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四楓院さんが話終えた後。
取り敢えず俺の部屋の隣が空いてるからそこで寝ろ、と土方さんに言われた四楓院さんは大人しくはいと返事をして、斎藤さんに促されて大広間を出て行った。そして、その足音が聞こえなくなった所で土方さんに呼ばれた。


『…千鶴』

『は、はい!』

『今まで見た所、あいつはお前に危害を加える様子は一切ない』

『はい』

『だが、これからもないとは言い切れない。だから、なるべくあいつには近付くな』

『で、でも!!四楓院さんはそんなことをするお人じゃあ…』

『殺されてから、じゃ遅いだろ』

『!?そ、そんな…』

『…とにかく。俺らが判断するまで迂闊に二人キリになるんじゃねぇぞ』

『……は、い…』


大広間で四楓院さんの話を聞いた時はとてもびっくりしたけれど、私は何故だか納得したような気持ちになっていた。こんなことを言ったら可笑しくなったのかと沖田さん辺りに笑われそうだけど、最初に見た時から彼女からは何だか違う雰囲気を感じていた。永倉さんや平助君は嘘くさい、と最後まで言っていたが私は信じていいと思っている。それに、あの広間で見た四楓院さんの不安に揺れる目はどうしても忘れられない。ほんの一瞬のことだったので土方さん達も気付いていないようだったのだが、あれはまるで…


「オイ、雪村!!鍋が吹きこぼれているぞ!!」

「え、ぇえ!?大変!!」


そうやって昨晩のことについて考えていたら、今やっていることが疎かになってしまったらしい。味噌汁が入っている鍋の前でお玉を持ってぼーっとしてしまい、吹き零れているのに気付かなかった。
急いで蓋をとってかき混ぜれば直ぐに収まったが、おひたしを作っていた斎藤さんに溜息を吐かれてしまった。


「ぅう…すいません…」

「火を使っているのだぞ。下手をすればこの屯所、全てが焼け落ちる」

「はい…」

「それに火傷をすれば痕が残る。女子がそう簡単に肌を傷付けて利益がある訳がなかろう。気を付けろ」

「…はい。すいません」


屯所の心配をするのは斎藤さんらしいが、まさか私のことまで気を配ってくれるとは思ってなくて、少し驚いてしまった。
だけど。
私は大抵どんな怪我をしたって綺麗に痕もなく治ってしまう。それこそ半刻もかからない。そりゃあ確かに火傷をすれば熱いし、腕を刀で斬りつけられれば痛い。でも、そんなのは一瞬で、直ぐに何事もなかったかのように消えてしまう。昨日の四楓院さんの怪我だって出来れば代わってあげたかった。あんな美人さんなのに痕が残るなんて……あれ?


「た、大変!!四楓院さんの包帯替えないと!!」

「それよりも俺はその大根の方が大変だと思うのだが。味噌汁ではなく切り干し大根にでもするつもりか?」


私は大根のかつら剥きをしていた筈だった。なのに今や私の左手の中に残っているのは、


「い、何時の間に!?」

「それは俺の台詞だ」


里芋よりも小さくなってしまった大根とまな板の上の大量の白い皮を見て、味噌汁の具は大根の菜っ葉にするしかないと一旦手に持っている物を置くと再び小さい溜息が聞こえて来た。


「 …雪村。そんなにあの女が気になるか」

「そ、それは…」


気になるに決まっている。いくら新選組にとって危険人物であっても、四楓院さんはあんな重傷を負っていて、しかも私とほぼ同じ境遇だ。それに千鶴、とあの優しい笑みを浮かべて呼んでくれた四楓院さんが新選組に仇名す存在だとはとても思えない。でも。きっと斎藤さんとか土方さんは私のこんななんの根拠もない話に頷いてくれる筈もない。だから、今、斎藤さんに気になるかと聞かれてはいと答えたとしても、絶対彼女の元へと連れて行ってくれる訳がない。


「…はい」

「ならば、朝食が終わったら連れて行ってやる」

「ですよね……って、ぇえ!?今、なんて!?」

「何故今ので聞き取れぬ」


まさか。斎藤さんから許可が下りるとは思わなかった。今日、と言うかこの短時間で二度目の驚きに危うく大根の菜っ葉ではなく自分の指を切り落とすところだった。それを見越していたのか、斎藤さんは私の右腕を掴みながらそう言って呆れた表情を浮かべていた。




















「オイ。何処へ行く」


朝食後、後片付けも終わると本当に斎藤さんは私を四楓院さんの部屋へと連れて行ってくれていた。そして後数歩で着く、と言うところで背後から声を掛けられた。その声は聞き慣れた声で、斎藤さんにとっては絶対服従が必然の土方さん。そして斎藤さんにしては珍しく四楓院さん面会の許可はとっていなかったらしい。土方さんの登場に若干困っているようにも見受けられた。


