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今、いる世界。肆





『…へ?』

『なんじゃ。おぬし喜助の資料を読まんかったのか?自分でも調べてたようじゃったが…』

『ううん。ただ、ちょっと実感なくて。その…自分が、』

『拉致対象だ、と言うことにっスか?』

『そうそう。だって、そんなに弱く見えるの?私って』

『逆っスよ』

『どういうこと?』

『渡した資料にあったでしょう。春雨第零師団の目的は、組織の害になるモノの抹殺と組織の利益となり得る実力者の、』

『引き抜き、という名の拉致』

『分かってるじゃないっスか。名前さん、貴方のその実力は春雨にとって害をもたらすモノではなく、味方にしたいと思われる程、ということっスよ』



…「…なんて迷惑な話だ」


だったら抹殺の方が良かった。ただ戦うだけだから。しかも相手は殺しに来ようとしてる訳だから、こっちの殺しにも正当性が望める。だけど、誘拐となると少し違う。生け捕りだから多少の手抜きが生じる。頭の中での駆け引きも加わる。面倒なことこの上ない。


「四楓院、いるか」


そうやってつい昼頃の会話を思い出していると不意に襖の向こうから声を掛けられた。卍解を止められた後、夜一と二人で銀時と桂の天人組手に参加し、地上へ戻って来た。夜一は久々の実践に嬉しそうにテンションが上がっていたが、私は連日連夜の戦闘で体力の限界。あれだ、銀時に使った回道が一番効いた。なので着いた瞬間、夜一の背中に倒れこむようにして寝た。で、気付いたら自分の家で。起きた私と喜助、夜一と交わした会話が冒頭のだ。銀時は鉄裁の治療を受けて現在新八の家にて絶賛療養中。私も彼らとの話を終えて夕方頃、ひっそりと屯所に帰って来た。そこで義魂丸で入れ替わった義骸に私がいない間の事を聞き、お礼を言ってから義骸へと戻って夕飯を食べ、お風呂に入り、さぁ色々と整理しましょうか、とパソコンを開いた所で呼ばれた。ちなみに今は夜の十時過ぎ。良い子の真選組隊士は各部屋で夜遊びを開始する時間だ。


「はい、今開けますので」


と言って襖を開くと、浴衣を纏った副長が立っていた。だが、腰には刀が差さっている。何故屯所内でしかも私の部屋に来るのに武装をする必要があるのだ、と若干疑問を抱きながら副長も入ったので部屋の襖を閉めた。

…が。次の瞬間、襖ごと吹っ飛ばされた。

何が起きたか一瞬理解出来ず、というかまさか人間に吹っ飛ばされたことに呆然としていると、殺気を感じて我に返り、同時に眼前へと突き出された刀を指先で止めた。


「…昨日の夜、お前何処で何をしていた」

「何故そのようなことを。その時間、私は資料室におりましたが。貴方にも一声掛けたでしょう」

「夜の川遊びは俺の見間違いか?」


…ああ、そうか。


義骸には私の入れ替わりと同時にとある調べ物をさせていた。だから、その時間資料室へと向かったのは本当の話だ。だけど、所詮義骸。副長室からかなり離れた資料室からでは人間の霊圧を探るのは困難だろう。報告に副長が夜な夜な屯所を出たらしいというものがなかったのは納得だ。

多分、見られた。

どこの場面を見られたかは分からないが、なんの予告もなしに刀を向ける程のものは見られたのだろう。だが、こちらだって幾つかの保険はかけている。


「…お一人で私に無断でお外に出られたのですか?」

「はぐらかすな。質問に答えろ」

「答えなら最初に貴方へお伝えしましたが」

「嘘つくんじゃねぇ」

「ならば。他の隊士に確認をお取りになって下さい。私はその晩、資料室で終と、その帰りに新七と会っています。川遊びなどしておりません」

「いや。あれはお前だった。俺が間違える筈がねぇ」


何故、どうしてそこまで確信を持って言える?
私は死神としている時は普段の雰囲気から掛け離れている筈だ。退に初めて見られたあの時にそう言われた。有無を言わさぬ威圧感があって、まるで貴族の人が喋ってるみたいだった、と。
なのに、どうしてこの人はアレを私だと判断出来るんだ?
そうやって私が眉を潜めながら内心首を傾げ、副長も黙って睨みつけながら尻餅を着いている私に刀を向け続け、いく分か沈黙の時間が過ぎた時だった。


「……護るべき人を後ろに庇い、敵に向かう姿。何度、その背中を見たと思ってる」


……え?

まさか、今現在進行形で刀突き付けている人がこんなことを言うだろうか。想像だにしてなかった言葉が耳に入り、その意味を理解した瞬間、目を見開いてしまった。そして、その驚きは立て続けに来た。




「……いい加減、隠すのはやめろ」





刺すような視線は一転。刀も引き、何処か悲しみを湛えた目に私は何も言えなくなってしまい。そんな彼の言葉にふと松平長官の言葉が頭を過った。

…『今いる世界を理解しろ』

最初に長官に全てを打ち明けた時、真選組の隊士全員にも伝えた方が良いと彼に言われたが私は断った。隠し切れる自信があったし、何より死後の世界を認識させるのが面倒だったからだ。そう理由を伝えると上の言葉を言われたのだ。その時は意味が良く分からず適当に返事をしておいたが、それが今漸く分かった。
無理なのだ。どう頑張ったって、私の戦闘や立ち振る舞いは人間と掛け離れてしまう。自分は上手く隠したつもりでも、一度疑問を持ったら中々それは消えない。人間と少しでも異なると目立ってしまう。そういう世界なのだ。人間の住む現世は。特に天人が蔓延るこの現世はそういうのに敏感になってしまったのだろう。


「…今、いる世界…か」


私の考えも大概甘いな。自嘲気味に笑って呟くと、副長に頭を下げた。



















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