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こういうのって、勝った方が良いのだろうか。負けた方が良いのだろうか。それともあいこにした方が良いのだろうか。久しぶりに手元に風車が帰って来た時にそう話しかけたらあいこだと言われた。総司さんは幹部の中でも一二を争う剣士だ。こっちに来た初日にそれは嫌と言う程味わっている。そんな彼に勝ってしまえば恐らく私の実力は逆に新選組へ害を成す物と判断されて、今以上に監視と拘束が厳しくなるかもしれない。しかし、あいことしておけば総司さんと同じ実力であり、いざと言う時は彼と一さんとの二人で止めればなんとかなる、と判断されるだろう。まぁ、一番安全なのは負ける事なのだが、これは案外難しくて。勝てる相手に合わせてレベルを下げるまでは出来るが、ワザと負けるとなると明らかに手抜きをしたとバレる。特に総司さんぐらいになると普通にバレる。それに私のプライド的にも嫌だ。
なので、風車の助言通りあいこでいこうと心に決めてブーツを履いた。


「それまでだ。両者、刀を引け」


始め、という合図もなく始まった試合という名の殺し合い。私にその気はなくたって、総司さんは私を斬り捨てる気満々だった。最初の一撃目から急所を狙った容赦ない刺突で分かった。彼に、討ち合いを楽しもうなんてモノは更々ない。繰り出される彼の刀に最初はまだ余裕を見せながら、次第にギリギリで交わしていく様に見せていき、私からも彼がギリギリ避けられるものを出していた。そうやって私が絶妙な力加減の調節にそろそろ疲弊して来た頃に同時に討ち込める隙を発見。これで終わりにしたくて、此処ぞとばかりに喜々として踏み込めば、歳三さんから終了の声がかかった。
お互いに首を捉えて止まっていて。少しでも手首を捻ればお陀仏という状況。当然、視線はぶつかり合っている。すると、あれ程真剣だった総司さんの顔がふと緩み、先程の心臓に悪い色気ダダ漏れの笑みを浮かべた。


「楽しかったよ、名前」

「ええ、私も」


その直後、同時に刀を下ろし、鞘へしまえば歳三さんに相変わらず低い声で呼ばれた。


「なんでしょう」

「夕餉の後、俺の部屋に来い」


部屋へ来い、と彼は言った。
私の軟禁部屋と彼の部屋は確かに隣だが、私と副長の部屋の様に襖で繋がっている訳ではないので、彼の部屋へ向かうには必然的に一旦外へ出なければならない。誰かが来るから部屋で待ってろとも俺が迎えに来るまで部屋にいろ、とも言わなかった。軟禁状態から脱した、と見て良いのだろうか。


「じゃあ名前ちゃん、僕の買い物に付き合ってよ」

「え、?」


そう思っていれば総司さんに腕を引っ張られた。一瞬理解するのに間が出来てしまったが、発言からどうやら彼も私と同様の考えに行き着いたらしい。


「え、じゃないでしょ。君が分かってない筈ないよね?」

「いや、そうですけど。見てくださいよ、あの顔を。私ならそんな言葉口が裂けたって言いませんよ」


せめて、彼がいなくなるまでは。
最後のセリフは流石に飲み込んだが、彼と揃って見た歳三さんの顔にそれは大正解だったと分かった。その背後で色気ダダ漏れの人と、ポニーテール少年が青ざめていたのがその証拠だろう。





















「…土方さん、四楓院です」

「入れ」


その夜。
夕飯をいつも通り軟禁部屋でとった私は土方さんが戻って来るのを待って、彼の部屋へと向かった。ちなみに呼ぶ直前に一瞬間があったのは彼を何て呼べば良いか考えてしまったから。副長、はなんか居心地悪いし、名前で呼ぶのもなんか親しげで嫌だし、偽喜助なんて以ての外だし、名字…かぁ、みたいな感じだ。まぁ、内心では歳三さん歳三さんと連呼していたのだが。


「お前の軟禁状態を解く」

「…但し、が付くでしょう」

「察しが良くて助かる。
刀は返した。総司との試合も観た。それとお前の話を総括して下した判断だ。恐らく隊士の中には納得のいかない者が出てくるだろう。だが、俺はそれを変える気はねぇ」


声は喜助だけどやはりこの人は違う人なのだなと思った。歳三さんは結論を中々最初に言わない。説明を先に、結論は後に。というスタイルをとっていると彼と会って数時間で分かった。しかし、如何せん彼の声は浦原喜助。しかも、何百年と聞いている声だ。喜助の論の運びをどうしても頭で無意識に期待してしまって、歳三さんの言葉を聞く度に違和感しかない。今だってそうだ。いきなり説明を始めた。まぁ私が推測がついてることを確認をとった上なので仕方ないとも言えるが、喜助なら最初にそう、御名答っスとでも挟み、アタシは貴方に〜して貰いたい、と思っていますとでも繋げるだろう。この話し方の利点は最初に結論を話すことによって相手の興味を最大限引けるということにある。特に結論が分かっていない人には物凄く効果的だ。理由が知りたくて説明にのめり込む。対して歳三さんの説明→結論タイプはあまり相手の興味を引けない。いきなり何の脈絡もない話をだらだらと聞かされても頭は疑問で埋め尽くされて次第に興味は薄れてしまうからだ。
現に私は彼の話を聞いていない。


「…今日の午後、近藤さんと山南さんの許可を取ってきた」


ほら。いつの間にかこんなに進んでしまっている。そしてその進んだ口は結論を紡ごうと一瞬の間の後に開かれた。


「お前は副長補佐として新選組に入って貰う」


まぁ、推測していたラインではある。男尊女卑が残るこの時代、女子が戦闘に参加することは明らかに異質に見られる。そのため、私が新選組に入らされた時に彼が妥当と考える役職は恐らく誰かの補佐とかそんな感じだろうと思っていた。だが新選組はウチと異なり副組長制度がない。一つの組だけ補佐を置くのも不自然だから、副長補佐にでもするか。という流れになると思っていたのが当たった。


「それが、私が刀を手元に置き、帰る方法を模索することとの等価ですか」

「ああ」


補佐ってことは仕事中は彼の側に四六時中いなきゃいけないってことだろう。正直かなり嫌だが、此処で拒否して数少ない妥協策を潰すのは絶対に利口な手段とは言えない。それに単なる組長ではなく、ウチらの世界と同じくらいのほぼ新選組の頭脳とも言える副長の補佐だ。情報は腐る程入って来る。歳三さんは恐らく私がこの組織内の情報を盗み獲ることなど造作もないことを分かっているからこそ、だったら自分の側に置いて全てを聞かせようと思ったのだろう。あわよくば私を利用しようとも思っている筈だ。所謂逆転の発想というモノだが、会って三日と経たないしかも実力も未知の怪しい女を自分の組織に引き摺り込む度胸も中々だ。
面白い。
まさか人間が私に何の利益ももたらさず利用しようなど愚かなことだが、霊子が薄く体力的に辛そうなこの世界でこの辺りの地理や政治の状況など調べる手間が省けるのは有難い。其方がそういう魂胆ならば此方も利用してやろう。


「…その取引、お受け致しましょう」


副長。
そう言って微笑むと歳三さんは相も変わらず険しい表情を浮かべて小さく頷いた。










その警戒心だけは買ってますよ、副長。

























偽りの関係。

(頭は下げない)
(私が命をかけて補佐して護衛をすると決めたは十四郎だけ)

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