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土方さんが聞きたいことは分かっていた。私が藩を知らないと言った時に彼が見せた顔の表情が何よりも語っていた。どうやらこの世界の人間は、人の成す雰囲気に敏感らしい。迷い込んだ攘夷浪士と私の明らかに異なる空気に違和感を覚え、更に広間での瞬歩が確信へと繋がったようだ。だけど、彼は慎重な人間で。沖田総司を始めとする厄介な子供に悟られないように事を上手く運び、早々に私を彼らの目から遠ざけていた。但し、斎藤一と山崎丞を除いて。
ちなみに何で二人だと分かったのかと言えば、私を捉えた時の彼らの行動からだ。組織の最重要機密を見られたあの場面では沖田総司の殺そうよ宣言が一番正しかったはずだ。なのに、斎藤一は不自然にそれを止め、更にはタイミングが良過ぎる山崎丞の登場。しかも斎藤一は副長の指示を仰ぐと言っていた。あれは密かに到着した山崎丞と斎藤一がアイコンタクトで連絡を取り合ったのだろう。
だが今は幸か、先程の"来客"によって彼らはそれどころではなくなった。


「こうやって私は此方に来たのですよ」


歳三さんに風車の返却を促せば不意に感じた殺気。一さんがいた位置から、方向的に私が出したモノだと勘違いしたらしい。斬られた腕を御丁寧に押さえつけられたが、下手に抵抗しても殺気の出処が正確に掴めない。なので、大人しくされるがままにしていたが、腕が非常に痛かった。でも慌てて謝る一さんが可愛いかったので、許した。だけど、その直後。急に私の世界の住人が現れて、あろうことか歳三さんを殺そうとした。いやいや、ちょっと待て。私はまだこの男に聞きたいことがあるんだ。そう思って彼を庇ったのだが、これまた奇妙な終わり方をして。刀だけを残して消えてしまったのだ。何用だ、とか空気読んだセリフを発したけど、ぶっちゃけ、

何だか良く分からない。

だけど、彼らはもっと分からないのだろうなと内心笑いながら全ての説明をすっ飛ばしてそう言ってみれば、三人は面白いぐらいに唖然とした。


「…何、笑ってやがる」

「い、いえ、すいません。あまりにも予想通りの反応をなさって下さるもので…」


…あ、まずったかも。
自分の今の発言の失態に気付いた時には遅くて、突き出された一さんの刀を慌てて手元にある歳三さんの刀で防いだ。


「ちょ、ちょっと待って下さい!!」

「貴様、やはりあの男の仲間か!?」

「だから違うって!今の発言には語弊が…」

「黙れ。予想通りという言葉、奴の仲間でなくして何故口から出る」


うん。めっちゃ、正論。
だけど、冷静そうに見えていた彼にしては少し早とちりの判断ではないだろうか。人間は自分の人智を超える出来事に遭遇すると、それを無意識に逃避する傾向にある。恐らく一さんもそれに侵されているのだろう。少し冷静になればもう一つ可能性がちゃんと見えてくるはずなのに。
しかし暴れるには少々狭いこの部屋。力尽くで彼の剣を取り上げるにはスペースが足りなくどうしようかと思っていると、不意に一さんが唸る様に言葉を発した。


「…盗み聞きとは良い度胸だな。出て来い」


総司。
そう言えば襖からひょっこりと顔を出す総司さんに私は思わず目を瞬かせてしまった。顔を見るワケでもなく、ましてや霊圧で見分けているワケでもないのに、気配だけで察するのは流石だ。しかも、彼はほぼ気配を消していたにも関わらず。そんな私の驚きも他所に悠々と部屋へ入って来た総司さんは千鶴に少し離れるように言って、一さんの後ろに立った。


「……ねぇ、何か早とちりしてない?一君」

「……どういう意味だ」

「名前ちゃんは僕らの敵じゃないって事だよ」


一さんの刀が僅かに揺れた。


「…何故、そう言える」

「だってさ、名前ちゃんは土方さんのこと庇ったんだよ?しかも自分の刀がないのに」

「副長の刀を使って攻撃を凌ぐことなどこの女にとっては造作もないことだろう」

「あはは。一君さぁ、ホントに冷静さがなくなっちゃってるよね」

「…なに?」

「あの攻撃、君は反応出来たの?」

「…っ、それは…」

「それにさ、いくら彼女が腕が立つと言っても男と女では確実に腕力が違うし、刀の重さだってだいぶ違う筈だ。しかも土方さんと名前ちゃんはかなりの体格差がある。それなのに、確認もままらない中、ぶっつけ本番で使った。一君も見えなかった攻撃に対してね。つまりさ、」


名前ちゃんは自分の命をかけて土方さんを護ったってことにならない?

