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最初、息が止まった。
名前さんの霊圧反応が途絶えた瞬間だ。前々から不自然に消えて行く魂魄に不審を抱いていた我々はその行方を追っていたので、主にかぶき町を中心とした霊圧関係の動きには敏感だった。常に誰かしらが大きなモニターの前に座り、異常があれば危険度毎に高さが異なる警告音が鳴るようにしていた。だがその最大警戒音を一番身近な者で聞くとは恐らく誰も予想だにしていなかっただろう。


{ターミナル。占拠してるバカ共を皆殺しに行くから}

『あれ、お花見は?』

{…夜桜までには間に合わせる}

『それってつまり、取り調べは見廻組に…』

{なんか文句あるの}

『……ないっス。お気を付けて』

{ん}


途轍もなく不機嫌な彼女の声を聞いてから約五分後。どの浪士集団が噂のバズーカを持っているか分からなかったので一応目に付いたのは片っ端から調べていて。律儀にも連絡して来た名前さんにそっち方面でも調べておくと伝え、美味しいお酒も差し入れ行きますからと宥めて無線を切った。しかしその差し入れは叶わなくなり、僕ら全員が一瞬パニックに陥りかけた。


『ちょ、喜助!!コレどないなってんねん!』

『、っ解析します!!』


霊圧の消滅は死を指す。あまりに唐突に起きたそれに流石に取り乱した。二三回キーを打ち間違えたのを後で思い出して苦笑したぐらいだ。消える直前、彼女の霊圧は大きく膨張し一秒とも経たずなくなった。その周囲に特別大きな霊圧もなく、害を加える様な霊圧もなかった。人間からの不意打ちを喰らった、或いは土方さん達を庇った末の行動だとしても、霊圧は徐々に小さくなって行くだけで突然消えたりしない。万一即死だとしても、その変動は見られる。そこが名前さんが死んだ訳ではないと安心出来たモノであり、一つの疑問点であった。
では、何が起こったのか。
一言で表せば異世界移動だ。ここ数週間の浪士の集団消失は山崎さんと涼さんの報告通りでほぼ間違いないと踏んでいた。だが考えれば考える程危険なそれに名前さんの希望もあって意図的に情報を操作した。つまり土方さんと沖田さんの怒り心頭の理由は大元を辿れば彼女に行き着くので正直あの時二人に怒鳴られた僕は理不尽というものだ。そして散々人間達を遠ざけている間に断界を経た異世界への入り方も掴んだので、夜一さんに行って貰おうと声をかけた時だった。


『ちょお待てや、喜助』

『平子さん、どうかしました?』

『白々しいなァ。何でワザワザお前の手足減らす必要あんねん。ここにおるやないか、お前のコマが。ぎょーさんと』

『…お気遣いは嬉しいんですが。貴方達はリスクを背負ってる。僕らの手が届かない所へ行って、』

『虚化が暴走した時に止める人がおらん』

『分かってらっしゃるじゃないっスか。なら、』

『アホ。人の話は最後まで聞け』

『…どういう意味っスか』

『トボけんのも大概にせぇよ喜助。俺は、'人は'て言うたんや』


'モノは'あるんやろ?そう言ってニヤリと笑う平子さんに溜息が零れた。呆れではない。この人の本性や行動を見抜くズバ抜けた鋭さに対する感心の意味で、だ。護廷隊の隊長として就いた時に恐ろしい人だと若干寒気がしたのは記憶に新しい。僕も科学者故に分析関連はするし、その為のデータの対象としてある人の心理や何やらを読み取る能力は抜けているとは思う。が、彼はそれの更に上を行く。今のだって自分では隠していたつもりだった。
未だ得意気に笑う平子さんをじっと見た。


『試作の段階です』

『分かっとる。一人では行けんのやろ』

『流石っスねぇ…ですが、万一暴走した時のことを考えても最低でも三人でなければ'持たせる'ことは出来ません』

『お前も頑固やなァ、喜助ェ。行かせてくれるとは言わんへんのか』

『……夜一さんに行って貰います』

『俺と拳西白リサハッチで行く。文句ないな』


白さんは最初から訓練なしに虚化が出来た。暴走の心配は一番ない。そして拳西さんは飲み込みが早く白さんを除いて一番虚化時間が長い。リサさんは第三者の目で冷静に判断が出来、言わずもがな鉢玄さんは鬼道のスペシャリスト故に暴走の制御に一番効果的な方法を取れる。隊長を務めていたローズさんやラブさんを選ばなかったのは銀時さんが行く時に護衛して貰うのに適した人材だから。よく呑みに行っている仲間としていざという時のある程度の連携が取り易い。…いや、今の段階では銀時さんを行かせると読んだことを褒めるべきだった。ひよ里さんを残したのは僕の助手として。それから彼は絶対に認めないだろうが、彼女を危険に晒したくないという平子さんの無意識の表れだろう。そんな感じで見事僕を納得させる人選とテコでも動かない彼の意思に二度目の溜め息を吐いた。


『……貴方も相当頑固っスけど』

『お前に言われとうない』


こんな会話をしてから一週間後、土方さん達が家に来て二日後。モニターと睨めっこしてたひよ里さんが不意に大声を上げた。


「き、喜助!!早よ来い!!」

「なんスかァ?そんなに慌て……!」


先に行った名前さんは勿論、平子さん達の行方も分からず、彼女達がいると思われる世界を示す画面は砂嵐だった。だが今その画面の中心に小さく紅い点があり、なんと画像がその周りから放射円状に鮮明になっていって。見事地図と思しきモノが仕上がって行く。思わず手に持っていた試験管を落とし、ひよ里さんと食い入る様に画面を見つめた。
これが何を示すか。そんなのは数秒で理解した。


