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「はい!終わりましたよ。でも絶対安静ですからね」

「…そんな大袈裟な…」

「大袈裟じゃありません!!それから、こんな深手で放っておこうなんてもう二度と考えないで下さい!」


四楓院さんの冷静さに驚いていたのも束の間。彼女に近寄った時むっと匂った血の臭いに本来の自分の目的を思い返して、私は直ぐに手当てを始めた。怪我の部位は右手首から肘にかけて約五寸程の刀傷。平助君曰く“失敗”したモノ達に斬られたらしいが、問題だったのはそこではなかった。


『……っ…』

『?どうかしました?』

『どうかしました、じゃありません!!この傷…痛くないんですか!?』

『全く』

『四楓院さん!!ふざけてる場合ですか!!』

『参ったな。ふざけたつもりはなかったんだけど…』


彼女の腕にあった傷は普通だったら出血が止まらない程の深さだったのだ。止血の仕方が良かったからだと四楓院さんは言ってたけど、血が止まっていたのは運が良かったとしか言いようがない。でも、これだけで済んだってことは相当医術に明るい人なのだろう。そう思いながら治療を終えて、最後に四楓院さんに注意したのが冒頭部分だ。私が必死に訴えても困ったような表情を返してくるだけの彼女に沖田さんがおかしそうに笑っている。他の幹部の人達の表情は固いままだが。


「千鶴ちゃん。そんな必死に怒らなくていいよ。別に彼女が死んだって困らないんだから。……というより寧ろ好都合」


事の重大性を分かってないのかと土方さんが睨む中、それでも尚笑い続ける沖田さんの口から飛び出してきたのはとんでもない一言。鋏やさらしを片付けていた私の手はぴたりと止まり、無意識に隣にいる四楓院さんの顔を見上げたが。


「総司!!」


四楓院さんの表情を確かめる間もなく部屋に響き渡った土方さんの声。思わず首をすくめて私達の向かいに位置している幹部の人達の方へ目を向ければ、険しい表情の土方さんと涼しそうな沖田さんの顔が見えた。


「あれ?土方さんだってそう思ってるんじゃないんですか?」

「思ってねェ」

「やだなぁ、嘘吐かないで下さいよ。今回彼女は確実に“見て”るんですよ?しかも千鶴ちゃんみたいな特例はない」


始末するしかないじゃないですか。そう言葉が紡がれると、不意に私の隣から本当に僅かだが小さい声が聞こえた。


「…へぇ…」


…だったと思う。まるで感心したような声に今の状況としてはありえないと思ったが、表情はどこか楽しそうであり再び驚いてしまった。そしてそんな四楓院さんの表情をあの沖田さんが見逃す筈もなく。


「…なに、君。そんなに殺されたいワケ?」


さっきまでの笑みはどこへやら、身の竦むような眼差しでそう言って四楓院さんを見ていた。だがそんな沖田さんに臆することもなく、彼女は薄く笑みを浮かべたまま口を開く。


「逆に聞くが、殺されたい奴なんているのか?」


その声はまるで冬場に隙間風が吹いた時のように冷たかった。永倉さんが腕をさすっていたのだから私の思い違いではないと思う。


「だから。それ君でしょ?」

「さっきの笑みをそう捉えるとはお前、余程性根が歪んでるな」

「大人しく捕まったフリをしてる君程じゃないよ」


…捕まった、…フリ?
沖田さんの言葉に驚いたのは私だけではなかった。四楓院さんの斜め後ろにいた平助君や沖田さんの横に座っていた永倉さんなど、幹部のほぼ全員が驚いていた。まぁ、土方さんと斎藤さんは除いて、だが。
そして、そんなことを思っていた時。


