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此方の世界へ来てから三日目。
向こうの世界と時間の経過が同じとは分からないが、同じだけ経ってるなら喜助が本格的に動き始める頃だ。恐らく彼なら私が断界と同じような通路を通って此方に来たということに予測が行きつくだろう。後はどうアクションを起こしてくれるか、だ。私も調べに行きたいのだが、二十四時間部屋の前の見張りがいるので気配が敏感な此方の方々の前ではどうも上手く抜けられない。死神になろうにも、もし死神の気配まで分かるようなら厄介なので、下手に義骸を抜けるに抜けられない。早目に風車を返して欲しいのでここで不可思議なことをして、この間若干傾いた天秤を元に戻したくない。本当、不便な人だ。土方歳三は。
と、朝食を食べながら思っている。ちなみにコレを運んで来て、今も部屋の前で座り込んでいるのは総司さんだ。早く食べてよね、と言い放った割には開け放した障子に寄り掛かるように座って庭を眺める様子に苛立った感じはない。私も、意外と小綺麗にされている庭を見ながら食事が出来て嬉しい限りだ。
そう。この食事にも驚いている。捕虜同然に扱われるかと思っていたのでもっと質素な食事を与えられるかと思っていたのだ。なのに聞く限り彼らと同じ食事をしているこの状況は、恐らく良いととって間違いない。多分、歳三さんは私の世界の浪士を捉えた時に私と引き合わせたい考えなのだろう。それまでに死んで貰っては困る、と言う事だ。そして、前回と私が来た日を数えてみると、今夜辺りもう一グループ此方に来る頃なのではないだろうか、と私は予想を立てている。


「…ねぇ、終わった?」

「あ、はい。終わりました。ごちそうさまでした」

「はいはい。お粗末様」


お茶を飲みながらぼんやりと考えていると総司さんから声が飛んできた。首だけをこちらに回して、言う様子にはやはり言葉通りの刺々しさはない。お膳を縁側まで出し、いい天気ですねと言えば、そうだねと返って来た。


「外稽古にはピッタリのお天気だ」


一体、何を言わんとしているのか。
今までこの身に起きた出来事について考えていたのだが、その言葉と同時に頭が切り替わった。思わず隣の総司さんを見ればにっこりと笑って、唐突に腕を引かれた。


「わ、ちょっと総司さん。何するんですか」

「ねぇ、そろそろ運動不足じゃない?」


"どっちの"、ですか。なんて言わない聞かない。引かれた腕は時間差で両腕。抵抗するにも体重を支えるにも不可能な状況で、必然的に彼の胸元へ雪崩れ込んだ。更に両腕は彼の腰の後ろで一まとめにされ、彼の右腕が私の顎を掬い、強制的に上を向かされる始末。油断してたとは言え、なんて無様な格好だ。ていうかこんな状況を他の人に見られたらどうするつもりなのだろうか、この人は。


「夜の、じゃないよ?」

「分かってます」

「まぁ、そっちの相手もしてもらいたいけどね」

「貴方なら女の一人や二人、お困りにならないでしょう」

「うん」


即答か。こっちじゃあり得ないタイプだ。総悟は違う。確かにあの子は平気でこういうことを言うが、雰囲気が違う。彼は無関心を全面に出しているが、総司さんは色気が全面に出ている。その上今はこの距離の近さにムダにイケメンと来た。心臓に悪いとはこういうことを言うのだろう。


「君のその戦闘技術。一朝一夕で磨いたものじゃないことはわかる」

「どうも」

「それに、多少の間があっても衰えないモノでもある」

「そうですね。やらないに越したことはありませんが、数十年は前線に出てなくとも平気でしょう」

「あはは、面白いこと言うね」


しまった、と思った時には既に口から出た後だった。数十年、と向こうと同じ感覚で喋ってしまったが彼らには死神という概念はない。彼の色気にやられて思わず口を滑らせてしまったが、冗談だと或いは自信だと取ってくれたようだ。何も問い詰められるような雰囲気はない。


