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「…千鶴ちゃん、ちょっといいかな?」

「あ、沖田さん!何かあったんですか?皆さん先程から忙しくしてらっしゃるようで…」


私がここ、新選組に来てから大分経った。連れて来られた当初は毎日が死との隣合わせだった。新選組の極秘事項とやらに触れてしまったらしく、一歩踏み間違えれば容赦なく首を飛ばされると言っても過言ではない。だが、次第に新選組のみんなと打ち解けることができ、今では巡察に同行して父様を探しに行けるまでになっていた。…同行した初日は大失態を犯してしまったけれど。
そんな、父様の行方が中々掴めずにやきもきしながらも何処か充実した日々を送っていたそんなある日。半刻前に何やら慌ただしく屯所から出て行った幹部の誰かが土方さんの部屋へと駆け込む音を聞き、何事かと少し不安になりながら繕い物をしていると冒頭の台詞と共に沖田さんが入って来たのだ。


「ちょっと困ったことが起きてね」

「困ったこと、ですか?」


部屋の薄暗い行灯で照らされた浅葱色の隊服についた血をちらりと目の端に入れながら問い返す。


「うん。一言で表すなら“第二の君”」


私の視線に気付いたのか隊服を脱いで脇に抱えながら正面に座った沖田さん。その気遣いにお礼を言うより先、彼の口から飛び出した一言に私は思わず腰を浮かせてしまった。


「ぇえ!?…そ、それって…」

「そ。目撃者、だね」


正直言うと、あの夜の日のことは未だに鮮明に思い出せる。土方さんや斉藤さんには忘れろときつく言われているが、そもそも此処で生活をすることとなった元凶なのだ。そう簡単に忘れられることではない。


「ごめんね。思い出しちゃったかな?」

「い、いえ!!ただ…」

「ただ?」

「その方も…こんな夜にお一人で出歩いていたのならば、私のように事情があるのでは、と」


あれを見たら、よっぽど腕の立つ武士でなければ誰だって死ぬような怖い思いをする筈だ。会ったこともない人であろうが、なんとかして命を取ることだけは、と無意識に懇願するような目で沖田さんを見ていた。


「あはは。千鶴ちゃんさ、その人が助かればいいって思ってる?」

「そ、それは…」

「残念ながら新選組は網道さん以外に人探しはしてないよ。それに幕府のお偉いさんに娘さんがいるとも聞いてない」


きっぱりというよりそれが当然だとでも言うようにあっさりと言い放つ沖田さんに、落胆する気持ちを隠せない。分かってはいたが、新選組に情けはない。それが組織存続の為であるのから仕方のないことだというのは分かっている。自分達に不都合なことがあれば問答無用で処分。私が異例中の異例だったのだ。…それに私だってどちらかと言えばいなくてもいい分類に入る。つまり、今夜その目撃者となった不運な方が生きて屯所を出られるのは………あまり考えたくない。


「でもね、千鶴ちゃん。あの子は君と状況が随分違ったんだよ」

「…ぇ…?」

「僕らが着いた時には―


「総司」


浮かせた腰はそのまま、沖田さんの方に身を乗り出すようにして話を聞いていると、不意に開け放っしだった障子から声が掛かった。


「なぁに、一君。今、千鶴ちゃんに一番面白いところを話してあげようとしてたんだけど」

「副長がお呼びだ。雪村も連れて来いとおっしゃっていた。話ならその時に他の幹部と共に纏めて聞けばいい。もう既に全員揃っている」


斉藤さんだ。黒い着流しの上に隊服を羽織っているのを見れば、今夜の顛末を知っているのだなとぼんやりと思った。


「ほら、ぼーっとしないで。行くよ、千鶴ちゃん」

「え!?わっ…ちょ、ちょっと沖田さん!?行くってどこに…」


そんなことを考えていた私の腕をいきなり引っ張った沖田さん。自分の足で歩いてもいないのに何時の間にか廊下に出ていて驚きながらもなんとか尋ねると、呆れたような顔で後ろを振り返った。


「一君の話聞いてなかったの?」

「き、聞いてましたけど…」

「“失敗”したのを見られた可能性が限りなく高い女を捕らえた。その尋問を行うべくして幹部が集められている。恐らくあんたは怪我の手当てで呼ばれた。今夜、山崎は任務でいない」


沖田さんの話したことを僅か一息で纏めてしまった斉藤さん。一君って遠慮がないよね、と不満げに言っているが私はそれよりも斉藤さんの最後の方の言葉が気になっていた。


「手当てって…怪我をなさってるんですか!?」

「本人も俺達も必要ないと言ったのだが、女故に傷を残す訳にはいかぬと局長が。出血量から見れば幾分かは深いと推測出来る。治療道具は一式源さんが揃えてくれた。後はあんたがやってくれ」


恐らく幹部が揃っているであろう広間の襖の前で、私の目を真っ直ぐ見ながらそう言う斉藤さんに思わずごくりと唾を飲み込んで頷く。それを確認した斉藤さんが入りますと言って襖を開けた瞬間、ふわりと風が吹いた。…ような気がした。この部屋は締め切られているし、何より今夜はほぼ無風で暑いぐらいなのだ。
私の気のせいだ。
そう思って沖田さんに続いて中に入ると、向かって右側から僅かに鉄の臭いがして無意識にそっちへと顔を向けていた。


「……驚いた。こんな所に女の子がいるのか…いや、住めるのか、の間違いだな」

「え…?…」


私の目の先にいたのは両手を後ろで縛られている、見たことないような真っ黒い着物を身に纏った女の人。その人は目を丸くして私を見ているが、私も彼女を目を丸くして見てしまった。


「な、何でですか!?」

「へ?何が?」

「何で私が女って…」


そうやってあたふたとしている私を見て沖田さんはやっぱバレたねーと言って笑っている。笑いごとじゃないと言いたかったのだが、それより先に女の人が口を開いていた。


「…貴女、お名前は?」

「ゆ、雪村千鶴…です」

「千鶴、ね。私は四楓院名前。よろしくね」


怪我の手当て。そう言ってにっこりと笑った彼女の笑顔は、捕まっていると思えない程落ち着いた笑みだった。














私と同じだけど違うヒト。

(悪い人じゃない)
(直感的にそう思った)

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