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死神だそうだ。





一言で言えば「そんなこと信じられるか」、だった。日頃からふざけて天国や地獄など死後の世界を仮想した言葉を口にすることはあるが実際には信じていないことが前提だ。死ねば全ては無と還る。死後の世界でも自分の意識があり生前とほぼ変わらない生活を送れるなど誰が考えたか。いや、考えた奴はいるかもしれない。だが、それを本気で信じ込む奴がいただろうか。
けれども、こいつは、今目の前に行儀良く正座をし、淡々と話をする四楓院は、それら全てを見事に否定した。
死後の世界があると言う。しかも、その世界で生まれる奴もいるという。それはもはや幽霊なのかなんなのか。頭が混乱しないという方がどうかしてる。現に隣で一緒に聞いている総悟も珍しく眉間に皺を寄せている。


「理解するのには少し時間がかかるでしょうね」


退も酷く苦労してましたよ。
その言葉で苦笑を漏らしたのは四楓院の斜め後ろで心配そうな顔をしていた山崎だ。山崎には随分前、真選組に入隊してから数ヶ月後には話したらしい。どうやら山崎には隠し通せないと早々に見切りをつけた四楓院は、ワザと自分が違うという所を見せるように仕向けて、話したらしい。百聞は一見に如かず。まず視覚的に衝撃を与えて、説明を付けるとはかなりの荒技だが、信じざるを得ないだろう。こいつの話には常に論が通っている。恐ろしいぐらいに。


「…それでお前のその戦闘技術は、」

「向こうでは上位席官ならば普通の事です。むしろこれが出来ないと命取りとなります」

「その刀は」

「各個人の魂と深く関わるものです。総称を斬魄刀。その持ち主が斬魄刀の名前を呼べば形を変え、能力を発揮します」

「…それがお前の場合は、薙刀だって言うわけか」

「ええ、そうです。実際にお見せしましょうか」


そう言えば、徐に刀を抜き【遊べ 風車】と呟いた。刹那、風が舞い上がり、思わず顔を手で覆う。が、直ぐにそれも止み、手を外した時には既に一本の薙刀に変わっていた。


「…綺麗な薙刀だな」

「ありがとう、総悟」


素直な総悟の感想が案外嬉しかったようだ。お礼を言って笑った四楓院の顔は初めて見る満面の笑みだった。


















ー 死神だそうだ ー


















あの後、やはり襖ごと投げ飛ばしたのは良くなくて。その音で隊士がぞろぞろと集まり始めていた。夜と言うこともあり良く状況が見えずに目を凝らしていた彼らが、漸く目が慣れて把握した瞬間の驚愕の表情は傑作だった。アレは私の人生の傑作表情ベスト5には入る。彼らは何も最初からいたわけではないが、最後副長が刀を下ろすより前にはいた。つまり、私に切っ先を向ける副長の様子を捉えたわけで。そりゃあ驚くだろう。ざわざわとうるさかったのを良く覚えている。
だけど、彼らも私達の雰囲気が痛いぐらいに張り詰めているのに気付かない程馬鹿ではない。直ぐにざわめきを止め、息を潜めて見守る態勢に移していた。そして、最後の副長の一言と私の土下座が終わるや否や、いつからいたのか総悟が隊士達を蹴散らしていた。勿論、明日の朝の定例会で説明する、と付け加えて。
そして、今がその定例会の真っ最中。いつも通り八時に始まり、総悟は当然遅刻し、副長が一日の予定を話し、局長が最後の一言を言う。そんな感じで終わりを迎えかけた頃、不意に総悟がそう言えばと手を上げて隊士達の注目を集めた。


「近藤さん、ちょっといいですかィ?」

「どうした。何か言い忘れたことでもあったか?」

「それ程大したことでもないんですが、名前は死神だったらしいんでさァ」

「おお、そうか。みんな聞こえたか?名前は死神だそうだ。何かあったら名前に言うんだぞ。他に、何か連絡のある奴はいるか?」


オイ、ちょっと待て。こいつ今とんでもない事言ったで。
だが、隊士達はありませーんと局長に返し、なら解散にするかーと局長が呑気に呟く。しかし、そんなやりとりが続いた約三秒後。隊士達の動きが不自然に止まった。




「「「「「死神ィィイイ!?」」」」」



「なんでィ、そんな驚いて」


彼らが至極普通な反応だ。副長と局長も一緒に驚いている。だけど総悟は煩そうに耳を塞いだだけで、定例会を開いていた大広間から出ようとしている。


「い、イヤイヤイヤ!!沖田隊長!?」

「なんでィ、涼。そんな騒いで」

「丸投げですか!?」

「だから言ったじゃねぇか。死神だって」

「だから、その死神ってのがなんだかを…」

「名前は元々死後の世界、尸魂界の住人だったけど、訳あって俺ら人間の世界に降りて来たのが、約一年前。名前の並外れた戦闘能力は尸魂界で培ったもので、向こうじゃ普通に身に付くものらしい。ちなみに年齢は軽く五百を超えてる。ついでに言えば言霊を操り、手からカメハメ波が出たり、金縛りが使えたりする」


何かわかんないことがあるならザキに聞け。昨日の夜、かなり時間をかけて説明し納得させたことを見事さらっと一言でまとめ上げた総悟は、最後にそう付け足すと、刀を持って今度こそ大広間を出て行ってしまった。

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