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「…もう一度、お聞かせ願えますかね」

「俺の責任だ」


そう言って頭を下げる土方に喜助さんは困ったような表情を浮かべた。


「あ、いや、え〜っと、…土方さん?僕は貴方のしたことは何一つ間違ってないと先程申し上げたと思んスけど…」

「俺の油断が招いた。お前が言うことなら何でもする」

「ですから土方さん、先程から申し上げていますが…」

「死んで下せェ」

「分かった……って、なるかァァア!!」


あーうぜェ。
確かに名前を現場に一人で放り出したのも、敵の技量を見誤ったのも土方の責任だ。だけど、名前はそこらのヤツらとはワケが違う。もし、土方に指示された時点で相手の力量が危なかったらまず彼女だったら土方を始めとする隊士を避難させるだろう。だけど、名前はしなかった。アレだけの至近距離になったところでもなんの危機感も現さなかった。つまりだ。アレは回避不可能な出来事だって事だ。恐らく、喜助さんや夜一さんでも。あ、でも分かんねぇな。この人達に予測不可能とかいう言葉はなさそうだ。
で、土方はさっきっから俺のミスだなんだと五月蝿い。まるで自分が護りきれなかったと聞こえる。実力もないくせに、


「うぜェ」

「総悟、口に出ておるぞ」


今いるのはかぶき町郊外の所謂高級住宅街の一角にある浦原邸だ。名前が変な拳銃みたいな装置で消された直後、残ったのは土方の手元にある白い斬魄刀だけだった。マジでフラグ立てて消えやがった。ついでに名前を消そうとしていた奴らも一緒に何処かへ消えてしまい、奴らのアジトにも一切何もなく。手掛かりが全く掴めなくて俺らのフラストレーションが絶頂に達しそうな時。


『おーい、多串君。喜助が呼んでんぞ』


旦那が急に屯所を訪ねてきた。火に油かと思って真剣に旦那との喧嘩を殺して止める算段をつけていると、そんなことを言い出して。大方霊圧が不自然に消えたことに喜助さん達が不審がって旦那に連絡したんだろうけど、コレは土方には効果覿面だったらしく。


『…分かった。浦原は何処にいんだ』

『へ?あ、ああ…あいつなら自分ん家だと思うけど…』

『山崎、車出せ。総悟、涼、来い』

『『は、はい!!』』

『…へーい』


旦那がギョッとするほど素直な土方が出来上がった。で、今回の一件をザキと土方が話してじっと何か考えていた喜助さんが口を開いた所で冒頭へと戻る。ちなみに今、俺に声をかけたのは夜一さんだ。相変わらずいつからそこにいたのか分からないが、団子を差し出されながら言われたセリフにワザとだと返せば、豪快に笑い飛ばされた。


「おぬしは思ったより冷静じゃのう」

「あのバカがバカに焦ってるだけでィ」

「…そうか。やはり心配をかけてるのか、儂の馬鹿義娘は」

「…そういうアンタも心配してんでしょうが」


百年弱前に養子に取り、以降、いくら娘としてよりは弟子同然に育て上げて来たと言っても、わざわざ上流貴族の御法度までも無視して縁組したぐらいだ。何かしらの親的な感情があるに決まっている。しかも、今回は簡単にこの人達の手も足も出ない処だ。
心配しないワケないだろう。
しかし、何故かそれに反し夜一さんは団子の串を振りながらニヤリと笑った。


「甘く見るではない、総悟」

「…どういう意味でィ」

「儂等が何の手掛かりもつかめずにおぬしらに連絡すると思うか?」

「…え、?…」


危うく団子に殺されるところだった。まさか…いや。流石と言うのか。俺らが狼狽えて無駄足ばかり踏んでいる間にこの人達は僅か10人程度で見つけたのだ。刀を振り上げているのを喜助さんに後ろから羽交い締めで止められている土方も思わずその刀から手を離す程に驚いている。涼なんか驚きすぎて、口をポカンとだらしなく開けるだけで中々の阿呆面を晒している。山崎は……アレ?ザキがいねぇ。


「山崎さんには今ちょっと道案内を頼んでます」

「…あっそ」


エスパーか。僅かに目を動かした程度で何考えてるか見抜かれた。何この人怖い。おちおちエロい妄想も出来やしねぇ。旦那は普段どうしてんだ。ていうか道案内ってなんだ。


「さて。夜一さんも戻ってきた事ですし、始めましょうか」


そんな俺の内心も恐らく全て分かっているんだと思うが、喜助さんは扇子を広げながらそう言って俺らに席に着くよう促した。


「ぶっちゃけ最初はメッチャ驚きましたねぇ〜名前さんの霊圧がふっつりと途絶えましたから」


全員が座ったのを確認してから開いた喜助さんの口から出たのはそんな言葉だった。
霊圧が消えた、というのは彼らの中では死んだと同等の意味だってのは名前から随分と前に聞いた。その時に、霊圧は個人によって異なり、彼らはそれでお互いの位置を把握するとも言ってた。
そりゃあ、突然名前の霊圧が消えたら驚くだろう。しかも、こいつらは生粋の名前馬鹿。即効で動いたのは間違いない。