「ひよ里さん、夜一さん達を呼んで下さい。それから銀時さんも」

「よっしゃ」


着ていた白衣もそのままに瞬歩で消えたひよ里さんが座っていた椅子に座り、その地図を見易いように拡大する。碁盤の目の様な地形。動く紅い点。その移動スピードから恐らく瞬歩で移動しているのであろう。とにかく連絡が取れそうな状況に一歩近付いた。
携帯を出してもう何度目になるか分からないメッセージを送る。特製の霊圧送受信機も兼ねた携帯だ。ちなみにひよ里さんと平子さんにプライバシー侵害携帯だと言われている。だが、今回これが大いに役立った。持たせておいて良かった。そう思ったのと同時に背後に霊圧がごっそり増えた。


「喜助。足取りが掴めそうってひよ里から聞いたんだけど、本当かい?」

「はい。今は色から見て名前さん一人しか掴めていませんが、恐らくこれでほぼ間違いないかと」


珍しく最初にローズさんが尋ねてきた。それに振り返りながら答えると、ちょうどラブさんの肩に担がれた銀時さんが降ろされた時だった。いや正確には落とされていた。その目は大きく見開かれている。多分今初めて聞いたのだろう。説明しろと無言で訴えて来たので向こうに行けそうですと短く言うと勢い良く立ち上がった。


「まず、今まで何で居所が掴めなかったのかご説明しましょう」


今にも僕に詰め寄らんばかりの銀時さんがラブさんに落ち着けと肩を叩かれたのを見て、椅子から立ち上がる。画面に背を向けて全員の顔を見た。


「今回のサーチには僕特製の携帯とリンクさせるようなプログラムを組み込みました。まぁ当然っスよね。霊圧で探すのが手っ取り早いですし、一番確実っス。現に此処を出て断界を通っている間は、平子さん達の霊圧ははっきりと画面に映っていました」

「だが、異世界に入った瞬間に消滅した」

「そうっス。名前さんの時と同じでした。正確には彼女の場合断界を通ってないんで同じとは言えないっスけど。ですが、今回は然程焦りませんでした。同じデータが採れたことに何らかの意味があると思ったからっス。
さて、ここで霊圧が消滅したかのように反応が消える場合を考えてみたいと思います。ひよ里さん」


なんやと言わんばかりの顔に苦笑しながらも何かありませんかと問うと、不機嫌そうに口を開いた。


「そんなん急に言われたかて鬼道かなんかで隠されたんしか分からへんわ」

「御名答っス、ひよ里さん。僕もそれ以外に思い付きませんでした」

「……どういう意味だい?浦原隊長」

「まぁ正解、と言いましてもその異世界に死神がいると言うワケではありません。問題は自分自身にあった。いや、自分自身が纏っている、と言った方が分かり易いっスかね」


流石に聡い。目を見開いて僕の顔を見た元死神の面々に頷いた。


「皆さんご明察っス。お察しの通り、この霊圧遮断型義骸のせいっス」

「…………皮肉やな」


ぼそりと呟いたひよ里さんの言葉は最も過ぎる。藍染や尸魂界の追跡を逃れる為に入ったこの義骸は確かに効力を発揮している。それにいくら遮断してると言っても人間より霊圧が高いのは当然で霊圧による識別は可能。だが、それはあくまでも今この世界の条件下においてしか発揮されず、異世界へと行った途端にそれが仇となる。恐らくこっちより霊子濃度が薄いのだろう。そもそも義骸を作った時の設定がこの現世しか想定していなかったので当然ではあるが、まさか別のことで不利に働くとは思うまい。まぁ、異世界へ行くなど普通予測はしないが。


「で、名前さんの反応だけ何故急に現れたのかと言うと、」

「抜けたのか」

「御名答っス、夜一さん。恐らく彼女は死神化しなければならない理由が出来、義骸を抜けた。そう考えるのが妥当でしょう」


現世に降りて来てから外では一度も抜けたことはない。見つかる可能性が大いにあるからであり、全員そんなことは分かりきっているから間違ってもそんなことはしない。だけど、彼女は抜けた。いくら世界が違ってもそんな迂闊なことはしない子だ。余程の理由があったに違いない。早く連れて帰る必要がある。


「と言うワケなんで、今回は銀時さんと夜一さんに頼みたいと思います」


義骸に入っておらず、霊圧をある程度認識出来る銀時さんと元々義骸には入っていない夜一さん。銀時さんだけでは心許ないので夜一さんを保護者代わりにというところだ。急に話を振ったのだが、頭をぼりぼりとかきながら驚いた様子もない。説明を省いても僕の意図を掴んでくれるようになった彼の頭に満足する今日この頃だ。伊達にいつも絡んではいない。


「……そりゃあ元より行く気だったから何も問題はねぇけどよ」

「けど、?」

「死神でもねぇ俺が断界を通れんのか?」

「その辺は問題ありません。人間の貴方にも通れるようにしておきました」

「そうか………ん?ました?」

「耳敏いっスねぇ。そうっス。出発は、」


今です。
そう言って待機して貰ってた鉄裁さんと穿界門を開くと、銀時さんの盛大なツッコミが発動した。



















うるさいっス。

(行く気満々って仰ったじゃないっスか)
(だからってココロの準備とかいるよねェ!?異世界とか断界とか、お腹いっぱい過ぎるから!!しかも何この門!!お前ら人間じゃねぇよ!!)
(ええ、まぁ僕ら人間じゃないっスから)
(いや、そうだけどねェ?え、あれ?良く考えたらめっちゃ不安になってきたんだけど…)
(さて。夜一さん、頼みましたよ)
(ああ。銀時、いつ迄惚けておる。置いて行くぞ)
(お願い夜一。それだけはやめて)

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