こいつは何か拾い食いでもしたのだろうか。24時間も経たぬうちに掌を返したように私の味方になってしまった沖田総司に唖然としてしまい、危うく刀を落とす所だった。…いや。別に味方、というワケでは無いのだろう。事実、彼は最初にそう言っていた。


「…斎藤。総司の言ったことに何か反論はあるか」

「………いえ。ありません」

「なら刀を下ろせ」

「…はい」


暫く様子をじっと見ていた歳三さんが漸く動いた。副長信者の一さんに歳三さんが一言言えばすぐに刀を牽くことぐらい分かっていた筈だろう。だけど、それをしなかったのは、歳三さんも決めかねていたから。私が敵なのか、そうじゃないのかの判断を。でも第三者とも言える総司さんの言葉で大分整理出来たようで。やっと口を挟んでくれた。ちなみに千鶴は一さんが刀を牽いた瞬間、大きく息を吐いていた。


「と言う訳で。刀をお返し願いますかね」

「どういう訳だ。駄目だとさっきから言ってんだろ」


この流れに乗って言ってみたのだがやはり彼は甘くなかった。思わず、という展開もなく、逆に流される訳がねぇだろうがと呆れられた。


「あはは。ホント、面白いよね名前ちゃん」

「褒め言葉と受け取っておきますよ」

「うん。でさ、土方さん。彼女に刀、返してあげたら?」

「お前まで何言ってんだ。しかも唐突に」


するとそんな中でとんでもないことを言い出した総司さん。この短い間に二回目となる天地がひっくり返りそうな言葉に呆れた歳三さんとは別に私はついに口を開けてしまった。
だって、考えてもみて欲しい。
コッチに来て最初に刀を突き付けられたのは一さんだったが、それ以降はずっと総司さんが口も含めて私に攻撃していた。つまり初めて彼に会った時から私は刀を向けられっ放しなのだ。


「アレ?土方さん、僕がふざけてるって思ってる?」

「当たり前だ。それに昨日までの自分の態度を考えてみろ。素直に受け入れる方が難しいぞ」

「ちゃんと理由、言ったじゃないですか」

「…それも信用を得る為の演技だとも言えなくはないだろ」

「あーやだやだ、こういう人を疑うことしかしない人。土方さん、友達少ないでしょ」

「なんだと、総司!」

「あー怒ったー図星だから」

「総司!!」


どうやら総司さんは本気で私への刀の返却を求めているらしい。そして、歳三さんも揺れ始めているのが分かる。今はまるで副長と総悟のような口喧嘩を始めたのが証拠だ。そんな二人を私はただ、訝しげな目で見ることしか出来ない。ちなみに一さんは先ほどのことが嘘のように刀をしまい、無表情で総司さんを見つめている。
ホント、ここの人たちは何を考えているかさっぱり分からない。
そんな中。不意に小さな声が遠慮がちに聞こえて来た。


「…あの、…土方さん?」

「…なんだ、千鶴。まさかお前まで総司と同じこというんじゃねぇだろうな」

「えっ、と…そのまさかでして…」


総司さんの後ろからひょっこりと顔を出した千鶴だったが、そう言いながら総司さんの背中に隠れるように顔を引っ込めてしまった。その様子がなんとも可愛らしくて、思わず笑うと歳三さんが私を睨むように見た。


「…お前、こいつらに何吹き込んだんだ」

「呆れた。昨日の夜から今までの私の状況をまさかご存知ないと仰るんで?」


私の部屋は歳三さんの部屋の隣。しかも彼は一晩中私の気配を伺っていたようだから、総司さんは勿論、離れた場所にあるらしい千鶴の部屋などに行く暇もない。と言うかむしろ、総司さん達の変容は私の方が知りたいぐらいなのだ。それを誰よりも分かっている筈の彼のあり得ぬ発言に思わず呆れ全開で言えば、歳三さんは口を噤んでしまった。














私の斬魄刀や如何に。

(あはは、土方さんが言いくるめられてるなんて珍しい。千鶴ちゃん、よーく見て頭に残しておくんだよ)
(余計なことは頭に残す必要なんてねぇ!!)

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