×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


「昨日付けで新選組に入隊した、四楓院名前だ。役職は副長補佐とする」


翌朝。いつも通り朝食を軟禁部屋で食べ、歳三さんに着いて来いと言われて向かった先は、前に私が入った広間より倍ぐらい広い大広間だった。入るや否や、元々いた隊士らしき男達のざわめきが広がり、部屋の隅にいた千鶴は不安そうな顔を私に向けていた。あの殺し合い以来やたらと私を外へ連れて行こうとする沖田総司を始めとして、私と関わったことのある以下五名もちゃんといて、みんな無表情でこのカオスな状況を見ている。予想通りってか。


「…恐れながら副長」

「…なんだ」

「俺達にとっては素性も分からぬ者を新人隊士としてではなくいきなり副長補佐として使う理由を、差し支えなければお教え頂けますでしょうか」


新人ならばまず下っ端から始める。もし上の位に就くとしてもそれなりに市内で名の通った剣客や師範代など、誰もが見ても一目瞭然な人物でもない限り受け入れるのは到底難しいだろう。理由を問うのは当然だ。だが、今の彼はいい所を突いた。"俺達にとっては"と言ったのだ。つまり幹部は分かっているのだろう、と暗に示している。そして、これは他の平隊士達の同意を多く得ている。現にブツブツと文句を垂れていた奴らが皆一様にその通りだと顔に浮かべている。
しかし、これは発言した一平隊士が賢いというワケではない。恐らくこいつは監察か何かだろう。こういう発言をこういうタイミングで発し、平隊士の気持ちをまとめるという一連の流れを土方さんと打ち合わせしたに違いない。でなければこんなにも場の空気が統一されるワケがない。この男、非常に話術に長けるのだろう。そんな奴を見逃さずに監察に引き入れる土方さんには流石としか言いようがない。そして、態々それを利用して私を摩擦少なく入れようとするのも流石だ。


「こいつは将軍様直属の管轄から来た」

「…え、」

「城では護衛軍の隊長を勤めていた。そんな奴を新選組に寄越した。新選組の益々の活躍を期待して、だそうだ。普通は俺ら壬生浪の集まりごときにそんなことはしねぇ……どういう意味かは分かるだろ」


嘘は言っていない。確かに真選組は将軍様の下にあるし、私は副長を優先的に護衛している。この男の頭はどうなってるのか分からないが良くぞここまで私を盛り立てる狂言を思いつくものだ。こう言っておけば女である私が戦闘において前線に出ても何も言われないだろうし、いきなりの重役抜擢にも納得がいくだろう。


「……死に物狂いで期待に応えるぞ」

「「「「はい!!」」」」


こんな寄せ集め集団に幕府が期待などする訳がない。だが、そう言っておけば一先ずは収まりがつく。土方さんの言葉にまんまと騙された可哀想な隊士達は朝から暑苦しい返事をしてその顔に希望とやる気をいっぱいに浮かべている。井の中の蛙。そう心で吐き捨てたが、今後の暮らしをスムーズにする為に深々と頭を下げた。























「名前さん!」


その日の昼。副長補佐として事務的なことを一通り教わり、昼食をどうするかと考えて廊下を歩いていると不意に庭の方から声を掛けられた。私をさん付けで呼ぶ子など千鶴しかいない。向けた視線の先にその通りの人物がいることを確認すると、思わず笑みが零れた。


「どうしたの、千鶴」

「あ、あの。お昼ご飯はどうなさるのかな、と…その、」


千鶴は以前、私と同じ様に目撃者となってしまい、しかし新選組の上の方の娘さんと分かって軽い軟禁状態にあったが、私が来る少し前にそれは解けた。池田屋事件と呼ばれるもので一役買ったらしく、新選組内での評価も大分上がったので行動制限も殆どなくなったらしい。だが千鶴一人で外にやることはせず、必ず何処かの組長が着いて行く。ここ数日で移動する霊圧を読み取って分かったことだ。単独外出は認められていない。そして千鶴が可愛い組長達は必ずと言っていい程彼女とお昼を済ませて来る。ここで漸く千鶴の発言に戻るが、本来なら私にこんなセリフは言うべきではないだろう。また今日も見廻りへ行くのだから。


「お昼はまだだよ。でも千鶴、今から一番隊…じゃなかった一番組の見廻りに着いてくんじゃなかったの?」

「巡察には行きます!でも名前さんとお食事もしたくて、…その土方さんから外出許可が降りたと伺ったので…」


それはつまり私も見廻りに着いて行けと言うことか。この新選組の巡察、まぁ私らの言う見廻りは組全員でしかも徒歩で行われている。電気がない文化故、車がないのは当然のことと思うがどうしてもぞろぞろと動くのは好きになれない。し、納得出来ない。奇襲をかけられたら共倒れだ。少数のツーマンセルまたはスリーマンセルが妥当だろ。
つまり、私は見廻りに行きたくない。
期待と不安の入り混じった表情を浮かべる千鶴の誘いを断るか、人間と群れて千鶴とランチをするか。究極の二択を迫られた私が決め兼ねていると、不意に聞きたくない声が聞こえてきた。


「あれ。名前、まさか千鶴ちゃんのお誘い断るの?」

「お、沖田さん!」

「…立ち聞きとは趣味の悪い」

「やだなぁ、最初から気付いてた人にとって立ち聞きなんて言葉は間違ってるよ」


話の論点がずれて来そうでなんとか言葉を飲み込んだが、木の影からひょいっと出て来た総司さんに眉が寄った。そもそも私が庭に千鶴がいるのを知りながら声をかけなかったのはこれが原因で。総悟と似た所があるのか所構わず昼寝をする総司さんと関わるのは面倒なので、避けたのだ。当然、千鶴は気づくはずもなく、今急に肩を叩かれたことに酷く驚いている。


「ところで千鶴ちゃん。僕もいいかな、お昼」


千鶴は何故あんなにも私を誘うことに戸惑っていたのか。理由は私がその誘いに乗ってくれるのか、或いはそれを組長が許してくれるのか、のどちらかだと考えていた。しかし、自分の欲より他人の欲を優先させる千鶴のことだ。恐らく後者だろうと返事を先延ばしにしていたのだが。


「は、はい!!是非ご一緒に!」


見る見るうちに笑顔になり飛び上がらんばかりの千鶴を見れば、私の予想が当たったのは明確だ。直後、期待に満ちた笑顔の彼女に苦笑しながら頷くと天国でも見たかのような笑顔をしていた。

























お昼ご飯。

(ただ、沖田総司の狙いが)
(分からない)

prev | next

16/22


▼list
▽main
▼Top