「まぁご想像の通り、僕らはすぐに動きました」


ほらな。


「だけど、それは彼女が心配だったからではないんス」

「え、…?」


今のは涼だ。いや、でも俺だって驚いてる。さっき程ではないがこの人の口からそんな言葉が出て来るとは意外だ。そんなに親バカに見えるんスかねぇ、なんて笑ってるがそう見えてるに決まってんだろ。他にどう見えるってんだ。


「いや、正確には涼さんと山崎さん。このお二人が今巷で噂の浪士集団消失事件について調べて、ある程度の事実に辿り着いたという情報を名前さんから受け取った時から動いていました」

「…理由は」

「名前さんに依頼されたからっスよ。ああ、でも別に自分の所の監察官が信じられないとかじゃなくて、もし本当に頻発していることだったら彼らが危ないから…という考えの下っス」


名前らしい。
いつもこういう行き先不安な話になると大抵監察の調査に名前も同行する。だけど、最近では土方暗殺の件数が微妙に多かったからか中々野郎の側から離れられなかった。別に死んだって構やしねぇのに。だから、代わりにと喜助さんに頼んだのだろう。


「まぁ、空間を歪める程の代物となると相当危険っス。我々も御二方の情報収集には信頼を置いてますので偽りの可能性は低いだろうと、ほぼ事実であると判断して動き始めることにしました」

「それで、何か掴めたんで?」

「ハイ」


こうもあっさりと言われると最早俺らのいる意味を問いたくなる。山崎と涼の監察隠密ツートップで調べたってもうそれ以上何も出て来なかった。…いや。ちょっと待て。"何も出て来なかった?"

おかしいだろ。

大体あいつらは調査の途中経過だと言って俺らに報告した。途中経過ということはその先もあるということを見越しての言葉だ。しかもかなりの確率で。なのに"何も"出ないと言うのはおかしい。不自然すぎる。せめて欠片ぐらいは出るのが普通だ。喩えるなら火のない所に煙は立たないの逆、煙が立ったら多少なりとも火の関連物はあるということ。つまり考えられるのは、情報操作。だから、出なかったというあいつらの責任のようなニュアンスのある言葉は正しくなくて、

何も"なかった"。

が正しい。そして恐らく情報を消すというとんでも迷惑なことをやり遂げた諸悪の根源は、


「アララ〜やっぱりバレちゃいました?」


どう考えたってこの人だ。
俺と土方の視線から隠れるように扇子の後ろに顔をうずめ、あははと笑う喜助さんに殺意が芽生えるのは間違ってはないと思う。だって、現に土方は刀を振り上げ、いや、振り下ろし、怒鳴り散らしている。ただ喜助さんは団子の串でソレを止めて笑ってる。


「バレちゃいました?じゃねぇだろ!!てめェ何考えてんだ!?」

「考えてることはちゃんと言ったじゃないっスかぁ」

「そういう意味じゃねぇよ!!ていうかそんなの分かってて返しただろ!?しかも名前はあんたの娘だろ!?」

「ヤダなァ、名前さんの親じゃないって何度も言ってるじゃないですかぁ〜」

「うるせェ!!大体そんなモンだろ!!ていうか腹立つんだよその語尾!!」

「そーだぞー黙れー土方ァー」

「なんで俺だァァア!?」


そう言って激しくうるさかった土方だったが、夜一さんが何故か喜助さんを殴ったことでその場は静かになった。


「情報操作云々は此奴の得意分野じゃ。一度やると決めたら手は付けられん。諦めろ。土方、刀を仕舞え。総悟もじゃ。その後ろに隠してるものを下ろせ」

「……」

「…へーい」


暗殺チックに殺す為に後ろにクナイを構えていたのだが、やはり隠密機動だった人には敵わない。あっさりとバレたクナイを隊服の裏側に隠し姿勢を直すと、鼻を摩りながら喜助さんが口を開いた。


「一先ず沖田さんの質問の件ですが、掴めたと言うよりは予想が確信に変わったと言った方が正しいっス。最初、今回の噂を聞いてまず考えた事は空間転移に似たような現象でした。そこで僕らはそれが正しいかを証明する為に、かぶき町を含めた周辺地域全体の全ての魂魄の位置を補足し、尸魂界に行く直前までの範囲で観察を続けました」

「…それで、どんな変化が見られたんで?尸魂界に行かず浮遊霊やら地縛霊にでもなってたんですかィ?それとも魂が消滅?」

「沖田さん、ちょっとオシイっス」


この際、浮遊霊地縛霊に反応して頭を押入れに突っ込んだ土方は無視すべきだろう。後始末は涼に任せる。今考えるべきは喜助さんの言葉。彼のオシイと言うセリフは滅多に聞かない。だけど、それを言った時は本当に近い時だ。今迄の喜助さんの話と自分のセリフを今一度思い返して、ゆっくりと口を開いた。


「魂魄の反応が"なくなった"。しかも、尸魂界ではなく、」

「現世で、か」


何となく何かを掴みかけたその瞬間、邪魔をして来たのは土方と同時に庭の縁側の下へと頭を突っ込んでいた旦那だった。

































死んで下せぇ。

(ちょっとちょっと何この子。怖いんだけど)
(なに美味しいトコだけ持ってってんですか、旦那)
(だってずっと銀さん総一郎君の描写に入ってなかったんだもん。寂しくなっちゃって)
(やっぱり死んで下せェ)

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