「……そんなに悪者顔になった覚えはないんやけどなァ…」

「千鶴!!早くこいつの側から離れろ!!」

「へ、平助君!?」

「私、この子には危害を加えるつもりはないんだけど」

「嘘吐け!!それも“フリ”だろ!?」


急に誰かが床を踏み締める音がしたと思ったら同時に軽い金属音がして、見れば四楓院さんの首筋に刀の切っ先を突き付けている平助君がいた。確かに沖田さんの言うことが本当ならば平助君の行動にも一理ある。
けど四楓院さんはそんな人じゃない。
何故だと聞かれれば明確な説明は出来ないが、兎に角彼女の目を見れば分かる。そう思って抗議の声を上げようと口を開きかけたら、再び部屋に声が響き渡った。


「やめんか!!平助!!」


近藤さんである。土方さんの隣、斎藤さんが座っているのとは反対側の隣に座っていた彼は今までずっと黙って状況を見ているだけだったのだが、漸く口を挟んだ。そういえば四楓院さんの怪我の手当ての指示をしたのは近藤さんだったなと思い返す。


「でもよ!!近藤さん…」

「彼女が我々に危害を加えたか?」

「いや、それは…」

「彼女が雪村君に何か危害を加えたか?」

「いや…でも、まだってことも…」

「藤堂君、局長の言葉は聞こえたでしょう。下ろしなさい」


近藤さん、更には山南さんに言われて渋々ながらも刀を下ろした平助君。それを見て、平助君を止めてくれたお二人に感謝しつつ安堵の溜め息を吐いていると、ふと四楓院さんに雪村さんと呼ばれた。さっきは名前で呼んでくれていたのに、どうしてだろう。そう思いながら彼女の顔を見ると、その目は悪戯っぽく笑っている。
あ、何かをするつもりだ。この人は。
土方さんに対する沖田さんの悪戯を毎日見ているからだと思う。四楓院さんの顔を見た瞬間、ふとそんな考えが頭をよぎった。そしてそう思ったのと同時に彼女は近藤さんの方へ頭を下げていた。


「どこの組織のトップの方かは存じ上げませんが、局長の近藤様で宜しいのでしょうか」

「確かに俺は局長だが…とっぷとは何のことだろうか?」

「失礼致しました。貴方が此処で一番上の方、と認識して間違いないのでしょうか」

「ああ。俺が新選組の局長だ」

「……しんせん、組…」


四楓院さんの目が一瞬、何かを思案するかのように細くなった。でも、私が疑問に思って首を傾げている時にはもう既に彼女の表情は戻っていたので、見間違いだったのかもしれない。


「わざわざ治療をして頂きありがとうございました」

「いや、とんでもない!寧ろ君は平助の言う通り医術に明るかったようで…却って迷惑だったかな?」


周りの方々が厳しい顔をする中、満面の笑みで尋ねる近藤さん。
そんな彼に四楓院さんも笑みを浮かべていた。

のだが。


「いえ。助かりました。…お蔭で霊圧のコスト削減になりましたしね。此処の霊子は尸魂界の10%並の薄さですし」


突如として出て来た全く以て耳慣れぬ言葉の羅列に、部屋の中にいた私達はただただ口をぽかんと開けるより他がなかった。


「……れい圧?」

「越すと?」

「そ、そ…売るそさ?」

「ぱー…せん?」


そして、それに土方さん達が漸く反応して次々と呟くのが聞こえたのがほんの一瞬のこと。次の瞬間に自分の視界を埋め尽くした光景に私は夢でも見ているような感覚に陥った。


「千鶴。あんま動かないでね」

「……………」

「……あれ?千鶴?」

「し、四楓院さん…」

「どうした?」

「腕は、その…痛くは…」

「あー全然大丈夫。千鶴軽いもん。片腕だけで持ってるから」

「そうですか。良かったです…………じゃなくて!!」

「ん?」

「ん?じゃありません!!」


だって、私がいたのはさっきまで幹部の皆さんと一緒にいた部屋ではなく、かと言って中庭でもなく。




「……何で空に立ってるんですか!?」














とんでもない場所。

(お、落ちる!!)
(だーいじょうぶだって)

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