「その先は、俺の部屋か…或いは四楓院名前の軟禁部屋か。どちらかしかねぇんだがな」

「その四楓院名前に用があります」

「何の用だ」


それに斎藤さんは私の方を見たので、自分の手に持つ包帯やら消毒剤を見せて口を開こうとした時だった。


「難儀なやっちゃなぁ、土方さんは。一さんは私に用がある言うてるのに、どないしてあんたが聞いてはるんですか?」


音もなく襖が開き、そこから顔を出した四楓院さんによって私の言葉は見事に引っ込んだ。ていうか、私が驚いたのは彼女の言葉だ。昨日話していた限り訛りはなかったはず。なのにすらすらと口から出て来たので思わず目を見開いてしまった。


「部屋から出るなと言った筈だが」

「コレで部屋から出たということになるのでしたら私は息も出来ませんね。一人窒息死しろってことですか?」

「何でそうなるんだよ。そうは言ってねえだろ。ていうか一人窒息死ってなんだよ」

「何でって、私の吐いた息は部屋の中だけで収まりませんからねぇ。いくら一番障子から遠いところで吐いたとしても必ず微量は外へ出ます。一人窒息死とは息を止め続けて死ぬまで自分を痛め続けるドMなさっちゃんがやってた遊びです」

「屁理屈以外何物でもないな。ていうかどえむってなんだ?」

「おいで、千鶴。包帯替えてくれるんやろ?あ、一さんもどうぞ」

「オイ、聞けよコラ」

「あ、はい!!」

「はいじゃねぇ!!お前もなにつられてんだ、千鶴!!」

「す、すいません!!」

「…ほんま、難儀なやっちゃなぁ…」


昨日から思っていたことだが、四楓院さんは凄いと思う。土方さんの刺すような視線をゆるりと交わし、物怖じせずに彼に言葉を返し、更に私に名字じゃなくて名前で呼んでと微笑む様は何だが年齢に見合わず年長者のような錯覚を覚える。恐らく二十歳過ぎであろう彼女と私は歳の差はあるが同じ女性としてあの落着きは見習いたいと憧れてしまう。


「違うぞ、雪村。アレは単に副長に楯突いているだけだ。言わば、総司のしている揚げ足取りや悪戯となんら遜色ない」

「そうなんですか!?…って、え!?な、なんで…」

「分かったのか、と聞きたい様だが、殆ど声に出ていた」

「ぇえ!?ど、どうしよう!!私何かマズイことを…」


そうやって慌てふためいていれば、不意に頭にポンと手が乗った。


「四ほ…名前、さん?」

「人間らしい反応をするね、千鶴は」

「え、…?」


どういう意味なのだろう。素直な反応だと言う意味でいいのだろうか。そう思っていると、彼女はにやりと笑って土方さんの方へと顔を向けた。


「あんな、いつも怒っている鬼みたいな奴とは違って」

「上等じゃねぇか、コラ。こちとら京では鬼の副長と呼ばれてんだよ」

「あはは。土方と名の付くお方は何処へ居てもそう呼ばれるのですね」


ウチの副長もそう言われておりますよ。名前さんがそう言った瞬間、私にも分かるぐらい空気が張り詰めた。だけど、やはり彼女は表情一つ変えず。私の頭から手を離して襖をすっと開けると、にっこりと微笑んだ。


「…何の真似だ」

「私に聞きたいことがおありなのでしょう?」


私は土方さんの驚いた顔をあまり、というか全く見たことがない。気配とか殺気とかで察知が出来るから後ろから驚かされる事はないだろうし、沖田さんを除いてまずそんなことをする人がいない。それに、土方さんは冷静沈着で私なんかよりよっぽど頭が良いから何でもお見通し何だと思う。
だけど、今は名前さんの言葉に土方さんは驚いたような顔をしている。また、斎藤さんも同様に。


「何故分かった、と言うベタなセリフが出る前に言っておきましょう。土方さん、貴方は昨夜、結局一番お聞きになりたかったことは仰らなかった。それどころか、早々に一さんに言って私を広間の外へ出し、まるで総司さんや他の人達から遠ざけているかのようだった」

「…どうとでもとれるな」

「そうですねぇ…では、率直に申し上げましょう。何故貴方は私と私の世界の浪士との違う点をお聞きにならなかったのですか?」


名前さんと、名前さんの世界の浪士との違い?確か、昨日聞いた限りそんなモノはなかったはずだ。でもその浪士から例の話を聞いてるのは土方さんだけ。きっと土方さんにしか分からないような違いがあるのだろう。そう同意を求めるように斎藤さんを見上げたのだが、まるで土方さんと同じように眉間に皺が寄っていた。


「…斎藤、さん?」

「一さんがそのような反応になるのは当然ですよねぇ。彼は異世界浪士のことを聞かされていたのですから」


だから、先ほど貴方にもどうぞと言ったのですよ。

…『おいで、千鶴。包帯替えてくれるんやろ?あ、一さんもどうぞ』

確かに言っていた。あの時は何も思っていなかったが、一言にそんなことが含まれていたなんて。そして土方さんと斎藤さんのお顔を見る限り、名前の言うことは決して間違ってはいないことを示している。そう思って今日何度目か分からない驚きを顔に浮かべると、再び彼女の手が私の頭の上にぽんと乗った。





















まさか考えてること全てが。

("私ね。小さい頃周りに関西方面の方言喋る人が多かったのよ")
(ただ一瞬、疑問に思ったことなのに)
(笑顔でそう言われたので、そんな突拍子もない考えが頭を過った)

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