返れば、デジャヴが起こった。


「さっきよりは力が強いな」

「貴様は先程よりも傲慢さがデカイぞ、四楓院名前」

「そう見えるのならお前は大したものだ、風間千景殿」


そう言って嘲笑をすれば、派手に薙ぎ払われた。約十分前と同じ様に風間が剣を向けて来たのだが、あの時の比にならないぐらい力が込められていて。益々風間達の存在に疑問を覚える。天人文化がない一体こいつらは何なんだ、と。
だが、私は今こいつらに構っている暇はない。


「生憎と私は忙しい。瞬歩について来るその技量に感服はするが、遊びはまた今度にして貰おうか」

「貴様……先程から黙って聞いていれば調子に乗りおって。身の程を知れ!」


プライドが恐ろしく高い奴の扱いは慣れていない。自分の口調に若干後悔しながらも、如何せん、元々不機嫌であったこともあり中々自制が効かない。最早戦闘は避けられないかと向かってくる刃に諦めてこちらも戦闘態勢に入ると、ふと気付いた。
こいつらなんで空中に立ってられるんだ?
私は死神だ。空中の霊子を集めて固めて足場にするという行為を無意識に行うことで立っている。だが、彼らはどうだ。死神が見えるということはそれなりに霊圧は高いことは分かるも、霊圧を駆使した戦いが出来るとはとても思えない。現に数回打ち込みあってはいるが、多少の霊圧の衝突はあるもののそれは殆ど無意識下のものと思われる。ひとつ考えられるのは私と同じ原理で立っていると言うこと。しかし、とてもではないが納得は出来ない。し、情報が少ない中で安易に結論を弾き出すなどという軽率な行為もしたくない。


「……幻族でもあるまいし」

「何か言ったか」

「いえ、何も。それよりいい加減諦めては貰えませんかねぇ。私、急いでるんで、!?」


すが。
そう続く筈だった言葉は見事に消えた。風間やその仲間達の猛襲…いや、そもそもいつの間に消えたのか仲間達の姿がないのでそんなことはない。自分の認識を掻い潜って消えた存在がある、そんなことがどうでも良くなる程のことが起こったのだ。


「、なんだ…この異様な雰囲気は」


思わず風間がこう零す程だ。だが、風間に構ってる暇など最早一秒足りとも無い。私から注意が逸れたのをいい機会に、迷わず敵に背を向けると瞬歩をしてその場から消えた。

そして、目を疑った。


「し、真子兄ちゃん!!」


その姿を見るのはいつ振りか。鮮やかな金髪を覆う様に被さる仮面に、所々身体を蝕む虚の肉体。保持訓練の一環で見た時に思わず吐き気を催して直視出来なかったが、今はこの状態を何とかしなければと頭が働く程に大人にはなったか。だが、身体が思う様に動かない。喜助は私にある方法を伝えている。それを行えばこの状態を脱することは出来る。頭で分かっていても、行動に移せない。自分が死ぬのが嫌だとか、失敗するかもしれないとかそう言うのでは無い。アイツの、藍染惣右介の声が蘇り身体を硬直させる。未だに恐怖から抜け出せない自分に茫然としかけた所で、不意に響いた怒号で我に返った。


「名前!!しっかりしぃやァ!!」

「リサ、姉ちゃん……」

「今のこれを何とか出来るのはアンタしかおらん。喜助に道具は貰ったけど、何や雑魚が邪魔しよって白と拳西の手が空かん。ハッチも鬼道で抑えよってからにアタシ一人じゃ無理や」


両肩を痛い程に掴まれながら真子兄ちゃんの方を見れば庇う様に前に白姉ちゃんと拳西兄ちゃんがいて、何故かそれと対峙する様に風間の仲間達がいる。こいつら二人の霊圧にどうして注意を払っておかなかったのかと途轍もない後悔に襲われると同時に一気に冷静さが戻ってくる。リサに視線を戻し、唇を噛み締めると斬魄刀を閉まった。


「……矢胴丸副隊長。暴走してからの時間は」

「三十二秒や。…名前、イケるか」

「勿論です。その代わりお願い出来ますか、アレを」


直ぐ後ろに迫った風間の霊圧にリサも当然気付いていた。当然やと言って羽黒蜻蛉を抜くと、風間が何かを喚く前に斬り掛かって行く。その直後、白と拳西とアイコンタクトでタイミングを図ると、途中で真子の斬魄刀を拾いつつ二人の間を縫う様にして真子の前に立った。


「名前サン!!ワタシが抑えています!焦らずに!」

「ありがとう、ハッチ」


虚化は六十番代の鬼道を腕力で破る程の馬鹿力を発揮する。まだ一分も経っていないとは言えハッチが辛そうなのは一目瞭然だ。右手に真子の斬魄刀、左手で真子の左手を掴むと目を閉じる。腕はまだ虚化していないのが幸いだ。

『名前さん。これだけは、余りお教えしたくなかったのですが…』

そう言って二年前程に喜助に教えられたのは虚化暴走時の応急手段の方法だった。他人の霊圧と同調出来るという何とも不思議な体質を持つ自分のみに可能な方法であり、かなりの危険を伴う方法で。研究の途中で理論的に可能なことを発見したらしい。その原理は至って単純で、虚化が暴走した時に虚化しようとしている虚の霊圧にそれを上回る量のその人自身の霊圧をぶつけて相殺させて強制的に抑え込む。だが、下手すればその人の虚化に巻き込まれる可能性もあるワケで。喜助が一ヶ月程渋ったのも真子達が喜助に怒鳴ったのも納得出来る。だが。

『それでも、やりますか』

その言葉へ頷くのに何の躊躇いもなかった。元々は氷雨と共に消えていた命。それを救ってくれた彼らの為なら危険も厭わない。当然、死ぬことは彼らの行動を無下にすることになるので、決してそんな無謀なことはしない。だけど、彼らの為ならギリギリのラインで動く。
反対し続けた真子達だったが最後には私の覚悟に折れて、巻き込まれそうなら絶対に諦めることを約束に使うことを許可してくれた。

『……悪いな、名前』

そんな話から数ヶ月後。応急処置の修行をしている時に唐突に言われた言葉に何を今更と思いっきり殴った記憶がある。その人は今私の目の前にいて、私が一番同調し易い霊圧を持つ。


「……【倒れろ、逆撫】」


目を閉じて数秒後。同調点を見つけ直ぐに霊圧を変換させると、解号を呟くのと同時に一気に霊圧を流し込んだ。

































悪いな。

(相殺した直後)
(虚化の暴走が収まって、私と目が合った真子にそう言われ)
(思わず涙が零れた)

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