「さっきさ。僕、夜の相手には困ってないって言ったけどさ」

「…言わはってましたね」

「困ってるんだよねぇ…」


昼の相手に。
その言葉の少し前。まとめられていた腕を緩められ、顎にあった手は滑り落ちて。総司さんの雰囲気に殺気が混じったと思った時には彼の手は刀の柄を掴んでいた。反射的に彼の腰のもう片方の刀へ左手を伸ばし、彼の斬撃を防ぐように抜き様に後ろへ思いっきり飛び退いた。


「…流石」


彼が持つ刀の先を見て、自分の左腕を見て。内心舌打ちをした。


「掠りましたよ」

「うん。でも避けたでしょ」

「でもそれで貴方の刀に血液が残る程に負傷しました。これは避けたとは言いません。更に言えば私は元々右腕を負傷しています。戦場であれば絶対に犯してはならない傷です」

「…言うねぇ、僕は半身を落とすつもりで振ったのに」


何故そこにあるのか、懐から草履を取り出して履くと、立ち上がって縁側を下りながらそう言って笑う総司さん。さっきまでの色気は全くない。私も出来ればブーツを履きたいのだが、生憎と部屋の中。靴下だけで庭に下りて走り回った時、夜一に怒られたのが懐かしい。


「土方さんはね、異端な浪士の処理を君に任せるつもりだよ」

「そうですか」

「君の予想通り、ね」

「…何故、分かったんですか」

「頭の良い君なら分かってるかと思って。やっぱり当たりだったね」


ねぇ、土方さん。そう呼び掛けると、ちょうど曲がり角となっている廊下の影から身を表した土方さん。実はさっきから薄々気付いてはいたのだが、総司さんが無視の方向だったので私もそれに倣っていた。そしてそんな土方さんの表情は非常に険しい。今にも怒鳴り出しそうだ。


「部屋から出すな、と言った筈だが」

「やだな、土方さん。彼女は自分から出たんですよ」

「そうさせたのはお前だろ。殺すなとも言った筈だったが」

「やだな、土方さん。それは矛盾ですよ」

「…何だと」


どういう意味なのかは私にはさっぱり分からない。でもそれは土方さんも同じらしい。私の左腕から滴り落ちる血を見て険しくさせた眉間を更に険しくさせると、総司さんへとエラくドスの聞いた声で問い掛けた。


「彼女のその傷、恐らく普通なら付きませんよ」

「…お前が巫山戯た状況にしてた所為だろ」

「いえ。それでも彼女は怪我しません」

「…何が言いてェんだ」

「だから、彼女の普通の装備。刀が腰にありさえすれば怪我はしなかったって言いたいんですよ」


上手いな。と正直に思ってしまった私は緊張感がないのか。だけど、思わず言葉に詰まってしまう土方さんを見ればそう思わざるを得ない。


「ねぇ、名前もそう思うでしょ?」


そして更にそれに追い打ちをかける為と総司さんは私に話を振って来た。ひょっとしたらこれはかなりのチャンスかもしれない。そろそろ風車の機嫌も気になっていた頃だ。有難く乗らせて貰おう。そう思って土方さんへと向けていた目線を総司さんへ戻すと、彼はにっこりと笑った。座ってさっきの威力。立ってしかも本気でやられたら一体どれ程のモノか。加えてこの世界は霊圧が妙に薄い。それを考えたってこの脇差じゃあ不安心許ない。それに私は元々薙刀の方が専門だ。あまりにも短すぎる。


「…これ以上彼とやるのには不安要素が多すぎます」

「ほらね」

「だったらお前が…」

「僕の性格知ってますよね、土方さん」


止める気、ないですから。
それを聞いた土方さんが折れたように見えたのは私の間違いではないだろう。現に、分かったと小さく呟くと、自分の部屋へと足を向けていた。





















昼の相手>夜の相手。

(………)
(どうした、平助。顔真っ赤だぞ?)
(さ、左之さんは何とも思わなかったのかよ!?)
(ん?ああ、さっきの二人か?)
(そうだよ!朝からあんなことやって総司は何考えてんだよ!!)
(ん?俺はそりゃあ武士として昼の相手もしたいが、どちらかと言うと夜の相手の方がしてもらいてェな)
(そ、そそそう言うことじゃねぇよ!!)

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